デート(前半)
「お兄様の仇!」
(いやいや僕は死んでないよ)
かくらは柳に向かって襲いかかっていた
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一蘭とかくらの1日デートで最初に行った場所は柳の道場だった。果たして人の習い事に付いて行くだけの事をデートと呼べるのだろうか疑問である。しかし、かくらにとっては一蘭と一緒に居られればそれはデートになる。”好き”のあり様は人の数だけ存在するということだ
柳はかくらの参加を許した。どころか今日の組み手の相手にかくらを指名した
『お前さんはその辺で瞑想でもしておけ』
まさかの展開に一蘭は驚いた
しかし柳には考えがあった
『ほれ、かかってこい』
そう言って柳はかくらに向かって構えた。構えはとったが攻めてこいと言わんばかりのスキの多さ、完全にかくらを煽っていた
一蘭が死にかけた件でかくらが柳にフラストレーションをためている事は分かっていた。柳はこの際に組み手をもって少しでも毒気を抜いてくれればと考えた
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「一発くらい当ててみんか」
柳はかくらの猛攻を的確に防いでいる。かくらのクリーンヒットが中々出ない
しびれを切らしたかくらは一旦距離を取った
「ほう」
柳はこの行動を今回の組み手の中で初めて評価した
そして一蘭も同様に
(ナイスかくら、今はそれが正しい。ジジイが攻める気がない以上、ゆっくり攻略法を探って有効な不意打ちに当たりをつける。ジジイに取ってそれが一番嫌な手段だからね)
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「お兄様、ごめんなさい」
結局かくらは一発も柳に入れることが出来なかった
「最後の方は良かったよ。最後数回は師匠も5歩以上動いていたしね」
「え・・・・・・」
「あっ」
一蘭に言われてかくらは初めて気がついた。柳が自分が一回攻めて引くまでに5歩の範囲から出ていなかった事に・・・・・・
一方の一蘭はかくらが気付いていなかったとは思っていなかったので、失言になったと焦った
そして案の定かくらは更に落ち込んでしまった
「一生をかけても私はお兄様の隣に立てる人間にはなれないのでしょうか?」
それは一蘭への投げかけなのか独白なのか、かくらはとても小さく呟いた
「「・・・・・・」」
これには一蘭だけでなく側に立っていた柳も黙ってしまった
そもそも彼らは人間のようなナニか、本来居るべきでない存在である。それを本人達も自覚している。そこに人間が近づけるかは分からない。同じ人間同士ならば努力すれば叶うとも慰めれただろうが、今回は比べる相手が悪かった
「ぅ、うえーーーーーーん」
それを知らないかくらは2人の沈黙を肯定と捉えてしまった。年の差では説明がつかないほど離れた一蘭との能力差、かくらはふとした時に不安を感じていた。かくらは一蘭から相応しくないと拒否されたように感じてしまい、涙が溢れて止まらなくなった
「ま、ワシらとは作りが違うから同じ事は無理かも知らん。けど何も同じようにできることが隣に立つに相応しい相手の条件とも限らんじゃろう。ライオンも雄は狩、雌は・・・・・・よく知らんがそんなところじゃ。だからやりたいようにやればいいと思うぞ」
柳はかくらが一蘭に追いつくことは難しいと現実を言った。それは、一蘭の口からは言いづらいだろうとの気遣いである
(いいこと言った、のか?)
柳の話は途中までは筋が通っていたが、最後の方で説得力が些か落ちてしまったため一蘭はその言葉に感銘を受けなかった
「・・・・・・私は、私はお兄様が好きです。お兄様の一緒に笑って、泣いて、慰めて、喧嘩は・・・・・・しないと思います。毎日楽しく過ごしたいです」
「うむ、ならばそれを極めるのも良いじゃろう」
(待て待て待て待て)
一蘭は焦った。急に話がおかしな方に向かってしまったからだ
(ジジイも適当に頷くな! あとかくらがジジイの事を見直してるのも可笑しい)
柳が一蘭を沢山愛せと言った(?)事に励まされたかくらは柳との距離が縮まっていた
「お兄様大好きです」
かくらは恥ずかしそうに指を握ってきた。驚くべき事にその行動は今までのように激しいスキンシップではなく乙女の恥じらいを含んだ可憐なものだった
”好き”にも様々ある
けやきの”好き”は純粋な独占欲からくる歪な愛。彼女の”好き”は最悪自分とけやきの空間さえあれば成り立つ
ことの”好き”は己の全てを捧げることで満たされる奉仕。離れないでくれればそれ以上の見返りは求めない、そのためにも彼女は自分を犠牲にしてでも出来る限りの物を貢ぐ
かくらは柳との会話で自分の”好き”は恋だと気がついた。一蘭と一緒に居て沢山のことを楽しみたい。彼女の”好き”は周りのものを一蘭とシェアすることだ。非常に嫉妬深いが、けやきの独占欲とは似て非なるものだ
(やばい、可愛いい)
今までにない女の子さ溢れる行動に一蘭はドキッとしてしまった
シスコンとロリコンの境目。かくらを妹と見るか女の子と見るかで一蘭の人生が大きく変わる
(妹、6歳、犯罪、ダメ、ゼッタイ、ノータッチ)
握られた指先からかくらの熱が伝わってくる。一蘭はそれを振り払うことも出来ず、心の中のみで必死になって恋に傾くのを我慢していた




