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2.わたしが勇者?

「ようこそ、異界からの客人よ。わたくしはルエリアの女王、ローズマリー・シェルレッド・ルエリアと申します」

「は、はじめまして! さ、佐々木リエです! あ、あ、えっと……」


 今、目の前にいるのはとてもきれいな……それこそ、昔読んだ童話の中でしか見たことのないような美しい女王様。

 おまけに、わたしの隣にいるのはこれまたとてもきれいな人であるクオーリアさん。

 正直……髪がちょっとだけきれいだね、と褒められたことが数回あるかないかのわたしとは天と地の差がある。

 そんな人達に囲まれて、わたしはちょっとどころじゃなくかなり緊張してしまっていた。


 だから、女王様が言った「とんでもない頼みごと」の内容なんて、これっぽちも聞いてなくて。


「では、リエ殿。あなたには、これから我が国の【勇者】として旅立ってもらいますが……よろしいですか?」

「はい――……って、え?」


 気付けば、何故か承諾の言葉を言ってしまっていた。


***

「あ、ま、待ってください! 勇者? わたしが? ど、どういうことなんですか!」


 わたしは慌てて、目の前の女王様に尋ねる。

 でも、女王様はとても素敵な笑顔を浮かべながら、こう言った。


「どうって……そのままの意味ですわ。リエ殿、あなたはルエリアの【勇者】となったのです」

「む、無理ですそんなの! わたし、ただの女子高生だし……」


「リエ殿。あなたは先ほど、わたくしの問いに対してはっきりとご承諾の言葉をお言いになられたでしょう?」

「その、あれは、実はわたし全然話の内容を聞いてなくて、」


「あなたからご承諾の言葉を受けたからには、わたくしはあなたを【勇者】として送り出す責務があるのです」

「いや、その……っ!?」


 わたしが慌てて反論しようとすると、広間に入ってからずっと黙っていたクオーリアさんが口を開いた。


「陛下、まずは勇者様に説明をするほうが先かと」

「ふむ……それもそうですわね。では、詳しい説明はフォムス大臣からお願いしますわ」

「はい、陛下。よろしいですか、勇者様?」


 た、助かった……いや、実際には全然助かっていないんだけど。クオーリアさんに心の中でお礼を言って、わたしは再び前を向いた。

 わたしが話を聞く態勢に戻ったのを確認すると、女王様の隣に控えていた白いお髭のおじいさんがわたしに向かって訊ねる。

 わたしは、首を縦に振りおじいさん……フォムスさんの言葉を待った。


「では、まずこの世界のことから。そして、何故【勇者】が必要なのかということから……」


 フォムスさんの話はこうだった。


 この世界、アーデルベルトは二つの大国とたくさんの小さな国に分かれていること。

 国々同士の間は仲がいいとは言えないまでも、争いもなく平和だということ。

 しかし、最近になってこの平和が脅かされているということ……。


「事の発端は、魔王が「世界征服」を宣言したことにあります」


 魔王。

 それは、【闇の国フェンネル】を統治する王の事。


「フェンネルは、前王が病に倒れた直後、すぐにご子息が後を継いでおられますが……この方がとんでもない変わり者でして」


 新しく魔王が就任した人はとても乱暴者で、戦いを好み、狡賢い人……そして、何よりも暇を嫌い……。

 そして平和な世界の中、とうとう暇をもてあましてしまった魔王は「世界征服」を宣言してしまったらしい。……暇つぶしのために。


「……これが、私達が【勇者】を必要とする理由です」

「えっと……勇者に、この魔王を倒してもらおう……っていうことですか?」

「その通りです」


 なるほど……って、何がなるほどなのか。


「……で、わたしにその……魔王を、倒せと?」

「いいえ、リエ殿にはそこまでしていただかなくて結構です。ただ、我が国の【勇者】として旅立ってほしいだけなのです」


 ……え?


「倒さなくて……いいんですか?」

「ええ、そんな事は他の【勇者】に任せて置けばよいのです」

「……じゃあ、わたしは行かなくていいんじゃ……」


「そういうわけにも参りませんの」


今までずっと黙っていた女王様が口を開き、私を見る。


「他の国は、大勢の勇者を闇の国へと向かわせているのです。もしルエリアだけが【勇者】を送り出さなければ……我が国の評判は地に堕ちるでしょう。……そう、これはただ魔王を止めればいいだけの話ではなく、我が国の体面やプライドなどが掛かっているのです!」


 女王様は何やらわたしをじっと見つめ、ものすごく熱い口調で語っている。


「しかし! しかしです! 我が国の民からは一人も勇者志願者が出なかったのです! ええい全く腹立たしい!」


 女王様、さっきまでの涼しげな雰囲気がどこにもありません!

 わたしが戸惑っていると、隣にいたクオーリアさんがこっそりと「こんなのは、日常茶飯事なのでお気になさらず」と言ってくれた。……お気になさらずと言われても。


「そこで! そこでわたくしは決めたのです!」


 急に女王様がこちらに振り向き、ビシッと指をわたしに向けて突き出した。


「もはや、民には頼ってなどいられないと! 臆病な民が勇気を出すのを待つより、異界から勇気ある人物を呼び寄せようと! そう! リエ殿、それがあなたなのです!」


 女王様はそこまで言い切ると、まるで全力疾走したように顔を真っ赤にしながらぜーぜーと息を吐いた。

 そして、フォムスさんから水の入ったグラスを受け取ると一気に飲み干して呼吸を落ち着かせて……次の瞬間、驚愕の言葉をわたしに向かって言い放った。


「ところでリエ殿。あなたが【勇者】として旅立たないというのなら、あなたを元の世界へと帰してあげられないのだけれど……」


 ……え?


「えぇええええ!? ど、どういうことなんですか女王様!」

「どうもこうも……そのままの意味ですわ。あなたが【勇者】として旅立たないというのなら、わたくし達はあなたを元の世界へと帰すことができない……」

「な、何でですか! どうしてですか!?」

「それが、あなたを【召喚】した時の契約内容だからよ」

「け、けいやく……? で、でもどういう事情があろうと、いくらなんでもそれは横暴なんじゃ、」


 わたしが反論の言葉を言おうとすると、何やらすごい威圧感が女王様から発せられた。

 女王様は笑っているはずなのに、何故かすごく怖い。怖い、すごい怖い。女王様の後ろに大きな鬼が見える。

 そんな女王様を見てしまい……わたしは、そのまま一言も反論出来ず、その場に座り込んでしまった。


「……受けてもらえますね?」


 そんな女王様の笑顔(+威圧感)に気圧されて、気付けば私は。


「……は、はい……」


 と、承諾の言葉を言ってしまったのだ。涙目で。


 ああ、故郷にいるお母さん。

 わたしは、これから一体どうなってしまうのでしょう?

キャラ紹介


佐々木リエ

16歳の高校二年生。

性格はいたって普通で、真面目な常識人。少々押しに弱いところがあり、泣き虫。

容姿は黒のセミロングで、黒い眼。どこにでもいそうな普通の子。

運悪くアーデルベルトに召喚されてしまい、勇者として旅立つことに。

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