86話 開戦
俺は朝姫が好き。
まだ本当にそうなのかわかっていないが俺にとって特別なのは間違いない。
俺が戦争に参加する理由が出来た。朝姫との未来を幸せにするために俺は動く。幸せな未来の生活のために日本を敗戦国にしてはならない。
日本側が譲歩するような結果にしてはならない。
そのためにはどうすればいいか。
圧倒的な差で勝つことで、力を証明し、以降手を出させないように徹底的にやる。
それが今の俺にできることだから。
心の成長は能力の成長に関係する。
俺はダンジョンで戦い続けた。あの日以降朝姫とは会ってない。
メッセージのやり取りはしてるが、あれ以降お互い恥ずかしくて直接話せてない。
最近は頻繁に軍の人と話すようになり。今回の相手国はロシアだとわかった。
ロシアの軍人の数はおよそ600万人に対して日本はおよそ30万人。単純計算で20倍だ。
そして、ロシアで確認されてる下層到達者は18人。対して日本は25人。
数に押されるか、下層到達者が押し返すか。
正直勝てる数ではある。1人24万人。
ロシアの下層到達者のレベルや能力によって戦況が大きく変わる。
ロシアは日本のことをどう見てるか。侵攻の仕方によっても変わってくる。俺は陸の方が戦いやすい。
今日の会議ではたまたま宮本さんと一緒になった。ていうか、他の探索者と全く会わない。どうゆう能力とか、どういう人とか情報が一切入ってこない。
自分の持ち場を覚えるだけで、他の人とのコミュニケーションが全く行われない。
ちなみに戦場で探索者は最低2人行動で、単独行動は禁止された。
そして帯同する軍の部隊と合同訓練なんかで動きの練習をする。
暴れたい場合、部隊長から許可が降りればいいと、その場の判断で構わないと言われた。
下層探索者1人と行動を共にするのは29人。
25人の下層探索者が振り分けられて、あとは中層探索者で集まった人達が軍の人たちと動く。
まあ、少数精鋭みたいな感じかな。いっぱいいても意味ないし。
俺が所属することになった部隊に挨拶をする。
グラウンドに出て、真ん中で集団になってるところに入る。
「こんにちは。大竹村丸です、よろしくお願いします」
どういう挨拶がいいかわからず普通にやってしまった。
バサッ!
「よろしくお願いします!!」
みんながビタッ!と動いて敬礼をする。
「隊長の蔵田 勝久だ。よろしく」
2メートルはありそうな巨体に鋭い目付き、極めつけに左頬に十字の傷跡がある。
ゴツゴツの手を差し出された。
「よろしくお願いします。蔵田隊長」
ニヤニヤとした表情をして、
「良ければ戦闘訓練をお願いしてもいいですか?」
なんて言われた。
「俺とですか」
「はい、下層探索者がどういう動きをするのか我々は映像でしか見たことないので、ぜひ対策としてどうでしょうか」
「そうですね。でも手加減できないので、避けるだけでもいいですか?」
「は、はい。我々はどうすれば」
「全員で遠距離からでも近距離からでも攻撃してもらえれば」
「なるほど。
よし!聞いてたな!装備を整えたら訓練を始めるぞ!」
「「「はい!」」」
29対1。俺はグラウンドに立ち他の人は持ち場に着いて待機して、数100m離れた建物に潜んでる人もいるし目の前にもいる。
「始め!」
隊長の合図で一斉に動き出す。
前方からは銃の弾幕、そして四方からスナイパーからは頭部目掛けて放たれた弾丸。
「ダダダダダダダッ!!」
俺はその場から動かずにその全てを体で受ける。
感覚的には指で体を押されてる感じだ。普通の弾丸なら避ける必要は無い。
その後に近接戦闘部隊の5人が突っ込んでくるがその前に、俺の足元に筒が落ちて爆発する。
(どほー!)
勢いすげー。
前髪が浮かび上がる。
煙が晴れると既に取り囲まれており、今殴られるところだった。
これは素直に避けて、手首を掴んで放り投げる。
そい、そい、そぉーい。
10分が経って、1度終わる。
「まさかここまでとは」
「まあこんな感じですね。正直大抵の攻撃は聞かないです。飛行機に突っ込まれても平気だと思うんですよ」
「ははは、我々はどうしましょうか」
「どうしましょうか」
気まづい空気が流れる。
「それでも牽制にはなりますよ。それに18人しかいませんからね」
その夜、近くのお店を貸切にしてみんなでご飯を食べた。
その中で何人かと仲良くなれた。
まずは蔵田 勝久さん。
みんなから慕われてて、食事中もずっと笑顔だった。
次に前田 光さん。
金髪でチャラさが全開だった。系統的にはキングと一緒だと思う。年上年下隔てなくみんなと仲がいい。俺にもグイグイと来てくれて話しやすかった。
次に伊藤 広大さん。
坊主でヒョロっとしているが、着痩せするタイプらしく、わざわざ服を脱いでポージングを見せてくれた。軍の中でのあだ名は彫像らしい。軍の中で1番綺麗な筋肉の付き方だからそう呼ばれてるとか。俺と同い年だった。
次に沢木 康二さん。
ちょっぴりふくよかだが、そこからのパワーとスピードは凄いと評判だとか。
ダジャレを連発してる愉快なおじさんて感じだった。
最後に川島 甚平さん
この中では最年長で58歳。それでも肉体の輝きは失われていない。指が器用で孫にぬいぐるみを手作りでプレゼントするらしい。そして、最近はそれがあんまり喜ばれないらしく。今度は洋服に挑戦すると言っていた。孫娘がとにかく可愛いんだと。
と、この5人とは結構仲良くなれたと思う。
それからもたまに訓練相手に呼ばれたりした。
2033年12月10日9時27分。
ロシアから日本に小型戦闘機が飛んできた。
それに対応したのが宮本さんで、日本海上空で撃墜。
宮本さんの迅速な対応により日本への被害は無かった。
日本とロシアの戦争が始まった。
なんかモヤッとします。




