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異世界転移

本日は複数話投稿を予定しております!

「……孫子曰く」

 

 そう呟いた男は、弓の狙いを定め、矢をつがえる。

 その構えはとても美しく、お手本のような見事な構えであった。

 この世界で弓道を知るものは居なかったが、皆が目を奪われていた。

 目の前には、大軍が。

 その大軍めがけて、矢を引いていた。

 

「放てぇ!」

 

 どこからともなく響く、放たれた号令で弓を引いていた男の背後から、無数の矢が放たれる。

 矢の雨が、山の下に広がる無数の軍勢に襲いかかる。

 それでも、弓を引く男の形は崩れない。

 弓を引く男は、呟く。

 

「……彼を知り己を知れば」

「『シールド』!」

 

 放たれた無数の矢が軍勢に当たるかに思えた直前、それらは光の壁によって阻まれる。

 太陽を覆い尽くす勢いで放たれた矢の雨は、空中に停止する。

 よく見ると、眼下の大軍の先頭に立つ男が右手を空に手を掲げていた。

 

「どうよ! これが俺のスキル『シールド』の力だ!」

 

 先頭に立つ男がガッツポーズをする。

 矢は全て、一枚の光の板に刺さったかのように空中に停止している。

 その光景を、弓をつがえた男は茂みから狙い続ける。

 その男はつがえた矢を、先頭の男に向ける。

 

「百戦、危うからず」

 

 そして、矢を放つ。

 風切り音が響き、真っ直ぐに先頭に立つ男めがけて飛んでいく。


「危ない!」

「え?」


 少し離れて隣にいた男は放たれた矢の存在に気付き、忠告をする。

 庇おうと動き始めるが、間に合わない。

 ギリギリスキルで守れる、反応出来る距離であった筈なのに、男はスキルを使用しなかった。

 矢は何にも阻まれることはなく、真っ直ぐ先頭の男の喉を貫いた。


「……かはっ!」


 男は血を吐き出し、喉を押さえてその場に崩れ落ちる。

 男によって阻まれていた、空中で停止した矢は一斉に降り注いだ。

 勢いを失った矢とは言え、突如として降り注ぐ矢によって山下に広がる軍にもある程度の被害が出ていた。

 未だ微かに息のあった、喉を貫かれた『シールド』を使った男に、無情にも無数の矢が刺さる。

 男の息の根は、完全に止まった。

 

「や、やった! 本当に勇者を倒した! 信じられない!」


 矢を放った男の側に潜んでいた小さな角の生えた女性が声を上げる。

 嬉しそうに、まるで世紀の大偉業を成し遂げたかのように喜んでいた。

 しかし、戦闘は終わっていない。

 弓を放ち、勇者と呼ばれた者を殺した男は油断することなく指示を出す。

 

「今だ! この一瞬の隙を逃すな!」

「あ……か、かかれぇ!」

 

 小さな角の生えた女性の一声で、茂みに潜んでいた異形の軍勢が姿を現し、敵に一斉に襲いかかる。

 皆、勇者の倒れた姿を見て、士気が上がっていた。

 それとは反対に、攻撃を受けた軍は壊滅的な士気の低さに陥っていた。


「くそ! 魔族だ!」

「このタイミングで……」

「後ろにもいるぞ!」


 異形の軍、魔族の軍は勇者の属する軍の背後にも潜んでおり、矢の雨を浴びた軍は半ば包囲される形になっていた。

 魔族の勝ちは、確定していた。

 その様子を見て、弓を放った男は拳を握りしめる。

 

「やった……やったぞ……」

 

 男は悲願を達成したかのように力強く拳を握りしめ、嬉しさからか、薄っすらと涙を滲ませる。

 

「ここからだ……ここから、全てが始まるんだ。スキルの優劣なんて関係無い。平等な世界を作ってみせる……必ずな」

 

 これはとある歴史オタクが、スキル至上主義の異世界乱世を統一し、平等な世界を目指す物語である。

 

 

 

 歴史好き。

 一定の人気があるジャンルだが、世間一般からは中々受け入れられにくいジャンルでもある。

 そもそも、オタクと言う言葉が差別的な言葉ですらある世界だ。

 実際、このクラスでも人気は無かった。

 

「えー、織田信長は家臣である明智光秀に……」

 

 このクラスでは、今現在歴史の授業が行われていた。

 しかし、教師の話を聞く者は誰もいない。

 皆、口々に雑談を繰り広げ、ガヤガヤとしていた。

 ランクの低い高校ならではの光景といえばそれまでだが、それでも他の授業と比べると、一段とひどい有様であった。

 

「……」

 

 そんな光景を見ながらも、教師は何もしない。

 黙々と黒板に文字を書いていく。

 そして、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。

 

「じゃ、授業を終わります」

 

 教師がそう言うと、そのまま教室を去る。

 教師が教室を出たその瞬間、突如として教室が光り始める。

 

「は!?」

「な、何これ!?」

 

 突然の出来事に皆慌て始める。

 尋常ではない出来事に、流石の生徒達も慌てふためいていた。

 しかし次の瞬間、光な消えると共にその騒ぎは静まる。

 

「だ、大丈……」

 

 教師が異常を察知し、すかさず教室に戻る。

 勢いよく扉を開き、何があったのか、大丈夫かどうか問おうとするが、教師の言葉は止まってしまう。

 そこには誰もいなかったからだ。

 

「一体……何が……」

 

 その後、クラス一つが突如として消えた事件は瞬く間に世間に知られ、ネット上では様々な推測が行われた。

 その中に、『異世界にでも行ったんじゃないか』というコメントがついていた。

 そのコメントを書いた本人も、読んだ人も誰も本気にしては居なかった。

 しかし、それが本当の事だと言うことは、誰も知ることは無い。

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