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大竹村丸物語  作者: 骨皮 ガーリック
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48話 昇華

俺は5日間入院することになった。脳へのダメージも考えられるためと言われて、ベッドに横になる生活が続く。


2日目には飽きて、なにかやれることを探した。

角を生やして病院を出入りする人を覗いたり、金棒を高速で出し入れしたり、続けること数時間、16時頃に生まれて初めて魔力が底をついた。魔力を取り込むより早く魔力を消費した結果、無くなった。これには空いた口が塞がらない。


金棒をしまえないからベッドの下に隠した。角も出ているが周りの様子が全く見えない。


全身の皮膚が空気中の魔力を勢いよく体内に取り込んでいるのがわかる。全身の毛穴が開いたところに魔力が入ってきて、全身に魔力が巡っていくようで、感覚が研ぎ澄まされてるような気がした。これが2時間くらい続いた。


ずっと大きく息を吸い込んでるような、そんな状態が続いておかしくなりそうだった。終わってみてわかる、全身を巡る魔力の流れ。


昇華という言葉の意味を詳しく理解してる訳では無いが、今の状態を表すのにぴったりなのはこの言葉だということはわかる。


人間の枠からはみ出した生物になったようなこの万能感。今なら空が飛べそうだ。今幻覚が見えているのか、俺の掌の上に地球が乗っているのが見える。


気づいたら周りは明るくなっていて、日付けを見ると日を跨いで朝になっていた。


昨日と同じように角を生やして周りを見たり金棒の出し入れをすると、昨日までとは魔力の感じ方が桁違いだ。角の探知では人の呼吸すら読み取れる。金棒を出す時の魔力消費を抑えると金棒が小さくなり、増やすと大きくなる。


魔力が底をつくと普段より多くの魔力を空気中から取り込んでるのがわかる。ただ昨日みたいに全能感は無い。


魔力を無くすことで強くなる訳ではなく、魔力を無くしたことがきっかけで強くなっただけなのか。


次の日も試した。魔力を金棒に流したり、全身に纏ったりとしたがベッドに寝っ転がった状態では何か変わった感じはしない。


5日目の退院日、最後の検査で足の親指の骨が完全にくっついてるのがわかった。ギプスを外して歩いても問題なかった。医者も驚く回復スピードだったが、探索者の中には割といるらしい。それも強い探索者程治りが早いと。


この入院を経て何となくそれはわかったような気がした。魔力による人体への影響は計り知れない。


退院してリハビリのためにダンジョンに行った。調整ってことでおなじみの24階でリザードマン狩りに来た。

早速1体のリザードマンと会う。近づいてきたリザードマンの槍を金棒で受け流して、金棒に魔力を流して叩くと槍が折れて、二撃目の振り下ろしでリザードマンの体が潰れた。


体が鈍るどころか冴え渡り、リザードマンを圧倒した。角による探知の範囲も広がり、よりスムーズな狩りができた。今ならあのワイバーンですら潰せると思う。これは決して過信ではなく事実だ。



5月に入って、柏木さんと27階に再チャレンジだ。帰ってきたぜワイバーン!!お前を殺しに来たぜ!

それに答えるようにワイバーンが既に上空を旋回している。


俺を見つけたようで急降下してくるワイバーン。それに合わせて俺はジャンプする。地面を蹴ると衝撃で地面が割れる。そして俺は今十数m上空にいる。


今の素の身体能力でこれが可能になった。明らかに前とは別物の体の性能だ。タダでは転ばない男。大竹村丸!


空中でワイバーンと激突すると両者弾かれる。

(ギジイィィィ!!)

やっぱり空中じゃ押し切れないか。


着地して、時を待つ。旋回後再び急降下、だがこれは前回俺が吹っ飛ばされた、地面スレスレからの突撃だ。

数百m先から一直線に突っ込んでくるワイバーンを迎え打つ。


金棒に魔力を纏わせてタイミングを合わせる。

(どぅおぉぉおら!!)

ワイバーンの鼻先にフルスイングを決める。

(ドゥギィィィン!!)

(ドゴォォォン!!)

地面に勢いよく叩きつけられるワイバーン。ピクリとも動かなくなったワイバーンが死んだことを告げる。


いったいなぜ俺の力は急激にこんなに高まったのか。はてさて考えてもわかることはない。


2体目以降も一方的な戦いが続く。4時間後突然にそれは姿を現した。


緑の鱗を纏うワイバーン。キングワイバーンはこの階のキーモンスターで、風魔法を操るキングワイバーンは最もドラゴンに近い生物だ。

「やれるか?」

「はい」


開戦の合図も無く始まる戦い。ワイバーンと違いただ突っ込んでくるだけじゃない。翼や足を上手く使って攻めてくる。


風魔法を使って空を飛ぶため飛びながらの翼の攻撃が可能となる。風の刃は岩をも砕く。でも残念俺には見えるんだ。成長した角の探知は魔力の流れも見える。


魔力を纏った金棒なら弾くこともできる。下から吹き上げる風で上空に飛ばされた。上空数百mからの落下、ただでは済まない。以前の俺ならな。受け身も取らずに両足から地面に落ちる。

(バゴオォォン!!)


岩場が割れて地面に大きな亀裂が入る。そこから上がるとキングワイバーンが狙い済ましたように突撃してくるがもちろんそれを正面から迎え打つ。

(バギィィィ!!)

俺の振り下ろしは頭を砕き顎を割る。


「終わりました」

「お、おう」

「帰りますか」

「そうだな……なぁ、めちゃくちゃ強くなったな。俺何もしてないし」

「そうですね。相性が良かったです」

「そ、そうか」

「はい」


帰り道は静かだった。


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