54話 一撃
29階に通い続けるもあんまり成果は出ていない。
6月に入って完全な梅雨がやってきた。傘を常備する季節だ。ちなみに俺はいつも折りたたみ傘を2本持ち歩いてる。誰かが忘れた時にスっと渡せるように。でもまだ1回もそんな場面は来てない。
配信には今では6人くらいが見てくれてる。コメントをするのはいつもの2人だ。
ただ配信内容は進展がないからマンネリしてる。
6月9日。
既に通い慣れた岩場道。最近はヒュドラと戦いながらコメントを読んで会話したりする。それくらい余裕がある。
頭を受け流しながら、ぼぅっと再生する頭を眺めていて、気になったことがあった。
早速試してみようとするも上手くいかない。
やり投げをして頭を金棒が貫通する。やりたいことは頭に金棒が刺さったまま再生したらどうなるかだ。
金棒が刺さったままなのか押し出されてしまうのかということ。
ただ上手く頭の中で止まるような力加減ができない。
何をしてるのか観てる人にも伝える。
『持ち手の部分に返しをつければいいんじゃね?』
コメントを見てなるほどとなる。
早速金棒の柄の部分に返しを付けて出してみた。
(せいっ)
(プシュッ!)
「うーん、確かにさっきまでより金棒の貫通後の勢いは無いな」
それから力を調整しながら投げ続ける。
(ズジュッ)
「おお、刺さった!」
金棒が刺さった頭が力無く地面に落ちた。しばらくしても治ってく感じがしないまま頭は起きてこない。するとその頭に寄ってきた他の頭が動かない頭をガブッと食べた。
残ったのは頭が無い首だけ。数秒後頭が再生して動き出す。
「なるほどね」
『これならいけるか!』
『いけそうですね』
ついにヒュドラ攻略の兆しが見えた。ヒュドラの弱点はこれか。
再生はいくらでもできるけど条件があるのか。
それなら簡単だな。
あれ、でもこれも近接とは言えないかも?
まぁいいか、さすがに飽きてきた。
返し付き金棒をヒュドラの頭に刺しまくる。再生させようと頭を食べに来るがそれは俺が許さない。受け流してから頭に刺し込む。
が、すんなりとは行かせてくれなかった。同時攻撃により遠くに落ちた頭のカバーに行けずに食べられてしまった。
なるほどね。倒す場所も大事なのか。なるべく一纏まりになるように倒す。間に合わない時は1回頭を潰して時間を稼ぐのがいい。
頭に刺す作業が終わって無事にヒュドラを倒した。
「やっと終わった〜」
『乙』
『お疲れ様です』
またもや胃袋の中に宝箱を発見。
中には金色の筒が入っていた。
「なにこれ?」
『結構有名なやつだな』
『それは転移笛ですね。原理はわかってませんがその笛を吹くと各階の入口に転移できます。なのでみんな重宝してますね。帰りが一瞬なので』
「おー、なんかすごいやつだ」
魔石と素材を回収し終わって笛を吹いてみる。
「ピュゥー!」
(ブン)
「おー瞬間移動だ。すげぇ」
あれ、カメラが無い。やべっ、置いてきちゃったのか。まじかよ。
走ってさっきの場所に戻る。
「すみません。カメラ置いていっちゃいました」
『忘れてそのまま帰るかと思った』
『手に持ってれば一緒に転移できますよ』
「そうなのか、よかった」
その後は無事にカメラと一緒に転移した。
「今日はこれで終わりますね。明日はついに30階に挑戦します。ワクワクしますね」
『おっ!待ってた』
『楽しみです』
「それでは」
『乙』
『お疲れ様です』
終わったぜ。ヒュドラに結構時間かかったな。やっぱ再生持ちはそれだけで厄介だな。
さて、ドラゴンに俺の力は通用するかな。
お風呂でしっかりと疲れを取ってご飯をいっぱい食べる。そして22時に寝る。
翌朝7時に起きて気を引きしめる。食パンを2枚食べて毎日のルーティンをこなす。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
ギルドについて更衣室で戦闘服に着替える。今日のために買った耐火性の防具を着る。
うーん、気心地バッチリ。
ダン証をかざして黒渦に入る。
29階とは違って洞窟のようだ。一面が岩に囲まれてる。めちゃくちゃ暑い。スカーフが無かったらかなりきついな。空間がもやもやとしている。空気が体にへばりつくような感じだ。全体がとにかく暑い。
そして配信を始める。
「おはようございます。今30階にいます。これからドラゴン討伐に行きます。倒せたら俺もドラゴンスレイヤーの仲間入りですね。それにしても暑いです」
8人が視聴中
『ついにこの時が来たか、待ってたぜ』
『おはようございます。ワクワクします』
既に角で周囲を警戒してる。しばらく歩いてると異様な光景に思わず息を飲む。
「あれはマグマですかね」
『そうだな』
『そうですね』
至る所にマグマの川が流れている。さらには池もある。暑さが増していき汗が止まらない。
マグマに近づくと川から跳ねてくるマグマの粒が地面に落ちて岩の一部を黒焦げにする。
「で、でかい」
ついに角でドラゴンを確認した。
「始まりますよ」
数分歩き進めるとドラゴンの一部が見えた。ドラゴンの鼻先が岩場からちらりと顔を覗かせている。
この距離から見ても明らかにでかい。ヒュドラと同じくらいだと思うがなんだろう、存在感が全く違う。そこにいるだけで生物の頂点だというのがはっきりとわかる。今まで味わったことが無い威圧感だ。空気が揺れる。
ドラゴンの鼻息がそこの空間の温度を10℃以上上げてる気がする。
ドラゴンが俺に気付いて、咆哮をあげる。たったそれだけで近くの岩が崩れ始める。
「それじゃあ始めますか」
『がんば』
『頑張ってください!』
一直線にドラゴンに向かって走り出す。
ドラゴンが大きく開けた口から炎を吹き出す。地面を滑るように進む炎を俺は横に避けて前に進む。炎が途切れると、炎が通った地面は黒焦げになっていた。
当たったらダメだな。受け流しも無理か?
続けて出してくる炎を避けて大きく跳んでドラゴンの鼻先に辿り着く。
空中で足場がないから踏ん張りが効かないが、俺の全力を叩き込む。
「万死殴殺!不滅の崩壊」




