デートを忘れて
「「・・・・・・」」
(すげーチラチラ見てくる)
午前の道場が終わって、一蘭とかくらは塾に向かっていた
2人は隣に並んで歩いている。一蘭は周りにバレない程度に気配を隠している。それに合わせてかくらも同程度に気配を消していた。周りの誰からも気付かれない、この場においてある意味二人きりとも言える
そんな状況にかくらは恥ずかしがっていた。
周りから分からないのに何が恥ずかしいのかは理解ができない。それはかくら本人さえも説明ができなかった。ただかくらは、好きな人の隣を歩いて気分が上がっていることだけは分かっていた
「かくら」
「ひゃい!」
一蘭は沈黙に耐えられずになんとか話題を見つけて話しかけた
「塾で何して遊ぶか考えておいて。ボートゲームとかはある。運動も出来るけど、基本女子の塾への立ち入りは禁止だからなぁ。あ、部屋に行くまで気配消しておいてね」
かくらが気配を消しておく必要があるのは塾の規則のためだけではない。一蘭はいつも受付も介さずに勉強部屋に入る。それは一蘭の情報を外に出さないためだ。塾で一蘭を知っているのは、ことと中本家に縁のある人達数人である。一蘭の関係者以外で彼を最後に見たのは九条蓮月が送った諜報員だ
「はい。分かりました」
「「・・・・・・」」
その後は会話が続かず2人の間に心がくすぐられるような空気が流れていた・・・・・・
・・・・・・
「先生こんにちは」
「いらっしゃい」
一蘭とかくらは塾に着いた。早速一蘭とことの面談から始める
「僕は合格する事を目標としていたんですよね。だから最近は点数も取れるようになってきたので受験勉強だけでなく他のことにもチャレンジしてました。後は勉強の成果は常に右肩上がりにはならないじゃないですか。だから僕は焦ってないし成績が上がらないのは先生のせいだとは思ってません」
「安心、したわ」
「僕が努力を怠っていたのが先生の負担になったのならすみませんでした」
「いえ、今回は私が見当違いの行動に出てしまったのが悪かったの。一蘭ちゃんは謝らないで。大学受験の話に戻るけど、一蘭ちゃんの希望通り合格レベルをゴール地点にするわね」
「あ、いえ。どうせなら首席狙います」
・・・・・・?
「この際に自分を見直したんです。そしたら最近努力の熱量が足りてないんじゃないかって思って。それに目標は大きくした方が苦しみをより多く味わえますからね」
一蘭は最近の自分が停滞の中いる事に慣れてしまっている現状に気がついた。武術も伸び代があるか分からない、勉学も計算能力と暗記能力は過剰な程備わっている。いつしか一蘭はぬるま湯に浸かってしまっていた
(2回目の人生は本気で生きようと思っていたのにそれを忘れていた。前世の死因が未だに思い出せない。つまり人は突然簡単に死ぬことだってある。目標を低く設定して適当に生きるのはやめよう)
2回目の人生だからこそ分かる一生の価値
一蘭は初めの頃、眠い中参考書を読んでいた必死さを思い出した。毎日死ぬ気で生きる。考えてみれば変な日本語だ。しかし彼は本気実現すると決意した
「じゃあこれからは、受験勉強メインでいいかしら?」
「塾ではそうします。塾の外ではもっと違うことを積極的に取り組んでいきたいと思ってます。最近はプログラミングを学んでいました。今は気象について学んでます」
「そ・・・・・・うなのね。頑張って」
ことはその学習量に少し引いた
「あとは理系科目に関しては大学の範囲まで持っていきたいんですよね。フーリエ級数とかは大学受験にも使えそうですし・・・・・・プログラミングならば太刀打ちできるんですけどまだ頭の中で切り替えが出来ないんですよね。やっぱり理論が身に付いてない状態、つまり今は暗記しただけの状態なんですけどそれだと応用も効かないし危ないとーーーーーー物理に関しては電流について、これは高校の電気情報科の方が詳しいのでなんとか教材をーーーーーー化学は今まで通り高校範囲内ですね。まだまだ解けない問題が例えばーーーーーー英語は先生の英語が綺麗なので心配はないです。ただインド英語とかイギリス英語とかにも触れてみたいですね。実際過去に一次試験のリスニングでーーーーーー国語は9割を切ることが無くなったのでこの解き方を崩さないように間隔を開けて反復してーーーーーー」
オタク特有の早口
一蘭は最早、過去問オタク受験マシーンと化してしまっていた。そこに燃料が大量投入された。もう誰にも止められない
「・・・・・・」
ことは沈黙していた。一蘭がとても楽しそうに喋って滅多に見せない無邪気な顔をしていたため、ことは静かに眺める事にした




