91話 山田 一郎
山田 一郎。
探索者になる前から何となく知ってる。俺が小学生の時に日本1の探索者って呼ばれるようになったのを今でも覚えてる。テレビに引っ張りだこで、当時は世界2位だった。それから日本の探索者全体のレベルが高くなったとかいうこともニュースで流れてた。
普段はサラリーマンとして、平日出勤している。にもかかわらず、圧倒的な能力で日本1位の座を保持し続けた。
愛妻家としても有名だ。なんでサラリーマンをしてるのかって質問に、自分の子供には危ないことをして欲しくないから子供たちには、普通のサラリーマンってことにするために会社に勤めてると言っていた。
実際に子供の宿題で親の仕事を聞かれた時、探索者のことは一切話さずに、サラリーマンとしての姿を語ったとか。
とにかく日本で1番有名な探索者だ。探索者にはたくさんのインフルエンサーがいるが、山田 一郎は老若男女問わず知られている。
日米合同調査の時も平日にガッツリ被ってたから行けなかったと。
そういえば今日は土曜日だ。戦い続けてたから曜日感覚がおかしくなってる。
「スパンッ」
氷帝の体が縦に裂けて倒れた。
こんな終わり方ありか、と言いたい。山田さんの右腕が無造作に振られると同時に氷帝の体が裂けた。
「これで終わりかなー」
「は、はいっす」
「よかったー、みんな無事?」
「そっすね」
「なら、帰ろっか。昨日の夜、君たちと通信が途絶えたって会社帰りに連絡が来てさ、すっ飛んできたんだよ」
昨日の夜…。アイスドームに包まれたタイミングか。
「空からみたらなんか変なのがあるなーって思って斬ってみたら中に君たちがいたんだ。間に合って良かったよ」
「助かったっす。ありがとうございますっす」
「いいよいいよ、それより早く帰らなくちゃ。
明後日は長女の高校の卒業式なんだ。これを見逃すことになったら僕はもう立ち直れないよ。だからみんな疲れてると思うけど、僕が乗ってきたジェット機に乗ってね、ささっ!」
確実にぶっ飛んでる。強さもそうだけど、この思考回路ははっきり言っておかしい。
自分がどれだけ強いか知ってるはずなのに、戦争中に会社に行くとか狂ってる。日本のキーマンなはずなのに、要なはずなのに。サラリーマンとさては当然の行動ではあるのだが。
今も人をあっさりと殺した。ここは俺も同じだけど、人を殺した直後の雰囲気じゃない。
まるで休日に家族で原っぱにピクニックにでも来てるかのような、軽快な雰囲気。
これが日本最強になる人の考えか。俺はまだその領域に達っせてないな。
「今年は長男が高校に上がるんだ。それと3男が中学校に上がる。みんな可愛いんだよ」
ジェット機の中で家族エピソードが止まらない。
ジェット機を操縦しながらも途切れることがない話についていけない。
ちなみにこのジェット機は山田さんのプライベートジェットらしい。特別製で実は魔道具。整備も操縦も山田さん1人で済んでしまう。
今年の5月には6女が誕生するみたい。
現在、男5、女5で偶然にも綺麗に分かれてる。そして5月には11人目の子供だ。
山田さんは今年41歳で奥さんも今年で41歳。
幼なじみの奥さんと大学卒業後すぐに結婚して、その年に長女を出産したらしい。
「明日は家族でピクニックする予定なんだ。これも逃せない。みんな優しくて反抗期でもこうやって集まってくれるんだ。ほんとに幸せだよ」
8時間くらいの空の旅は山田さんの家族話を聞いてたらあっという間だった。10人と奥さんのエピソードをジェット機操縦しながら、一切話題が止まることなく話してた。
山田さん家のことはかなり深くまで知ることが出来た。もう俺にとって、第2の家族と言っても過言じゃないくらい知ってるし、好きになった。
