残り二回
「落ち着いたか? 別にまた後でもよかったんだぞ」
「あ、あぁ……すまんな。まだドキドキしてるが……これだけは伝えておかなくちゃならん。出来るだけ早く、な」
あの後、サナンの要件は後日とするつもりだったが、サナンたっての希望で、宴がおわった後二人きりで話をすることになった。
「それで? 話ってのは?」
「あぁ……。俺は死んでるって話だな」
いきなり理由のわからない事を言う。
サナンは今俺の目の前に立っている。
死んでなどいないはずだ。
「つっても訳がわからんよな……順を追って説明するわ」
「……なんでそんな大事な事もっと早く言わないんだよ!」
「だから今言っただろ?」
「いやもっと早く……相手のスキル妨害がなくなった時点で言ってくれよ!」
「そんな事言ってもな……って……何だ、泣いてるのか?」
サナンに言われて、うっすらと涙を浮かべていることに気が付く。
サナンがあと二回本気で戦えば死んでしまう。
それどころか、普通に暮らしているだけで少しずつ寿命を削ってしまう。
……よくよく考えてみればそれって普通の事では?
「そんなに俺の死を悲しんでくれるのか……嬉しいな……」
わざとらしく、サナンは涙をぬぐう。
が、涙など出ていない。
冷静になったら冷めてきたな。
「おい、嘘泣きはやめろ」
「ははは! 悪い悪い!」
すると、サナンは真面目な顔に戻った。
「真面目な話、あと二回だ。本気で戦えるのは」
「……」
「使い所はお前が見極めてくれ」
あと二回。
サナンが本気で戦えば、今度は本当に消えてしまう。
何も確かなことは分からないが、何もしなければそれなりに生きれるのではないだろうか。
ならば、あまり矢面に立って……。
「あまり矢面に立たせられないってか?」
「くそ……サナンのくせになんで俺の考えが分かった?」
「一言余計だな……まぁ、お前の考えることなんて手に取るように分かるさ。魔王派のリーダー、サナン様を舐めるなよ!」
少し悔しい気もするが、まぁ良い。
それよりもそのドヤ顔が腹立つ。
……一発殴ろうかな。
「ま、俺の事は気にするな。俺の生死を気にして負けるようなことがあったら許さないからな」
「……分かったよ」
「ま、そういう事だから、お前達には早いとこ幸せになって欲しいんだよ」
「……成る程な。それであんな事を言ったのか。……でも、人の事だけでいいのか?」
「ん?」
そろそろ反撃といこう。
ちょっと一方的にやらせすぎたな。
「カルラさんの事だよ。お前、今振り向いてもらえそうなのに、諦めるのか?」
「う……」
「カルラさんもお前に興味がありそうだし……お前の気持ちはとっくのとうに見透かされてるし……お前が死んだら本当に悲しむかもなぁ……」
「く……でも仕方ないだろ!? 相手はエルフの族長だし……俺なんかが好きって言った所で周りから……」
「別に良いけど?」
すると、サナンの背後から声がする。
その聞き覚えのある声に、サナンは振り返る。
「カ、カルラさん……? 何でここに……」
「今さっき佐切から『念話』で連絡受けてね。詳細は省くけど来てほしいって言われたから来てみれば……なんか面白い事になってるね」
カルラの言葉を聞き、サナンは顔を赤らめ、怒りを俺にぶつける。
「……さ、佐切! お前!」
「ハハハハハ。ちょっとお前に驚かされすぎたからな。仕返しだ。人の恋路ばっかり気にしてたら駄目だぞ」
すると、カルラはサナンに近づく。
「う……」
その美貌に、サナンは硬直する。
すると、カルラはサナンの額にキスをした。
「……え?」
「おお……」
「この先は、戦が終わったら、だ。長い事生きてきたけど、あんた程興味を惹かれた男は居ないよ。もっと自信を持ちな。周りの奴らは私が一言言えば黙るさ」
そう言うと、カルラはその場を離れていく。
「で、あと二回って言ったね? だったら、もう一回たりとも使わせないように、守ってやるよ。それにこの戦でのあんたの活躍、聞いたよ。かっこいいじゃないか。武蔵の奴も喜んでるさ」
カルラは、手を振りながら、闇夜に消えていった。
「……カルラさんにあと二回って話したのか?」
「まさか……何も話してないぞ」
「じゃあ、聞いてたのか? 流石は情報屋だな……油断もならんな……」
「というか武蔵さんの事も知ってたのか……まぁカルラさんなら知っててもおかしくはないか……本当に底が知れないな……」
サナンの秘密を共有し、今後はカルラさんと共にサナンが無茶しないように見張らなくちゃならないな……。
……俺もフィアナとのこともあるし、サナンを応援する為にも頑張るか!
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