ジョバンニの告白
先程までの一連の流れでロームのスキルの実力は確認した。
万が一戦うことになっても対応策を練ることは出来る。
しかし、今すぐ殺しにかかられたら対応は難しいだろう。
「……」
「安心しろ。お前を捨てた訳では無い」
何も言わないロームを見て、ジョバンニが口を開いた。
「な、ならば何故……」
「……自分自身の意思で、彼等に味方すべきと考えたからだ」
ジョバンニはロームへ手を差し伸ばす。
「ローム。私はお前と敵対したくない。こちらに来てくれないか?」
「……」
ロームは何も言わない。
かと思うと、次の瞬間ジョバンニの眼の前に姿を現した。
スキル『神速』か。
「っ!?」
そして、何も言わずにジョバンニに剣を振るう。
「くっ!」
そして、ジョバンニもそれをなんとかいなした。
あの咄嗟でいなせるのだから凄い。
「……私は裏切り者にはならない。……見損なったぞジョバンニ。王国を裏切るとは……」
「待て! お前と戦う意思は……」
「ならば潔く死ね! そしてお前を殺して私も死ぬ! 私の中のジョバンニは私を裏切らない! 国を裏切ったりしないんだ!」
ロームは多少正気を失っているように見えた。
怒りに任せて絶え間ない攻撃を繰り出している。
が、ジョバンニはそれをいなし続けている。
(凄い……)
ジョバンニはロームと共に研鑽を積んできたという。
ならば、ロームの攻撃が次どう来るかも予測がついているのだろう。
しかし、それだけでは説明がつかない気もするが……。
(あぁ……成る程)
観察していて気が付いた。
ロームは攻撃する際は通常の速度なのだ。
つまり、移動等の行動は『神速』で加速出来るが、攻撃はスキルの対象外なのか。
だからジョバンニも辛うじて対応できている。
そういう事か。
「話を聞いてくれ! 頼む!」
「うるさい! 黙れ!」
ジョバンニは攻撃をいなしつつ必死に声をかけ続けるも、ロームはそれを聞かない。
「くっ……仕方無い!」
ジョバンニは距離をとって剣をしまう。
「覚悟を決めたか!」
「あぁ! 今、決めた!」
ジョバンニは物怖じすること無く、仁王立ちしている。
あれでは躱す事は出来無い。
(おいおい! どうするつもりだ!?)
すると、ロームの姿が消える。
つまり、『神速』で移動したのだ。
「ジョバンニさん!」
「……」
しかしジョバンニは動かない。
そして、口を開いた。
「私はロームの事を心の底から愛している!」
「っ!?」
気が付けばジョバンニのすぐ目の前にはロームが現れていた。
その切っ先はジョバンニの喉に。
かすかに触れて血が出ていた。
が、ロームの動きは完全に止まっていた。
「な……な……」
そして、ロームの顔はその髪色のように真っ赤であった。
「こう言えば、お前は動きを止めるだろ?」
「え?」
すると、ジョバンニはロームの腕をつかみ取り押さえる。
剣を奪い取り投げ捨て、見事組み伏せて見せた。
「おぉ……」
鮮やかな一連の動きに思わず感嘆した。
(しかし……何故避けなかった……『危機予測』で分かっていただろうに)
その答え合わせは後で聞けるだろう。
ジョバンニはロームを縛り上げていた。
なにはともあれ、今はこの場の離脱が最優先だな。
「佐切様! 敵が動き出しました!よ」
「やはりか! よし! ジョバンニさん! 離脱しますよ!」
「承知した!」
ジョバンニはロームを抱えて走り出す。
敵軍の動きはまだ本格的ではない。
それに、事前の打ち合わせもあるからな。
走れば間に合う筈だ。
「全軍! 前進せよ!」
敵軍の号令が聞こえてくる。
俺やジョバンニさん、ロームを狙ってか。
「よし! 今だ!」
俺は『念話』でサティスに合図を飛ばす。
まだ安全圏ではないが、この距離なら大丈夫な筈だ。
すると、要塞の兵器が動き出した。
それと同時に敵の騎馬隊も近付いてくる。
「よし! なんとか間に合った!」
俺は避難壕になんとかたどり着く。
そこには、万が一の為に控えていたフィアナとレナがいた。
「佐切様! 良かったです……」
「怪我してない?」
「あぁ。大丈夫だ」
すると、程なくしてロームを抱えたジョバンニも飛び込んでくる。
そして次の瞬間、先ほどまでいた場所に大量の石や矢が降り注いだ。
俺たちを追っていた敵の騎馬隊はあの中だ。
「ふぅ……間に合ったか……」
「すいません。でも、ギリギリでした。敵の騎馬隊が目と鼻の先でしたから」
「えぇ……我々がここにたどり着いてから合図を出していては皆殺されていたでしょね。それよりも……」
ジョバンニに抱えられたロームは顔を真っ赤にしたまま気を失っていた。
「まぁ、後は任せてください」
「……えぇ、任せます」
ロームについては、ジョバンニさんに任せたほうが良さそうだ。
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