79話 ニュース
『本日のニュースです。
昨日、ウェストミンスター宮殿での英国議会中に5人組のテロリストが現れました。5人は黒ずくめの衣装を身に纏い、現場で止めようとした警察官に銃を発砲して、5名の警察官が無くなったことがわかりました。が、議員の中に負傷者はいませんでした。
なんでも、警察が突入した時には既にテロリストの5人が縄で縛られていたそうです。状況把握のため、議員の人達に聞いたところ、なんと1人の日本人の少年が行ったそうです。疑問に思いながらも身柄を確保して、事なきを得ました。
事情聴取によりますと、今回のテロの主犯はマイト カグ バンディ氏、28歳だということがわかりました。
動機は今回の政府の取り決めに不満を持ったことから始まったそうです。そこに同じ不満を持った4人を集めて、昨日実行に移したと証言したようです。
なんと、その時の映像があるみたいです。訪れて巻き込まれた記者がカメラで様子を撮っていたそうです。さすがプロですね』
『おっ!天井から、キックで一撃ぃ!?内閣総理大臣を救出しました。おっ!?魔法ですね、火と水の玉が迫って、おっ!殴って消しました!おっとこれはまたも魔法か、見えない壁を!!殴って壊していくぅ!
なんでか手に持ってる木の枝を手足に刺しましたね。そこからも動きが速いです!流れるような動きで3人目も手足に枝を突き刺すぅ!これはすごい!!おっと、突然枝を折り出して投げた!投げた先にはテロリストの1人が議員たちに向かって飛び出していた!人質か!?
放たれた枝に突き刺された衝撃で壁に叩きつけられた!!なんというスピードとパワー!どこにでもあるような細い枝でテロリストを圧倒しているぅ!!
残るは1人だ、何やら会話してますね。聞こえないのがもどかしい!
体格差が凄いです。毎日ジムに通っているような体つきに対して思春期で毎日悩んでそうな小柄な少年。力の差は明らかだぁ!
どうする少年!負けるな少年!
おっーと、大剣を…まさかのその細い腕で止めるのかーっ!!信じられない!これはもしかして私が昔考えた妄想か!?いや、ほっぺたをつねると痛い!これは現実だあ!
大剣が床に叩きつけられてタイルが割れる!こんなの一撃でもくらったらひとたまりもないはずだがぁ!なんという頑丈な体!なんという精神力!どれだけ自分の肉体に自信があったとしても!私にはできない!刃物を体で受けようなんて考えは出ない!わかってはいた!わかってはいたがこの少年、普通ではないぞ!そしてこの少年の武器は飴細工で作ったかのような細い枝だぁ!!武器の差は一目瞭然。だが、なぜか安心感がある!安心して観てられる!ここで男の体に枝が刺さったぁ!だが男は一切怯まない、止まらない!それだけの覚悟があるのか!左腕に空いた穴から血が出ています!大剣を腕で受ける異端な戦闘スタイル、圧倒しています!最初の勢いが衰えることなく男の体にいくつもの穴が空いていくぅ!!これほ致命傷なるか!くびぃぃぃぃ!!
これは勝負ありですね。最後は首にひと刺し。
お見事。
……コホン、乱れてしまい大変申し訳ございません。
いやーつい夢中になってしまいました、はははっ』
『スタジオほジエンさんに引いてますよ』
『えっ!そんなにですか!』
『そんなにです』
『気を取り直して、コホン。
このように無事にテロリストの5人が捕らえられました。こちらの謎の少年ですが、会話をしようと話しかけたところ、
『アイアムジャパニーズニンジャ』の一言を発したあと、ドロンと言う言葉と共に姿を消しました。調べたところによりますと、この言葉は日本の忍者と言う意味になるそうです。そういうわけで先程、日本人の少年と紹介しました。身長もおよそ150cmと小柄です。
私が個人的に調べてみたところ、日本には忍者という最強の人達がいるようです。日本人は日常的にあのような動きができるとか』
と、完全に俺の姿がニュースになっていた。ギリギリ顔も隠れてるし、マントを羽織ってたから服装もなんとか誤魔化せた。情報は150cmの日本人だけ。
俺に辿り着くのは至難の業だろう。
朝食のためにみんなが集まる。
朝食であの話題が出る。
「ニュース観た?あれヤバくない?」
「うん、昨日は出かけなくて良かったよ。大竹くんは大丈夫だった?巻き込まれてない?」
これって気づかれてないよな?
「うん、昨日は違うところ行ってたから俺もさっきニュース観てびっくりしたわ」
「ホント良かったよ、大竹くんが無事でね」
「それにしてもすごいよね。5人をあっという間に制圧しちゃうなんて」
「ね!僕も驚いた。あれは相当な実力者だよ」
「大剣を腕で受け止めるってどんな神経してんだか」
「それだけ相手との差があったんだね」
ホントに気づいてないようで、本人の前で色々話してる。
「それにしてもジャパニーズニンジャさんはホントに日本人なのかな」
「どうだろうね。目元もうっすらとしか見えなかったし」
「去り際にジャパニーズニンジャって、もっと良い言葉思いつかなかったのかな」
「きっとバレたくなかったんだろうね」
みんな酷いよ。言いたい放題言いやがって!
ピッツァを食べながら心の中で俺は泣く。
仕方ないだろ!ああいうのに憧れてたんだ。
「大竹静かだね。朝弱かったっけ?」
「え?そんなことないよ、ははは」
「なんか妙だね」
「なにか隠し事してるんじゃない?」
「そ、そげな事あるかい!」
「それじゃあありますって自白してるようなもんだよ」
「なんでもねぇでございます」
「まあ、無理に聞かないけどさ。今日はどうしようか、昨日の分を取り返さないと」
「ハーイ!ジャパニーズニンジャ!」
「ノー!ジャパニーズニンジャ!」
「はあ、今日これで何回目?日本人てだけでこれだよ。全く疲れるね。いい迷惑だよ」
すみません。俺の身勝手な発言のせいで。心よりお詫び申し上げます。
この日はお土産を買って過ごした。
ホテルに帰ってもまだ、あのニュースがやってる。
ま、そのうち終わるか。
翌朝、1番の便でロンドンを出る。
帰ってきましたジャパン!安心するわー。
「お疲れ!それじゃあまた」
「ありがと」
「またね。おつかれ」
家に帰ってお風呂に入ってからベッドに飛び込む。
翌朝、朝食を食べてるとこっちでも同じニュースが流れてた。色んなコメンテーターがそのことについて話してる。
他国で勝手なことをするなとか、素晴らしいですねとか、1歩間違えればとか、なんか嫌になってテレビを消した。
ヒャッハー!ヒャッハー!してたら体の向きを変えたくなり、目を開けて寝返りをしようとしました。
そしたらなんと部屋の電気が付いていたんです。
その一瞬で書いてる途中に寝たのに気づきました。
夢からの現実はあまりにも残酷でした。
毎回寝てることしか話してないですね。




