行儀
(すげー)
彼はこのような場所を表現できる語彙力を持ち合わせていなかった
(高級感焼肉店か。前世で焼肉は何度も食べに行ったことあるけど、高級店に行ったことはないな)
「いらっしゃいませ。柳様と中本様でございますね」
「はい」
「うむ」
(お店でもその態度なんだ・・・・・・)
「では案内させていただきます」
受付のお姉さんに案内された先に、さらにもう1人立っていた
「初めまして柳様、中本様。本日お肉の説明と焼きを担当させて頂きます。雅と申します。どうぞよろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします」
「・・・・・・ハッ! はい! んん゛、失礼しました。どうもご丁寧にありがとうございます」
雅は一蘭の御辞儀にしばらく言葉を失っていた。男性が頭を下げることの珍しさもあったが、それよりも彼の動作があまりにも綺麗だったからである
「雅殿、今日の量について、ちとせの方から聞いておるか?」
「はい、聞いております」
一蘭は柳と雅のやりとりを聞いて特訓内容に当たりをつけた
(食う特訓ね。野球部時代に何度もやったわ)
「では、とりあえず一通り頼む。お前さん、なにか食えんものはあるか?」
「いえ、特にないですね」
「ならよし。そうじゃ、ワシは米も頼むがお前さんはどうする?」
「師匠、このような場ではご飯はマナー違反では?」
(あんまり詳しくはないけど、肉本来の味を楽しむため、タレやお米を頼まないと聞いたことがあるような?)
「ふふっ大丈夫ですよ。好きに食べて下さい」
「ぁ、じゃあ僕も頼みます」
一蘭は雅に子供のように扱われた恥ずかしさから顔を赤くした
「お前さんは変な所で小さくなるの。マナーとは人に迷惑をかけないためにあるのであって自分を抑制するものではないぞ」
「はい」
しばらくすると肉が運ばれてきて、雅による説明が行われた
(人体にもある名前は大体イメージできたけど、その他の説明は一個も分からんかった。これからはもっと雑学も勉強しよう)
世の中には雑学を中心とした本も多くある。一蘭はこれまでそのような本を読んでこなかったが、これを機に触れてみるのもありだと思った
「では、焼かせていただきます」
「待て」
そこで柳のストップがかかった
「ワシらはこれから相当量食うため、ずっと立っておくのもキツかろう。一蘭の隣に座わらんか?」
「いえ、そんな訳には・・・・・・」
柳はこれからずっと立ち続けるのはあまりに酷だろうと雅に提案をした
「様式を求められておらんのに、こちらだけ一方的に様式を求めるのは違うじゃろう」
「柳様がそうおっしゃるのならば、お言葉に甘えさせていただきます。座るのはどちらの隣がよろしいでしょうか?」
「老人のワシよりも弟子の隣がいいじゃろう。それにお前さんもその方が嬉しいじゃろ、なあ?」
柳はニカァと笑って一蘭に問いかけた
(このジジイ、道中俺が好みを語った事をイジってきやがった)
「そうですね、雅さんこちらにどうぞ」
内心毒づきながらも雅に隣を空ける。実際役得なのは事実であった
「し、失礼します!」
雅からは緊張が感じられた




