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王都脱出

「……ふぁ」

「おい! ちゃんと警備しろよ! 王都とはいえ、ここは弱点なんだからな。……ま、眠いもんは眠いけどな」

 

 下水道の出口。

 それは多数あり、そのうちの一つ、北川の出口の監視要員の二人はのんびりと警備していた。

 というのも、確かにここ下水道は王都の地下に出るので、弱点ではあったが、既に魔王軍にここまで到達する力はなく、警備も主な目的は魔獣が入りこまないかどうかであった。

 その魔獣も強いものは王都周辺には存在していなかった。

 

「あ〜あ、とっとと帰りたい。そして寝たい!」

「まぁそう言うな。もう夜だし、そろそろ交代の時間だろ」

 

 王都はこのこの世界でもかなり標高の高い位置に属しており、多くの国々はこの王都の王城が築かれている山から流れる川によって水資源を得ている。

 無論、この大陸に流れている川全てがこの王都から流れている訳では無いが、この川は多くの国々に跨っており、様々な恩恵をもたらしているのは事実であった。

 そのため、下水も最低限の処理が施され、川にそのまま流しているのである。

 

「……なぁ、下水って言っても処理されてるんだから飲めるんだよな?」

「やめとけやめとけ。いくら処理されてるって言っても下水だぞ?」

「でも、途中で本当の川の水と合流して、下水は薄くしてるって話だし……魚も泳いでるんだぞ? 行けるって」

「……腹壊しても知らんぞ」

 

 衛兵の一人が武器を置き、水を飲もうと川に顔を近づける。

 

「ん?」

「どうした? ゴミでも浮いてたか?」

 

 水を飲もうとしていた衛兵は不思議そうな顔をしながら少しずつ川から顔を遠ざけていた。

 

「いや……なんか……」

 

 しかし、川と顔との距離は縮まらない。

 

「み……水が増えている……ような……」

 

 すると、川の水がどんどんと増えてくる。

 その勢いは凄まじかった。

 不思議に思い、下水道の出口を見る。

 すると、鉄砲水かのように凄まじい勢いの流れが押し寄せて来ていた。


「うわぁっ!」


 水を飲もうとしていた衛兵はすぐさまその場を離れる。

 すると、下水道の中から、一艘の船が流れが増した川に乗って飛び出して来た。

 

「どけどけ! 邪魔だ!」

 

 その船は十数人乗せていたように見えたが、一瞬の内に衛兵の二人を追い越し、川の流れに乗って消えて行く。

 

「な……何だ」

「お、おい! 何してる! 追うぞ!」

 

 水を飲もうとしていた男は度肝を抜かれ、尻もちをついていた。

 

「い、いやあれには追いつけねぇだろ……」

「……確かにな。とにかく報告だな」

 

 二人の衛兵は、追うのを諦めるのであった。

 

 

 

「いやぁ、こんなにも上手くいくなんてな! 流石は軍師殿!」

「……いや、運が良かっただけだ」

 

 激流となった川の上、船に揺られながらサナンと話す。

 

「下水道の一部をせき止め、船を浮かべ、水かさの頃合いを見て堰を切って流れに乗って敵の警備を突破。知り合いの伝手で今夜の警備が俺達を捕捉できるスキルを持ってなかったのは知っていたからな」


 ジョバンニに王都を脱出する旨を伝えると、こちらの望んだ情報をくれた。

 ジョバンニにとっては魔王派を逃がす事と同意となり、裏切られる可能性もあったが、ジョバンニは裏切らなかったのだ。


「最初は全員が乗れるだけの船を作るなんて言われたから何かと思いましたよ……あんな短期間であり合わせのもので作った船でこの激流を乗り越えられるか不安でしたよ……」

 

 フィアナが不安を口にする。

 確かにそのとおりであり、そこが一番の不安要素でもあった。

 しかし、今のところ耐えられているのだから大丈夫だろう。

 すると、サナンがとある事を思い出す。

 

「そうそう、これは例の孫子の兵法とやらでは何に当たるんだ?」

「ん? そうだな……」

 

 顎に手を当て、少し考える。

 

「……地形は兵の助けなり、かな」

 

 実は何も考えてはいなかったのだが、そこは勢いでごまかす。

 少し意味は違う気もするが、孫子の兵法を知らない人間がこの一節だけ聞けば納得するだろう。

 すると案の定フィアナが乗ってくる。

 

「成る程! 流石は佐切様ですね!」

「……様付けはよしてくれ」

 

 何はともあれ、王都を脱出することに成功したのであった。

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