死の恐怖
矢は確かに真っ直ぐ、背後からゴルドーの首へと向かっていった。
そのまま当たれば、確実に勝利はこちらのものだった。
そう、当たれば。
「な……」
矢の軌道のその先に割って入る者があった。
「ぐっ……」
「身を挺して……だと……」
第六騎士団の兵の一人がゴルドーを庇ったのだ。
本来ゴルドーの首に刺さる筈の矢は雑兵の喉元に突き刺さっていた。
「すまねぇ……アン……帰るって……約束……」
「……あ」
その男の言葉は聞こえなかった。
だが、そう聞こえた気がした。
「あの顔は……」
その兵の顔は確かに見覚えがあった。
王都で過ごした数日で、確かに共に過ごした事があった。
確かに、その顔見知りが、こちらを見ていた。
「……あ、あぁ……」
その兵はその場に倒れ、ピクリとも動かない。
当たりどころが悪かったのか、既に息はないようだった。
それを示すかのように、彼の瞳には生気が無かった。
「さ、佐切様! しっかりしてください!」
「……」
彼は決して悪い人間ではない。
それどころか行き場の無かった自分に非常に良くしてくれた良い人であった。
いいや彼だけではない。
今殺し合いをしている第六騎士団の人間全てが親切で、良く見れば見覚えのある顔が多い。
皆、家族が、友が、帰りを待つ人が居るのだ。
思わず、弓を持つ手が緩む。
「っ! そこか! 護の仇!」
こちらを見つけたゴルドーの声に反応しきれなかった。
その次の瞬間、腹部に激痛が走る。
「……え……」
何があったのか理解が及ばず、異変のあった腹部を見る。
するとそこには、ゴルドーの大剣が刺さっており、血が溢れ出ていた。
「あ……あぁ……」
「は……届いた……ぞ」
視線を眼下の戦場に移す。
そこには、してやったりと言いたげなゴルドーが剣を投げた姿勢のままこちらを見ていた。
とにかくこの傷をなんとかしようと、痛みに耐えながら剣を引き抜く。
「ぐ……く……」
「だ、駄目です! 引き抜いては……」
フィアナが止めようとするが、それよりも先に剣を引き抜いた。
すると、血とともに腸等、臓物まで腹からはみ出してきた。
しかし不思議と痛みは見た目程では無かった。
立っていられるのだ。
「……く……」
しかし人間、血を失えば立っていることは出来無い。
次第に視界が揺らぎ、立っていられなくなった。
「だ、誰か! 佐切様が!」
「な……佐切が!?」
「く……とにかくスキル持ちを抑えて! 今がチャンスです! 敵は武器を持っていない! 医療班! すぐに向かって!」
身を乗り出し、下の戦場にいる皆に声を掛けるフィアナ。
それを聞き、最前線にいながらも慌てる声を出すサナン。
そして、指揮権の移譲を判断してすぐさま指揮を執るキサラ。
彼等の声は聞こえているが、四肢に力が入らない。
「……」
声を上げることも出来ず、フラフラと後退り。
「……あ……」
そのまま、砦の中へと転げ落ちていった。
「佐切様!」
フィアナの声は遠くなっていった。
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