師匠と街中デート()
昨日一日安静にしたおかげで体調はかなり良くなった
「師匠、今日もよろしくお願いします」
「うむ。早速じゃがお前さん、今日は訓練できそうか」
(まだ痛みとかはあるけど我慢すればいけるか?)
「いけます」
「いや無理じゃろ、どう考えても」
(なんやねん! 俺の覚悟返せや!)
「そこで今日はちと特殊な訓練をする」
「はい!」
「着替えて門に集合じゃ。外に出るぞ」
「はい!」
(口では返事したけど何するんだろう?)
「お待たせしました!」
「・・・・・・お前さんはいつも同じ服装じゃの。わしでさえ着物の柄は毎日変えると言うのに」
(師匠も1日の大半はほぼ道着なんだから余り人の事言えないと思うんだけど・・・・・・)
「ちっ、気配から色を隠すのが上手くなりおって。お前さんのそういうところがワシは嫌いじゃ」
(ふふふっ、”気”の理解は少し深まったのだ。死にかけた甲斐があったぜ)
「よし、少し歩くぞ。その際に周りの人をよく見て職種を当てろ。ワシはこの辺りの人ならある程度は知っておる」
「なるほど、今日は医師に使える常態を見抜く術を磨くって事ですね」
「ん? ああ、まあそんなとこだな」
(このジジイ、僕が医師になりたい事完全に忘れてただろ)
「それと今日の主な目的は着いてからになるの、さあ行くぞ」
・・・・・・
「不自然なペンだこ、かなり悪い姿勢。漫画家か小説家ですね」
「うむ」
当然、白昼堂々話している訳ではない。いくら自分の気配を周りと同化できるとはいえ話すとなると”相当な技術”がいる。わざわざやるのも面倒なので手掛かりとなった箇所を目線だけで伝えている。一つの動きから多くの事を読み取る彼らにとって目線だけで意思疎通するなど容易な事だ
「んー、ニート」
「まあそうじゃな」
「平日の昼間から出歩いている人なんて限られていますよ。あ、さっきの人は外回りの営業ウーマンでしたね。スーツが似合っていてかっこよかったです」
「お前さんの好みなんて聞いておらんわい。じゃがまあ一理あるの。全部合っておったし、この訓練は止めにしよう。そろそろ着くぞ」
(・・・・・・いや”そろそろ”が長いわ)
それもそのはず。一蘭達は人気のない柳の屋敷から都心のまで歩いてきた
(ショッピングモール以外の所をゆっくり見るのって初めてかも)
これはちとせが柳にお願いしたことである。ちとせは一蘭をギフテッドと思っており、情操教育をしっかりしなければいけないと常々考えていた。今の所家族に対して大きな欠陥はない。しかし、他人への行動は一蘭が閉鎖的環境にいるため試す機会がない。一蘭は一日の半分を柳のところで過ごすため、柳にお願いするのが無難であるとちとせは考えた
「折角の機会じゃし、気配を出すかの。下手に出すと人攫いの目に付くため面倒じゃ、少し強めに出すほうが良いじゃろう」
(テレビを見ていつも不思議に思っていたんだけど、平日の昼間に何で制服を着た人達がいるのだろう? テスト終わりって訳でもなさそう)
「お前さん、あれを見てどう思う?」
(ん?)
柳が指定した先には女性が泣きながら男性に縋り付いていた
「都心だと人の目があるので男性は結構のびのびと動けるんですね」
「む! ちと、不味いか? 女性を助けたいとか可哀想だとは思わないか?」
(何が不味いんや。・・・・・・まあ男性が優遇されている世界線のテンプレではあるよな)
「何をもって助けると言うかによりますよ。あの場をどうにかした所で彼女の問題は根本から変えられないのですから。今後彼女の面倒を一生見る位の覚悟がないと助けるなんて言ってはいけないと思います」
「・・・・・・」
(こやつは7歳児じゃろ? 勉学ができるのは分からんことはない。こやつの努力の様はよう分かっておるからの。じゃが、こうも達観できるのは性分か? ワシはこやつが神の使いと言われても納得するかも知れんの)
柳は黙って一蘭の意見を聞いていた・・・・・・
周りがだんだん騒がしくなってきた
『ねえあそこ見て』
『あの子、和装似合いすぎ』
『私はあのオジ様がタイプ!』
『え・・・・・・まあ応援するわ』
一蘭は美しすぎないほどの中性的顔立ちである。美しすぎないとはカッコよくないという意味ではなく、むしろ逆である。中性的でありながら彼の目からは確かにオスを感じる
(“男の子”で褒められるのは複雑だけど、”カッコいい”で褒められるのは気持ちがいいな!)
『カッコいい!』や『和装と長髪が合う!』と言われた事で前世基準の承認欲求が満たされていく
(これこれ! こういうのを待っていたんだよ! む!?)
カシャ
誰かが盗撮した
カシャ カシャ カシャ カシャ
それを始めとして多くの人が写真に収め、ネットに上げようと思った。しかし・・・・・・
『なんで!? 何回撮りなおしてもピンボケするんだけど!?』
『このリンゴ! こっちは高い金を払ったのよ! 頼んでもないカメラ性能を上げたのをここで活かさなきゃダメじゃない、しっかりして!』
誰も2人にピントを合わせてカメラに収められなかった
(師匠から事前に教えて貰った助かった。というか気配を揺らせばこんなこともできるんだな・・・・・・師匠暗殺とかしてないよな?)
機械から疎遠な生活を送っている柳が盗撮の事情を知っていることに若干の疑いが出てきた
「ここじゃ」
「え」
柳と一蘭の目の前に聳え立つ建物は・・・・・・




