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飼い主と飼い猫

 容姿端麗という言葉は、宮下麗香の為に用意された言葉だ。学生時代から注目の的であった彼女は、歳を重ねる毎に磨きが掛かり、サングラス越しでも眩しいオーラを纏うようになっていた。仕事も出来て、人当たりも良く、三十代間近になっても美の進化が止まらない。

 

 唯一の短所は、人付き合いが悪い所。男女問わずに誘いを断り、定時になるや否や、すぐに帰っていく。周囲の人物はそれを悪く捉えるのではなく、むしろミステリアスな一面として崇めていた。自分の事をあまり語らず、恋人の影も無い所から、宮下麗香の私生活は謎に包まれていた。 

 

 そして今日もまた、宮下麗香は定時で帰っていく。一人暮らしにしては大量の食品を買い、安全運転で自宅へと車を走らせる。周囲に誰も住んでいない自宅に着くと、買った物が入っている袋を両手にぶら下げ、自分の家のインターフォンを鳴らした。待っていると、家の扉が開き、少女のような可愛らしい少年が顔を覗かせてきた。


「ただいま冬美! 良い子にして待ってたかな?」


「……うっせぇ」


 冬美は鋭い眼光で麗香を睨みながら、麗香が両手に持っている袋をぶん取って家の中に戻っていった。キッチンに袋を持っていこうとする冬美の背後から麗香は抱き着き、見下ろした先に見える冬美のツムジにキスをした。


「……いつも言ってるけど、それやめて。僕は子供じゃないんだ」


「それは無理。だって、こんなに小さくて可愛いんだもの」


「……ウザ」


「ンフフフ!! 今日もツンツンしてて可愛いね~!! ンチュチュチュ!!」


 飼い猫の匂いを嗅ぐ飼い主のように、麗香は冬美のツムジの匂いを嗅ぎながらキスをする。自分と同じシャンプーの香りがありながら、本来の冬美の匂いが混ざった匂い。それが煙となって、ポッカリと開いている麗香の心の穴に入り込んでいく。

 

 一方で、冬美は必死に自分を押し殺していた。背中から感じる女性の柔らかさ。包み込むような甘くて優しい麗香の匂い。ツムジから感じる唇の感触。それらが一気に冬美の理性に押し寄せ、その牙城を崩そうとしてくる。

 だが、ここで理性を放棄して行動を起こせば、麗香の思い通りになってしまう。それも悪くないと思いつつも、麗香に負けたくないという矛盾した想いを抱いていた。


 ほんの少しだけ愛と束縛が激しい女性と、愛に渇いた少年。他人には言えない二人だけの秘密の生活。 

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