堪忍袋の緒
(どっかいっちゃった)
残された一蘭は目の前で起きていた怒涛の1人劇にリアクションができなかった
(んー、とりあえず無線でロビーと繋げるかぁ。それで電話を貸してもらおう)
一蘭が最初にとった行動は母へ連絡することだった
(追いかけて説得しようとするのは漫画の見過ぎやね。僕に感動を誘う語彙力なんてないし)
「あ、フロントの方ですか? お世話になっております。親に伝えたいことがあるので電話を使用させてください。はい、中本一蘭です」
しばらくすると部屋の電話から外部へかけられるようになった
プルr
『どうしたの? 寂しくなっちゃった?』
(・・・・・・1コール)
「それが相談したいことがあって」
「ことの話でしょ?」
「え」
「実はさっきまで彼女から電話がかかってきてたのよ。あまりにくだらない内容だったし、途中で一蘭ちゃんからかかってきたから殆ど聞けてないけど」
(なるほどね。さっきまで先生と電話していたから1コールで出たんだ。仕事サボってるのかと思ってしまった、ごめんなさい。けど僕を優先して先生との会話を途中で切ったんだ・・・・・・)
けやきは自身の仕事は午前で終わって暇していた。もし仕事中に一蘭からかかってきたら何よりも優先していただろう。今回は彼女のキャリアウーマンイメージが偶々保たれた
「なら話は早いです」
「うん、その塾辞めるんでしょ?」
「え?」
「え?」
「ああ、そう言うことね。私の言い方が悪かったわ」
(うんうん。母にはこと先生の暴走を止めてもらわないとね。大人の女性同士の方が話は早く収まるでしょ)
一蘭は自分で説得するより、ことの幼馴染であるけやきに任せた方がいいと判断していた。しかし
「名前だけ在籍してこれからは1人で勉強するのよね?」
「え?」
「ことの場合は幼馴染で信頼していたから預けられたの。だから、こと以外は無理よ? 私が許さないわ」
(やば、これ既視感あるぞ)
一蘭はここから始まることを悟った
「今回はことが望んだ相手が悪かったわね。”私の”一蘭に並ぼうとすればするほど自分の不出来が分かって焦ったんでしょ。あまつさえそれを一蘭のせいにしてこうして一蘭を困らせているんでしょう? 私は止めたのよ? そうよね、だって一蘭の隣に立てる人なんていないのも。だから近くにいられるのは私たち家族の特権・・・・・・本当に生まれてきてありがとう♡でも独占するのにはかくらが、あのメスガキが邪魔で仕方がないわ。最近は冷泉家の方からかくらへアプローチがあるみたいだし、さっさとくっつけて当主を譲りましょう。私はまだ当主じゃないからお母様に頼むか、私が当主を譲ってもらうか・・・・・・」
本日2度目の1人劇が始まった
(いやいや後半! 後半!)
かくらにアプローチが来ていることを初めて知った。婚活に関しては男性は特に優遇される。男性側から求められたのならば余程相手の女性の身分が上でない限り通ってしまう
(れいぜい、冷泉か・・・・・・前世だと門流が御子左家で出自が北家長家流で華族制では上冷泉が伯爵家だね。臣籍降下に伴って与えられる爵位は公爵だが、実際には侯爵または伯爵クラスだったはず。中本家は相当前に皇族から降りたから上流階級での今のポジションが分からないけど・・・・・・これかくらとの婚約成立確実では?)
けやきの好きなように喋らせておくと、かくらの婚約話がいきなり出てきた
(相手がどんな人かくらいは僕も知っておきたいな。性格がマシだといいんだけど)
上流階級同士での婚約とは責務であり、今までもこれからも日本のトップはある一定の家がつくことで効率よくまわる。一蘭はいつかはかくらが結婚するし、自分は家を出ていくと分かっていた。一蘭はかくらと離れる寂しさよりも、かくらがいい相手と巡り合うことをより強く願っていた
(ネットも普及しているし、会おうと思えばすぐ会えるしなあ。それより心配するべきは僕の方やろ。さっきの母の口ぶり的だと僕お婿にいけなくね?)
けやきの1人劇に適当な相槌をうちながら、そんなことを考えていると
「じゃあ私今から有給とってそっちに行くね。こととも話つけなきゃだし」
(やべ、何も話聞いてなかった。なんで今から母くる話になってんだ?)
・・・・・・
部屋には居るのは、こと、けやき、一蘭の3人
1人は今にも消え入りそうな俯いて、1人は不機嫌を隠す気もない仁王立ちで、1人は事態がどこに向かうか分からず一先ずの様子見をしていた
「負け犬ね。いや、犬にも失礼ね。だってそうでしょ? 勝手に盛って焦って喚いて、動物の方が聞き分けいいものね?」
最初に動いたのはけやきで、ことにトドメを刺しに行った
「何も言わないわけ? 言えないわけ?」
「アリガトウ」
「は?」
「ここまで言われないと希望を捨てられない。私分かったの自分があまりにも弱いって。一蘭ちゃんと出会った時に決めたのに・・・・・・全部捧げるって、でも私h」
「は? もう何も言わないでよ。親友にそんなこと聞かせたいわけ? しかも”私の”一蘭のことを? そんなに私と親友辞めたいなら絶交でもなんでも直接言えばいいわ」
「ちがっ!・・・・・・」
ことは自分がこれから何を言ってもけやきを怒らせるだけだと悟った
「やっと負け犬くらいの理性を取り戻したみたいでよかった! 今後もお茶しようね? あなたが一蘭に会えなくなっても、私が一蘭の話をたくさん聞かせてあげるから。楽しみに待っててね♪」
「ありがとう、ございます」
「うん♪」
(母こっっっっっわ!)
ことに対して無邪気な笑顔と声で挑発と悪口を繰り返すけやきは女の怖さを凝縮したような存在と化していた
(やばい、静観して事態の行く末を見守っとくのは悠長すぎた)
・・・・・・
ずっとけやきのワンサイドゲーム
ことはひたすらに黙って聞いていた
それに対してけやきはますますヒートアップしている
と、ここで
(あのさぁ)
急に一蘭が動いた
「あのさあ、それいつまで続けるん?」
「「え!?」」
一蘭が言葉を発した瞬間、場の流れが止まった。これぞ鶴の一声である




