43話 26階
先週はうちの学校の卒業式があった。ついに先輩ともお別れすることになって、みんなで花束を送った。4月から社会人になる2人。ただこれからもダンジョンに行くみたいだから結構会えるかもしれない。
結局先輩達は28階まで行った。28階のモンスターはまだ倒せてないみたい。でもそこまで行けたら企業に就職する必要ないと思うけど、企業に入るといろいろとやってくれるから楽だと言っていた。それと危険手当?が付くと言っていた。給料がかなり良いらしい。
そうなのか、俺もそろそろ進路のこと考えないとな、俺はどうしようか。まぁ、いいや。
ちなみに姉はプロのある企業からスカウトされたようで、これからはプロバレーボール選手だ。
姉は一人暮らしをするらしくせっせと荷物をまとめてる。
ついでに灯さんも同じだ。最後にまた一緒に写真撮ることになった。
今日は26階に行く。
26階は森が広がっていてトロールがいる。大きさはオークと同じようなものだが肉体は真逆だ。引き締まったオークに対してぶよぶよに出まくった脂肪が顔、腕、腹、足全てについてる。
だがその肉体から生まれるパワーはオークとは比較にならない。3mの巨体が暴力の限りを尽くす、
残虐な怪物、それがトロールだ。
俺は枝から枝へと跳び移りながら移動して、柏木さんは普通に地面を歩いてる。
すると、ドスドスと地面を揺らして何かが近づいてくる。戦闘態勢をとって待つ。
横から出てきたのはやはりトロール。贅肉を揺らして近づいてくる。柏木さんに気づいたのか方向転換をする。俺はまだ気づかれていない。俺は枝を移動して近寄る。柏木さんは土の壁を造ってトロールの足止めをしている。
背後からの奇襲を仕掛ける。これはチャンスだ、狙いはもちもん頭、開幕速攻で最大威力だ。
枝から飛び降りてトロールの頭に金棒を振り下ろす。
「命の儚さこそ命の重さ。散り際に咲くはキンセンカの花。知りながらにも無為に帰す。万有殴殺 会撃の示!!」
(ガチョォア!!)
地面を叩く勢いで放った一撃はトロールの頭部を少し削って跳ね返された。
俺の希望が無為に帰す。すぐに立て直して攻撃をする。
(デイヤァッ!ベブリチャッ!サダマァ!)
三連撃も効いた様子は無い、そこから振り下ろされるトロールの左拳。
(ズィドォォォン!!)
金棒で受け流し、もう一度反撃に出る。
殴っても跳ね返され、殴られれば押される。なんとか攻撃を防いでいるが、俺の攻撃がほとんど効いていない。とにかく俺の集中力が切れるまでやめない。角を生やして応戦する。
所々柏木さんの土が援護してくれて助かってる。
金棒でトロールのパンチを受け止めてもトロールの拳にはダメージがいかない。脂肪が衝撃を吸収してるのかもしれない。
ここでトロールの動きが変わって俺を両手同時に左右から殴りにきた。俺は上に跳んでパンチを避けるとトロールの動きがさっきまでより一段階速くなり、空中の俺に左拳が迫る。
咄嗟に金棒で受ける体勢に入ると目の前に大きな土壁が出てきた。柏木さんのサポートでほっとした瞬間、勢いよく拳が土壁を砕いて俺を殴る。
(グシィ!ドロスドダッシャァ!!)
金棒で受けたが受けきれず吹っ飛ばされる。30mくらい転がったところで木にぶつかって止まった。頭をぶつけて視界がぐらつく。腕腰足全てが痛い。
(ぐぅぉ)
だがこんなところでぼうっとしてられない。柏木さんが1人残されてトロールと戦うことになる。後衛の柏木さんでは一撃受けただけでかなり危ないと思う。視界はぐちゃぐちゃだが角を頼りに走る。
足元がふらつき何度か躓くがなんとか受け身をとってすぐに走り出す。土壁で時間稼ぎをしてくれたおかげで間に合った。力いっぱいのフルスイングで足を削る。少しだが削れてるのは間違いない。これを続けてなんとかここを乗り切りたい。
上手く木を利用して攻撃を躱す。枝から枝に跳んでパンチを避ける。土壁を使ってパンチを避ける。できることをやる。続く猛攻に足を滑らせモロに一撃をくらう。切り傷に打撲、幸い骨折まではいってない。悲鳴をあげる体を無理やり動かす。
金棒を投げて注意を向けさせて柏木さんからの万全なサポートを貰う。リザードマンの防具のおかげでなんとか生き延びてる。
力を溜めて足を殴る。手に力が入るまで足を使って避ける。
攻撃を始めて40分、やっと片足を削りきった。
片膝をつくトロールの半身を土で覆う。
ピッタリと土で埋めたおかげでなかなか動けないトロール。
今がチャンスととにかく殴る。
ジャンプしてからの振り下ろし。回転してからのフルスイング。数分後トロールが土から抜け出してきた。
(ギャポオオォォアア!!)
トロールの叫び声に森が揺れる。未だ立てないトロールに攻撃を続ける。動けないトロールはすぐにまた土で覆われる。
これを5回繰り返してようやく倒せた。
魔石を取り出すと大きさに驚いた。ピンポン玉くらいのサイズの魔石だ。
こりゃ強いわけだ。リザードマンの魔石はビー玉サイズだったからな。
ボロボロになりながらもなんとか勝てた。
「終わりましたね」
「ああ、心配したぜ。大丈夫なのか?」
「ははっ、まぁ、なんとか。これからは先に片足を集中攻撃で削りましょう。それからはさっきみたいに土で固めてひたすら殴るの繰り返しで」
「そうだな。今のところそれが一番確実だからな。いかにスムーズに片足を削るかだな」
「そうですね。毎回こんなに攻撃もらってたらやばいですからね」
「今日は終わりにしとくか。しっかり体休ませろよ」
「はい」
自転車を漕ぐのも辛い。お風呂で疲れを癒そうとするもお湯が傷に染みてそれどころじゃない。
その日はぐっすり眠れた。




