スキル授与
「ここは……」
目が覚めると、そこは異様な広間であった。
最後の記憶は、教室の床が光り輝いた事くらいだ。
周りの様子を見て、ぱっと見で分かるほどに、明らかに日本ではない。
円筒系の作りをした空間で、所々に階がある。
このような所見たことが無い。
そもそも、先程までいた教室ではなかった。
その時点で異常なのは即座に分かった。
「……皆……いるのか」
辺りを見渡し、クラスメイト全員がいることを確認する。
皆、状況が読み込めていないようであった。
口々に不安を口にする。
その気持ちはわかる。
しかし、慌てた所で事態は解決しない。
おちついて、あたりを見渡す。
下に目をやると、足元には異様な紋様の魔法陣のようなものが描かれている。
成る程、これが俺達をこんなことにした元凶か。
魔法陣を破壊した所で……無意味だろう。
むしろ帰れなくなるかもしれない。
「良くぞ来ました。選ばれし勇者達よ」
突如として声が響く。
その声の方を見ると、三階の所に人影があった。。
そこには、西洋人の見た目をした金髪のロングの、姫と呼ぶにふさわしい見た目の女性が立っていた。
流暢な日本語を話しており、長年使っていたように、いや、まるで母国語かのように感じられた。
気が付けば、周りにも多くの武装した人がおり、完全に囲まれていた。
敵意すら感じる。
「な、何だよお前ら!」
「ここはどこなの!?」
クラスメイトは不安から強気に文句を口にする。
しかし、誰もそれに対応する者は居ない。
虚しく声だけが響く。
すると、姫が俺たちのことなど気にもとめず、口を開いた。
「さて、皆様にはこの世界を救ってもらいます。その為に……」
「ふざけるな!」
すると、一人のクラスメイトが口を開いた。
それは、クラスの中でも目立つのが好きな鈴木悟であった。
このような状況でも、目立つチャンスを見逃していない。
流石と言うべきだが、この状況で歯向かうのは悪手だろう。
「何で俺達がお前らの言う事に従わなくちゃいけないんだ! 俺達が簡単に……」
「……はぁ……『炎陣』」
姫のような格好をした女性が、鈴木を見下しながら右手をかざしそう言うと、鈴木の足元に赤い魔法陣のような物が広がる。
その瞬間、部屋の温度が少し上がった気がした。
鈴木とはそれなりの距離が離れていたが、熱を感じると言うことは、あそこはかなり熱い筈だ。
流石の鈴木も魔法陣に気付いたようだった。
「……は? なんか……暑い……」
そして、鈴木がそれを認識した次の瞬間、鈴木は全身が火に包まれる。
魔法陣を中心に火柱が上がり、暫くして火が消える。
そこには、誰も居なかった。
「ひっ……」
あまりにも酷い光景に、女子生徒は小さな悲鳴をあげる。
しかし、それすらあの姫を刺激するかもしれないと考えたのか、女子生徒は口元を押さえて悲鳴を抑えた。
何はともあれ、鈴木は悲鳴すら上げる間もなく跡形もなく消え去ったのだった。
「このように、皆様にはスキルが与えられます。このスキルを使って魔王軍と戦って貰いたいのです。因みに私のスキルは『炎陣』と『水陣』。任意の範囲を炎、もしくは水で包む事が出来るスキルです。範囲に限りはありません」
笑顔で姫はそう言った。
つまり、ここにいる俺たちを一瞬で消し炭に出来るのだ。
もう一つの『水陣』がどういったスキルなのかは分からないが、そちらも簡単に死ねるだろう。
つまり、あの姫の言葉は脅迫だ。
だとしても、従いたいと言う者が居るはずがない。
「……」
しかし、誰も口を開かない。
もはや逆らえない。逆らえば殺されると分かった以上、今度は誰もが見返りを気にしていたが、口を開いた鈴木が灰となったのを見て誰も口を開かなかった。
「あぁ、そうそう。通常、一人につき与えられるスキルは一つです。偶に二つのスキルを与えられる人もいますが、それは極稀ですね。つまり、私は特別なのです」
皆、恐怖に心を支配されつつも、自慢気に話す姫の言葉に耳を傾ける。
聞き逃しただけでも殺されるかもしれない。
その考えが皆の心のなかにあった。
「見事魔王軍を倒した暁には何でも臨む褒美を与えます。そして、スキルもそのままで元の世界に返しましょう。こちらの世界に残るのを望むのであればそれも良いでしょう。あぁ、あと不自由の無いようにこの世界の言葉は分かるように細工してありますのでご安心を」
王女は手を差し伸べ、続けた。
それはまるで、救いの手のようであった。
「さぁ、皆様。スキルを授けましょう。人類を救う為、力をおかし下さいね?」
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