山田さんいわく、長女は世界一美人で、長男は世界一かっこよく、次女、次男以降は世界一可愛いらしい。
ジェット機には家族写真が至る所に飾られてた。
到着早々、家に走って帰っていった山田さん。
そんなわけで氷帝アレクサンドルを倒すことが出来た。山田さんの力だけどね。
ロシアの大統領が動き出したと話があり、日本の内閣総理大臣も動き出した。
武力による戦争は終わったとみていい。ここからは国のトップ同士で話し合い、どう終わらせるかになる。
現段階でロシア軍のうちのおよそ500万人が既に亡くなっている。
うち、200万人はワン メイ1人によって命を落とした。
ロシア軍600万人のうち、500万人だ。
日本軍はおよそ300人が命を落とした。
2週間後、終戦が宣言された。
色々とあったみたいたけどよくわからない。
ただ、これだけでは終わらなかった。ロシアに乗じて、他の国も静かに動き出している。
軍に再度呼び出され、これからの1年で大きく動くことになると伝えららた。
はあ、もう疲れたぜ。
諸々落ち着いた日の夜。
朝姫とご飯を食べに行った。
「あ、あのさ私たち付き合ってるってことでいいんだよね」
「そ、そうだね。でもいざ、付き合うってなってもやることないよね」
「う、うん。そうだね」
お互い視線が合わずに時間だけが過ぎていく。
「そ、そうだ!来週から私も社会人になるよ!」
「お、おう。おめでとう」
捻り出した話題も後が続かない。
いつも何話してたっけ。全然思い出せない。
「あ、髪伸びたね!」
「うん。これからは伸ばしてみようかなって、似合ってるかな」
「うん!似合ってるよ!大人の雰囲気が出てる」
モジモジと髪を触る朝姫。
「お客様、ラストオーダーになりますが、何か頼まれますか?」
「えっ、じゃ、じゃあ、アップルリンゴで!」
「?リンゴジュースですね」
「は、はい!すみません」
「じゃあ俺はジンジャーハイで」
「ジンジャーハイですね、かしこまりました」
飲み物が運ばれてきて、究極に乾いた喉を潤す。
(グビッグビッ)
「ブフォッ!!」
飲み込んだ瞬間吐き出しそうになったがギリギリ耐えた。
「だ、大丈夫!」
朝姫が心配そうに俺の顔を覗き込む。
「なんだこれ、めっちゃアルコールなんだけど。俺ジンジャーエール頼んだよね」
「えっ、ジンジャーハイって言ってたよ」
「まじ!?記憶にないんだけど!」
「あははははっ、確かに村丸がお酒って珍しいって思った」
「言ってよー。ジンジャーハイとか飲んだことないし」
「飲みたくなったのかなって」
「どうしよ」
「私が飲んであげるよ。代わりにリンゴジュース飲んでね」
「いいの?ありがと」
「ふふふっ、なんで私こんなに緊張してるのかわかんなくなっちゃった」
「はははっ、確かに。別に変わらなくたっていいんだよね。今まで通りの接し方で」
「そうだよ!」
「あー、スッキリした」
「今日はありがとね。またね!」
「俺、まだちゃんと言えてなかった。
俺、朝姫が好きだよ。いつまでも守るから。一生傍で守り続けるから。だから幸せになって欲しい、この世界の誰よりも」
「あはは、それじゃあまるでプロポーズみたい」
「プロポーズだよ。いつまでも俺の傍で幸せでいて欲しい」
「はい、喜んで」
あの時と同じように満天の笑みの朝姫がそこにいる。
思わず朝姫の体を強く抱きしめる。朝姫も抱き返してくれた。
「本格的な結婚はもうちょっと待って欲しい。まだ戦争が終わってないんだ。それが終わったら結婚式をあげよう!」
「うん。待ってるから。必ずだよ!えへへ」
「任せて」
1年後、軍に呼び出されてドイツとの戦争が決まった。
ついに最終章の最終フェーズです。




