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9.勇者の資格

短めです。

 カッパーが逃げた後、その場は静寂に包まれた。

 わたしは情けないことにまた腰が抜けて動けないし、わたしがしがみついていたユリウスさんも動かないままだ。


 …………。


 う、うわぁあああこれ絶対怒ってるよね、ユリウスさん怒ってるよね!?

 だ、だってカッパー逃がしちゃったのわたしだし……。

 正直、何か話そうにも話せないし……うぅ、気まずい。


 そんな気まずい空気の中、突然ユリウスさんがわたしに目を向ける。

 思わず、動けなくなるわたし。


「……なぜ、止めた。奴は放っておいていいレベルの魔族ではなかったはずだ」


 冷たい、声。

 わたしは何も言えなくなり、俯いた。


「もし、再びあの魔族が襲撃してきたらどうする。俺達はいつまでもこの町にいるワケじゃないし、そもそも勝てるかどうかもわからないんだ」


 わたしは俯き、無言のままだ。……正直、何も言えない。


 ユリウスさんはため息を吐くと、真っ直ぐにわたしを見つめてこう言った。


「……君は、勇者にならない方がいい」


 わたしは、何も言えないままだった。


***

 あの後。

 ユリウスさん達は次の目的地があるから、と言って早々と荷物をまとめてこの町から旅立った。

 ルシールさんやガイラーさんと簡単な言葉を交わして、和やかに別れた。


 だけど、ユリウスさんはわたしにあれ以外の言葉はかけなかった。


「へこむなぁ……」


 自分では分かっているつもりだ。「勇者にならない方がいい」ことを。

 でも、勇者にならなければわたしは元の世界に帰ることは出来ない。


 それをユリウスさんに説明すればよかったのかもしれないが、彼らは別の国の「勇者」だ。

 わたしの事情など、どうでもいいことだろう。

 それに、これとそれとは話が違う。

 わたしは【勇者】なのに、敵である魔族を逃がしてしまった。

 勇者失格と言われても当然だ。


 そこまで考えて、ため息を吐く。

「……勇者様、大丈夫です。勇者様には、勇者様の事情や考えもあるのですから。他人の言うことなど気にせずともよいのです」

「うん……」


 慰めてくれているのかな。

 でも、ごめんね。今は全然嬉しくないや。


 思わず顔を伏せる。 今の情けない顔を、ジェイちゃんに見せたくはない。


「勇者様……」

「……心配いらんぞ勇者、俺がお前を守ってやるからな!」

「へ?」


 驚いて、思わず顔をあげる。

 そこには、明るい笑顔のエルノさんがいた。

 ……一体、その自信満々なオーラはどこからでているんですか。


「俺がこれから先、遅い来る魔族達から勇者を守ってみせよう」

「あの、それって……」

「仲間に入る、という意味で言ったんだが」


 あ、やっぱりですか。

 ……でも、戦力が増えることは純粋に好ましい。

 ジェイちゃんは魔法専門で後衛だし、わたしは戦力外だ。

 前衛、しかもそれなりに強い人が仲間に加わってくれることは願ってもないことで。


「……それじゃあ、よろしくお願いしま……」

「私は反対です! 勇者様、このような変態の言うことに耳を貸すことはありません」


 わたしが何かを言う前に、ジェイちゃんに遮られる。

 ジェイちゃん……そんなに反対なのか。


「お、落ち着いてジェイちゃん。確かにエルノさんは少し変わってるけど、強いよ?」

「ですが……!」


 冷静なジェイちゃんが珍しく、顔を赤くして怒っている。

 とりあえず、まずは彼女を説得しなくちゃいけないようだ。


***

「……勇者様、やはり考え直しませんか?」


 泊まっている宿の食堂で、ジェイちゃんは横に座っているエルノさんを睨みつけながら言った。

 それに、わたしは困ったような笑顔を返す。


 あの後。

 エルノさんに実力があることや、このまま二人で旅を続けるには厳しいこと、そもそもわたしが戦力にならないこと(一番重要)を説明して、何とかジェイちゃんに納得してもらった。

 エルノさんに実力があることはジェイちゃんも認めていたし、このままでは厳しいことはジェイちゃんにもわかっていたのだろう。意外にもすんなりと納得してもらった……まだ半分は認めていないようだけど。


 そして、十歳児とは思えない威圧感を放っているジェイちゃんに、鋭い眼光で睨まれても平然としているエルノさんは、のんきにクッキーを食べていた。


「お、美味い。すみません、おかわりください!」


 紅茶のおかわりまでしている。


「……そこの変態。勇者様に何かしようとしたら、その場で氷漬けにしてさしあげますので、覚悟しておいてください」

「はははは、これは手厳しい一言だな」


 ジェイちゃんはそれだけ言うと、もうエルノさんと話すのもイヤなのかそっぽを向いて、自分の前に置かれたココアに口をつけた。


***

 暗い、海の底。

 カッパーは生き残った数人の魚人たちと共に、海の底にある岩で出来た城のような場所にいた。

 そしてカッパー達の目の前には水色の美しい髪に、金色の瞳を持った人魚がカッパー達を睨んでいる。


「町を一つ落としてくると言っておきながら、この不甲斐ない結果をどう説明するつもりだい?」

「す、すまんルドュテ! こんなつもりじゃなかったんだ、ただルッコラに思いのほか強い人間がいて……!」

「言い訳は聞かないよ」


 ルドュテと呼ばれた人魚は、カッパーの言い訳を一蹴する。


「強かった、なんて言い訳が魔王様に通じると思うかい? ヘタすりゃアタシとアンタ、二人揃ってお陀仏さ」


 その柔らかな眼差しの美貌には似合わず、辛辣な言葉を並べていく人魚。カッパーの顔も段々と渋いものになっていく。


「じ、じゃあどうすんだよ! このままじゃいくらなんでも……」

「慌てるんじゃないよ! いいかいカッパー、アタシもこのまま終わらす気はないさ。ただ、その為には時間が必要だ」

「じ、時間?」

「ああ、まずはたっぷりと時間を取って……それからでも、アンタを負かしたヤツらの首を取るのは遅くないさ」


 ルドュテは、金色の瞳に獰猛な光を称えながらニヤリと笑みを浮かべた。

キャラ紹介


ユリウス・ゼーフェリンク

20歳。帝国より送られた「勇者候補」の一人。

金髪碧眼の美青年で、剣を振るう姿は正に「勇者様」に相応しい。

冷静であまり表情を表に出さないが、意外と気が短い。


ガイラー

31歳。トカゲの獣人(一般的にリザードマンと呼ばれている)で、フリーの傭兵。

アイビーグリーンの、リザードマン特有のゴツゴツとした皮膚を持つ。武器は槍。

穏やかで面倒見がいいが、他人に振り回されやすい性質。


ルシール・スレート

26歳。帝国に所属する魔術師。火と熱の魔法を得意としている。

浅黒い肌と水色の瞳、ポニーテールにしたオレンジの髪が特徴。ついでにスタイルもいい。

明るく、サバサバした性格の姉御肌。意外と豪快。

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