勅使〜名君or暗君〜
「やあやあ一蘭くん。君アメリカのギフテッド収容施設に行くんだって?」
「本当になんでも知っているんですね」
伊吹姫の反応からこの情報は皇居にまだ届いていないだろう。しかし撫子は知っている
(この世の真理に近づいたのはほぼ全知と考えていいのかもしれない)
「でもあそこは権力を嫌うからなあ。いくら天皇でも一蘭を入れるのは無理だと思うよ」
(呼び捨てになってる。さっきまで君付けしてたのに)
撫子が急に一蘭を呼び捨てにしてきた
「あ、そのことは祖母か祖母の人脈に頼るのでいいです。今日は漫画の提供が止まってしまうことを言いに来ました」
「えぇ」
撫子は少しざんねんそうな顔をした。てっきり一蘭が自分の力、皇族の力を借りに来たとばかり思っていたからだ。全知にちかい撫子でも人の感情や意思だけはどうしても分からない
「それじゃあ、帰国したら伊吹姫様のついでに顔を出しにきます。3年後までごきげんよう」
「いやいやいやいや。少し冷たすぎやしないかい? 傷つくなあ。一蘭くんから送られてくる漫画はどれも人気でね、多分僕は稀代の名君と言われるんじゃないかと思うんだ。そのお礼というか、前にも言ったけどこの件で貸し1だからさ、出来る限りののことはさせてよ」
「撫子が亡くなったら漫画天皇ですね」
「・・・・・・」
撫子に対する一蘭の切り返しはいつも鋭い
「あっ、一個お願いしたいこと思いつきました。それじゃあ」
「うんうん」
「もしもの時は勅使としてアメリカに送ってください」
「待った! そ、それって」
「はい。僕が母とかくらを説得できなかったらその時にお願いします」
「い、いやあ。それはちょっと難しいかなー、 なんて・・・・・・」
撫子は恐れた。もしも自分が一蘭を勅使として力技でアメリカに送る、そんな状況になった場合、中本家が確実に皇居に乗り込んでくる
「最終手段です。基本は僕の方で解決するつもりですから」
それでも怖いものは怖い。今までの中本家は皇族を害そうと思って振る舞っていたわけではない。ただ自身のやりたいようにやっていただけだ。問題はそこに配慮や敬意がないことにあった。しかしもしも撫子が勅使を出すと、確実に怒りの矛先が皇族に向く。撫子は稀代の名君どころか過去最悪の暗君となってしまう
「はあ、分かったよ。力になるって言ったのは僕の方からだからね。それでも困ったな、一蘭くんが絡むと未来を占えなくなるのがなあ・・・・・・まあその時になったらまた考えるよ。それより、せっかく来たんだからもう少し話していかない?」
「仮にも国の顔なのにそんな後回しの態度でいいんですか?・・・・・・話はそうですね。前世の僕自身の事は前回全て話しましたし、今回は何がいいですか?」
「一蘭くんの前世の世界で起きた災害と戦争の話がいいな。人の過ちはいつも参考になるからね」
「・・・・・・やっぱり為政者なんですか?」
先ほどまでふざけた回答をしていた撫子が急に最もな話をし始めたことの変わり身の早さに一蘭は呆れた
(やっぱりこういう相手はやりづらいな)
“気”を読むことのできる一蘭からしても撫子は敵にしたくないタイプであった
「政治なんてしたくないよ。ただ国民のためにできることはやりたいだけさ」
「では戦争の話から。今回も現代の方から始めますね。まず日本はここ80年戦争をしていなくて・・・・・・」




