1.異世界へようこそ
おかしいな。
確か、わたしは部活が終わって学校を出た。
そして友達と別れて、家に帰ろうとした途中だったはずなのに。
どうして、気づいたら目の前に真っ白な天井が目に入ってるんだろうね。
ゆっくりと身を起こした。
わたしが眠っていた場所は、どうやらベッドのようだ。しかも豪華な天蓋付きの、まるでお姫様が眠るような白くてフワフワなベッド。
それを確認すると、今度は辺りを見回す。
白を基調とした、少しだけの家具(でもそれら全てが豪華だ)が置かれた小さな白い部屋。ところどころに置かれた、バラの赤が引き立ってとても美しい。
ここまで確認して、わたしは自分の家を思い出す。
わたしの家は一戸建て。しかもお祖母ちゃんの時代に建てられたようなものだから、木造でボロボロ。色だって白というより茶色だし。わたしの部屋には、無駄に大きい本棚と机があるだけで眠るときは布団。こんな豪華な家具はないし、もちろん天蓋付きのベッドだってない。
……ここは、一体どこなんだろう?
「お気づきになられましたか、勇者様」
突然、どこからか声がした。
わたしは慌てて辺りを見回す。すると、扉のほうにきれいな女の人が一人、立っていた。
「おはようございます、勇者様。御加減はいかがですか?」
「え、いや、あの……」
女の人はこっちに近づき、わたしの様子を伺っているようで……ていうか、ゆうしゃさま?
「どうかなさいましたか、勇者様?」
「いえ、えと……あなたの名前は? ここはどこですか?」
女の人はあぁ、と言って一度頭を下げると自己紹介を始めた。
「申し送れました。わたくし、ルエリア国宮廷魔術師長オットー・ファストの一番弟子、クオーリア・アルベルマと申します。どうか以後、お見知りおきを」
「え、あ……さ、佐々木リエです……よ、よろしくね?」
わたしも、頭を下げて自己紹介をする。
女の人……クオーリアさんは、わたしに向かってもう一度深々と頭を下げた。
「では勇者様、早速で悪いのですが女王様にお目通りのほうを。先ほどの質問に対する回答は、歩きながらになりますが、よろしいでしょうか?」
「う、うん……」
***
わたしはクオーリアさんに連れられ、真っ白で豪華な廊下を歩く。
廊下を歩きながら、クオーリアさんが説明してくれたこと。
まず、ここはアーデルベルトという世界で、ここはアーデルベルトにある国の一つ、花の国ルエリア。
そして、何故わたしがここにいるかということ。それはわたしが【召喚】されたから、らしい。
……全く理解できないけれども、どうやら事実みたいで。
「えっと、どうしてわたしが【召喚】されたの? 事故?」
「……その説明は、わたくしの口よりお師匠様からされたほうが理解できるでしょう……着きました【謁見の間】です。どうぞ」
クオーリアさんが、わたしの目の前にある大きな扉を開く。
わたしは、大きな不安に駆られながらその扉が開くのをただ黙って見ていた。