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大竹村丸物語  作者: 骨皮 ガーリック
62/97

59話 テレビ出演

金曜日。

ついに今日は俺がテレビに出る日だ。全国デビューしてしまうぜ。当然この1週間、妄想ばっかりで授業の内容なんか頭に入ってこない。


放課後、校内放送で校長室に呼ばれる。佐々木先生から校長室の場所を聞いてから向かう。この学校に来て初めて校長室に行く。そこには木で出来た重厚な両開きのドアがあった。


(コンコン)

「どうぞ」

「失礼します」

中に入ると校長先生の他に2人の男性がソファに座ってた。

「どうもこんにちは。本日は番組の出演に応じてくれてありがとうございます」

「こんにちは。いえいえ、こちらこそお願いします」

「早速ですが、私共が用意した車で渋谷のスタジオまで行くことになっております」

「わかりました。お願いします」

早速校長室を出て、学校の駐車スペースに置いてる車に乗って移動する。



「それにしても、その若さで下層到達おめでとうございます。いやはやその才能恐ろしいですね」

なるほどね、俺の才能を褒めてきたか。

「いやいや、自分なんて全然大した事ですよ」


「ぶっちゃけ羨ましいですね、その才能。私もダンジョン行ったことあるんですけどもう全然倒せなくて」

「そうですね。才能に恵まれて運が良かったですよ」

「ですよね。ぶっちゃけダンジョンて能力次第ですもんね」

「ですね」


助手席の人と話してると運転手が会話に入ってきた。

「いやいや、そんなこと無いでしょ!能力だけで下層に行けるならもっと行ってる人いっぱいいますよ。今現在たったの20人ですよ!才能だけじゃ無理ですよ。才能だけで超えられない壁がその下層なんですよ」

「そうかな?日本最強って言われてる田中一郎こそ、あんなのぶっちゃけ才能だけでしょ。何回か生で見たことありますけどぶっちゃけオーラが全然無かったよ。苦労してなさそうな感じだったし。あんななんでも斬れる能力があればぶっちゃけ誰でも下層に行けるでしょ」


助手席の男が喋り終わったあと言いたいこと全部言えたからか、ヘラヘラと笑いながら内ポケットからタバコを出して吸い始める。

「お前も下層に行ったからって調子に乗ってると痛い目に会うぜ?ハハハッ!」


大人にもなってこんなに精神が未成熟な人がいるのか。世の中まだまだ知らないことだらけだぜ。運転手の人とバックミラー越しに目が合うと申し訳なさそうな顔をする。


隣では何を考えてるのかわからない表情でタバコをプカプカと吸っている。俺は窓を開けて流れていく建物を見て時間を潰す。


「そういやよー、結構稼いでるんだろ?高校卒業したら探索者1本でやるのか?」

「まあ、そうですね」

「いいよなぁ、社会に出ないで稼げる楽な職業で。俺なんて毎日上司に頭下げてご機嫌とって家に帰るのは日付が変わる直前だもん。人間関係を気にしなくていいのはさぞかし楽だろうなぁ。羨ましいぜ」


人には必ず好みがある。俺は人の気持ちを理解出来ない人が嫌いだ。目の前に最高のサンプルがいる。

明鏡止水。明鏡止水。俺の記憶からこの男の存在を消す。


17年間生きてきて、1つだけ確かなことを俺は知っている。嫌いな人間のことを考えてる時間以上に、無駄な時間は無いということを。だから俺はこの男のことについてこれ以上考えることはしない。

大人な対応で嫌な顔せずに流していく。


外を眺めてれば1時間はあっという間だった。大きなビルに入った後、控え室に案内される。指示があるまでここで待機するみたいだ。渡された台本には一連の流れが書いてあった。


30分後、指示に従ってスタジオに入る。それから指定された椅子に座ってスタンバイOKだ。

目の前にはすりガラスの壁があってカメラからも出演者からも俺は見えないようになってる。これは事前に俺から提案したことだ。


なんでこうしたかって?直前になってひよったからだ。テレビに顔を晒すのが怖くなった。だって悪口とか言われたら俺きっと立ち直れない。繊細でピュアな心を持った少年のハートは傷付きやすいんだ。


