下僕
「怯むな! 敵のこの勢いは今だけだ!」
どうやらスキルが使用できるようになったおかげで佐切と連絡が取り合えるようになったらしい。
その事実は未だ全軍に知れ渡っていないが、各門の指揮官クラスの人間には伝えられた。
そのおかげで、その事を知っている者の士気は上がった。
「よし……このまま凌ぎきれれば……」
「報告! 全城門に敵が攻めてきたことにより、投石機による援護、援軍が間に合いません! 最悪の場合……」
「いいや凌ぎ切るぞ! ここで退けば我々の勝利は無いと思え!」
等と指揮するが、自分自身は戦えない。
なんとももどかしいものだ。
「第一中隊が押されてきている! 遊軍、援護に入れ!」
「で、ですが遊軍が今援護している第三中隊は……」
「遊軍の奮闘のおかげで少しは優勢だ! 耐えてもらう! 最悪の場合は隣の第五中隊か第二中隊から兵を分ける! 気にするな、いけ!」
「は!」
伝令は走っていく。
佐切の軍略の知識には及ばないが、俺にもそれなりの経験がある。
常に劣勢の中、スキルを使えない奴等を指揮して長年戦い続けてきたんだ。
これくらいはやって見せなくちゃな。
「報告! 東側の城壁守備隊の第六中隊崩壊寸前! 既に城門にも敵が殺到しており……」
「くっ……」
「敵が城壁を登って来るぞ! 備えろ!」
前線の声がここまで聞こえてくる。
俺は腰の刀を握り締める。
(俺が出るしか無いか……? あと二回……ここで使えばあと一回だ……仕方無い、か)
覚悟を決め、指示を下す。
「仕方無い! 俺が……」
「いいや俺が行く!」
すると、背後からものすごい勢いで駆けていく存在があった。
「おりゃあ! 『剛力・強』!」
男は城壁を登ってきた敵を蹴散らす。
その姿には見覚えがあった。
かつて東門で見た男だ。
「お前は……えぇと……なんだっけ、名前。忘れたわ」
「忘れたのか!? あんだけ印象的な登場したのに!?」
男は胸をドンと叩き、名乗りを上げた。
「俺の名は畠山義和! かつての勇者で今はキサラ様の下僕! 手助けに来てやったぞ!」
「ふむ……下僕という割には偉そうだな。これはキサラさんに報告か」
「……手助けに来ました」
「というか、信じても良いのか?」
「サナン様。フィアナ様より伝言です」
すると、背後から伝令に声をかけられる。
伝令は文を取り出し、読み上げる。
「その男は情報をベラベラと喋りました。その事を矢文で敵に知らせたので、敵の元へ戻ることは叶いません。なので、こちら側で力を振るってもらうしかないと説得し、味方になってもらいました。働きに応じてキサラさんからご褒美が貰えると約束したので信頼しても良い。とのことです」
「……へぇ……なら信頼しても良いのか?」
畠山義和は城壁を登る敵を倒して行っている。
元勇者と言うだけあって、うまく戦っている。
雑兵のスキルでは太刀打ち出来ていない。
「おらおら! こんなものか!」
「よし……下僕! そこには援軍を回す! お前は城門に迫る敵を押し返せ! 可能なら破城槌も破壊してこい!」
「分かった! その呼び方には納得できないが、分かった!」
畠山はそのまま城壁を飛び降りる。
「お、おい!」
「おらぁ!」
そのまま、畠山は思い切り地面を攻撃する。
そして、その反動で落下の衝撃が和らいでいる。
「そうか……ここまで爆速で来れたのは『剛力・強』でブーストしていたのか。そして、着地でもスキルで衝撃を和らげてるのか……」
着地の際のスキルの使用で下にいた敵は、多くが戦闘不能になる。
「な、なんだ!?」
「新手か!?」
「くそ! あと少しなのに……」
畠山は剣の切っ先を敵に向ける。
「この俺、畠山義和は魔王軍に味方する! 勇者に挑みたい者はかかってこい!」
「はは……とんでもないなあいつ」
なにはともあれ、これでなんとか戦況は持ちそうだな。
俺が戦わずに済んで良かった。
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