囚われた男
「くそ……何故こうも上手く行かん……」
ガイアは味方が思うように動かない事、攻撃が全く上手くいかない事に苛立ちを覚えていた。
そんなガイアに、側近が声を掛ける。
「ガイア様に反発した者……つまり、ドルーガ派の者達が反乱を起こし、城門への攻勢が難しくなりました。既に鎮圧しましたが……兵の統率は乱れ、反乱に参加しなかった者もガイア様への疑いを持ったようで……」
「そのような事は分かっている! 何故このドルグフォレストに従わぬのだ! 王家に次ぐ権威を持つのだぞ! ……総員に、この戦でカレン・ノージリアの首を取った者には褒賞を与えると伝えよ!」
「ふ……わかっておらぬな」
すると、縛り上げられたドルーガが口を開く。
「貴様……お前の仲間が助けに来るかもしれぬからここに留めておいているだけというのを忘れるなよ? 生意気な口をきけばすぐさま……」
「殺す、か? やはり青二才よ」
挑発を続けるドルーガに、ガイアは怒りを抑えきれなかった。
剣を抜き、喉元に突きつける。
「次は無いぞ……」
「……儂を殺せばお主の行動に本格的に疑問を覚え始めた者達がここに殺到するだろうな。そして、真実を知り、儂の指揮よりも被害が出ているお主の指揮に従わぬ者が続出するだろう。この軍は、崩壊する」
「……例えお前を殺したとしても、真実が漏れることはない。お前の側近はすべて殺したからな」
「そうかな? 人は生死の選択を前にした時、忠誠よりも命を選ぶ者が多いぞ? なぁ?」
ドルーガはガイアの後ろに控える側近へと目を向ける。
しかし、ガイアはそんな事は認めないと言うように剣を更に突きつける。
「我が家臣にそんな不忠者は居ない! ……ようは勝てばよいのだ! 勝てば皆このガイア・ドルグフォレストに従う! 夜が明けたら総攻撃だ! 敵も疲弊している! ファレスはもう堕ちる! 我々本陣も動かして総攻撃だ!」
「愚かな……無駄に兵を散らすだけだと分からぬか? 先の総攻撃で五万、反乱のせいで離反した者、鎮圧された者で五万。今動けるのはせいぜい十万だろう。全城門に均等に兵を配しても二万五千。対する敵は疲弊こそしているものの損害は五千程度と見積もった。勝てたとしても……」
「黙れ!」
ガイアは剣の柄で思い切りドルーガを殴る。
「勝てば兵は増える! ザルノールの威光を世に知らしめ、周辺諸国から兵を徴収すれば魔王領への侵攻も出来る! 何も問題ない! すぐに夜明けの総攻撃準備に取り掛からせろ! 俺も出る!」
「は、はっ!」
側近はすぐさまその指示を将兵に伝えに行く。
「俺は必ず勝つ。そして、ザルノールの王には息子は居ない。エリス姫を娶って俺が次の王になるのだ」
ガイアの野望はただそれのみであった。
彼は決して無能では無い。
野望は、人の知恵を曇らせるのだ。
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