そんなわけでダメ元で提案してみたら快く受け入れてくれて用意してもらった。

椅子に座って話しかけられるのを待つ。


「━━━ますからね。

さて!続いてはなんと!つい先日ダンジョンの下層に到達した人物にスタジオに来てもらいましたので話を聞いていきたいと思います!」

「いやー、凄いですね」


「それでは紹介します。下層到達者の大竹さんです!」

合図と同時にカメラがこっちを向く。映ってるのはすりガラス越しの俺の影。

「どうも、よろしくお願いします。大竹です」


「本日は来てくれてありがとうございます。現在日本には20人しかいない下層到達者、その1人が大竹さんです。なんとまだ高校3年生なんだとか」

「いやー、凄いですね」


「そんな彼の情報をダンジョンギルドから仕入れることが出来ました。2年弱で下層に到達、現在は33階を突破したそうです。33階のモンスターはどうでした?」

「そうですね、炎を纏った鳥だったんですけど再生能力持ちでめんどくさかったですね」


「そうですよね。33階には朱雀と呼ばれるモンスターが出現します。四神から取られた名前ですけども、朱雀はどんな傷も再生するモンスターと言われています。大竹さんはどうやって倒したのでしょうか」

「そうですね、最初は武器を使って殴ってたんですけど、全て再生されてしまったので思い切ってすり潰して見たんですよそしたらたまたま魔石が割れたみたいで倒せました」


「す、すり潰したとおっしゃいましたが、大竹さんの武器は確か金棒でしたよね」

「はい、金棒の形を変えて平べったくしたんですよ。そこからは布団叩きの要領で頭から尾羽にかけて叩き潰して行きました」


「そ、そうなんですか。これは素晴らしいですね。下層のモンスターにも力負けしないと。

ギルドからの評判では普段は口数が少なく、大人しいですが、人当たりが良くて、周りが良く見えてて気遣いが出来ると書いてありますね。最後に※で大怪我が多くてギルド職員は結構心配してるって書いてありました。ギルド職員から愛されてるのがわかりますね」

それから何個か質問が続いて無難に返していく。


「それから、えーっと、こほん。好きな言葉は致命傷。好きなものは致命傷を与えてくれるモンスター…えーっと、合ってます?」

「はい。バッチリですよ」


「これは詳しく聞いてもいいんですか?」

「特に問題は無いと思いますけど、その言葉通りですね。命の危機に瀕する程の怪我が大好きです。致命傷を負いながら戦うのが史上の喜びで、興奮します。死を感じることで生にしがみつくみたいなですかね、わかりやすく言うと」


「例えばって聞いても?」

「そうですねー、直近だと30階のドラゴンと戦ってる時にマグマを飛ばしてくるんですけど、その時に片耳と太腿が溶けたのと、お腹からマグマが入って背中から抜けていって腹、背、内蔵を溶かした後に脇腹もいかれましたね。あの時は笑っちゃいました。その後直ぐに倒してからポーションを飲んだので元通りですけど。あれは痛気持ち良かったですね。ポーションは勝負が終わってから飲むのが公式ルールです。このルールがあるとよりヒリつくんですよね。ハハハッ!」

「「「…」」」

静まり返るスタジオ内。


「ちょっと表現がグロかったですかね。すみません」

「あ、ありがとうございました。目標とかありますかね。これからの意気込みとか」

「そうですね。これからも強いモンスター達と血湧き肉躍る戦いをしていきたいです!」


「ありがとうございました。以上で終わりになります」

「はい、ありがとうございました」

カメラの向きが変わって俺は控え室に戻る。


意外と緊張はしなかったな。変なこと言っちゃわ無いか心配だったけど大丈夫だった。最近はちょっとした事で揚げ足を取られるからな。過剰な発言はしたくない。


帰りも車で学校まで送ってもらって自転車で家に帰る。

「ただいまー」

「おかえり」


明日は34階に行こう!

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