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ぼくはここのつくりかえす  作者: 佐伯ゆゐの
1/1

First death anniversary.

since : 12 years ago






亡くなった猫好きのおばあちゃんがよく言っていたんだ。

猫にはここのつの命があるんだよ、と。

齢を重ねて5年のぼくは信じなかった。

猫だって死んでしまったらもう次はない。






since : First death anniversary


ぼくはしんだ。



冴ゆる夜。

大好きな君とふたりで食べるはずのおでんを持って、


ぼくは死んだ。


青信号になって渡ろうとして、

大きなトラックに轢かれて、


ぼくは死んだ






はずだった。




目が覚めた。

今日も素晴らしいほどに冬らしい日だ。

寒い、寒すぎる。

目は開いたが、全くもってベットから動く気が起きない。

これだからぼくは冬の朝は嫌いだ。

ただ、ぼくのやる気がないだけかもしれないけど。

少し体を起こして、ベットの近くに置いてある時計を手に持つ。 


二〇八〇年一月二十七日四時五分。


日曜日ということを確認する。

ぼくはアナログの時計だと一時間間違えてしまうからおばあちゃんがデジタルの時計を買ってくれた。

ぬくぬくと暖かいベットの中で好きなだけ眠れる。

僕ら学生にとっては日曜日は一週間の中で最も好きな曜日である。

ぼくのおばあちゃんがいたらおばあちゃんは早寝早起きだから、毎朝四時近くに起こされていた。

そしておばあちゃんの猫の話に朝から散々付き合わされた。


おばあちゃん。

今日は日曜日なので、もう一睡しようと思います。

きっとおばあちゃんがいたら怒ってたよね。

ぼくはおばあちゃんがいなくなっちゃってから、おばあちゃんが怒るようなことしかしてません。

ごめんなさい。

でもおばあちゃんは優しいから許してくれるよね。


よし、もう一睡。

と、思っていたら自室のドアがガチャと音を立てて開いた。

ドアから差し込む光がぼくを照らした。

眩しかったから、ドアに背を向けて布団に潜り、もう一度目を瞑る。


「菜緒くん、もう四時だよ。」


四時なんて早すぎる。

なんで菜美は起きてるんだよ。

菜美はみっつ離れた妹で、ぼくよりだらしない。

でもぼくより、とってもやさしい。


「お兄ちゃん、もう夜になっちゃったよ。

ぼくとお姉ちゃん、ゆめちゃんに会いに行ってきちゃったよ。」


菜月まで…

菜月はぼくより十個も年下の弟だ。

ぼくより、やんちゃで元気な子。

サッカーして遊びたいのかな。

とはいっても、四時は早すぎる。

もう一睡させて欲しいものだ。




ん、夜?


布団からがば、と体を起こしてもう一度デジタル時計を見た。

時間は午後四時十分だった。


かなりまずい。


今日はゆめちゃんに会いに行くんだった。

大好きなゆめちゃんに。

本当ならもっと早く行ってゆめちゃんと一日過ごすつもりだったのに。

やらかした、折角の日曜日なのに。


ぼくはベットから出て急いで支度をした。

服を着て、歯を磨いて、寝癖を治して

階段を駆け降りて、玄関へ向かう。

お母さんがゆめちゃんと食べておいで、とくれたおでんを持ち、陸上選手をも勝る速さで家を飛び出した。 


今年の冬はひどく寒い。

かじかむ手と、おでんから出る湯気。

自身が吐いている白い息。


昔のことを思い出す。


ぼくとゆめちゃんはおでんが大好きだった。

冬のひどく寒い日にゆめちゃんと月と星を眺めながら食べるおでんがぼくは大好きだった。

急がないと。

はあ、はあ、と切れる息。

ただひたすらに病院に向かって走る。

ゆめちゃんに会うために。


ぼくは、

ゆめちゃんが好きだ。


ぼくは、

無我夢中になっていたとはいえ、信号は守るはずだ。


ぼくは、

必ず赤信号なんか渡らない。


ぼくは、

おばあちゃんの言いつけは守らないけど。


ぼくは、

おばあちゃんは横断歩道は赤信号はだめっていってた。


ぼくは、

トラックに気が付かなかった。


ぼくは、




ゆめちゃんがすきなんだ。





   がしゃん。





音がした。


そこまでしかわからない。

誰かが事故った。

でもきっとぼくじゃない。

だって音がしたから。

他人事だ。

だってぼくは無事なはずだから。

ぼくは轢かれてない。

だってこうやって考えることができてるから。

でも体が動かない。

どうして?

声も出ない視界も見えない。

なぜ?

ぼくが轢かれたの?

ゆめちゃんに会いたかった。

ぼくは死んだの?

折角なら世界に名を残すような死に方をすればよかった。


そうだ、ぼくは病院に行かなきゃならないんだ。

ゆめちゃんに、会いに行かないと。




 _ちゃん。菜緒ちゃん。


おばあちゃんの声がする。


 猫はね、九つの命があるの。


ぼくはそんなの信じてないよ。


 菜緒ちゃん。起きて。


ぼくは起きてるよ。



ぼくは。



目が覚めた。


そしたらベットの上にいた。


時計を見た。


ぼくは驚いた。




どうして。


どうして、


一月二十七日、午後四時なんだ。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

はじめまして。作者のゆゐのです。

文章をこんなに考えて書いたのははじめてで、

自分でも拙い文章だと実感しておりますが…

このお話は毎週日曜日に更新していきたいと思っておりますので、次回も読んでくださるととっても嬉しいです(泣)

それでは。

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