39話 合同合宿
菊地先輩の家で引退パーティーを兼ねてのクリスマスパーティーが行われた。去年同様プレゼント交換もあり、かなり盛り上がった。
今日から冬季明暗合同合宿が始まる。去年同様2泊3日だ。
ついに鈴鹿が正式に部長になった。特になにか変わる訳では無い。
初日の俺のメニューは対人戦だ。清麻呂とはどれくらい戦えるようになったか。夏は手も足も出なかったからな。
「よっしゃ!やろうぜ!」
「待ってたぜ」
両者気合十分、学校の校庭で戦闘が始まる。
まずはとにかく攻めるしかない。それでも当然清麻呂は植物を出して対応してくる。
ツタで俺の体を抑えようと四方八方から伸びてくる。金棒でツタを叩くとちぎれる。今の俺の力ならイケる。
容赦なく俺の体に巻きつこうとするツタを叩いてちぎる。
清麻呂の前まできてフルスイングするが一瞬で出てきた大木に防がれる。
(ドリュゥゥン!!)
(メキメキメキ……ズドゥゥゥン!!)
金棒により大木はえぐられゆっくりと倒れた。
「へぇ、強くなってるな。確実に」
「まぁね、すぐにこれを叩きつけてあげるよ」
それからも続く植物による攻撃。
「いい加減諦めたら?もう俺は捕まらないよ」
「へへっ、そうだな。俺の力の一端を特別に見せてやろう。
万樹創造。生命の灯花。」
清麻呂の前に一輪の花が咲くとその下から勢いよく大木が生まれた。高さは10mを超えてる。その木には一切葉が付いていない。いくつもの長い枝が伸びている。
「やれ」
清麻呂が呟きが合図で、枝が一斉に俺に向かってくる。さっきまでのツタとはスピードもパワーも桁違いだ。鞭のようにしなって俺に襲いかかってくる。
「これが俺の力。存在しない植物を創り出すことが出来る。それに加えて生命の灯花。これはその植物に命を与える。今その木は俺が操作してる訳では無い。俺の命令の元、自らが考えて村丸を攻撃している。使い勝手のいい能力だろ。その隙に俺はさらに木を増やせる」
それから同じ木が2本3本と立つ。
無理無理無理!!
(プヒュンップヒュンップヒュンップヒュンッ)
避けた枝は地面を抉る。
仕方ないこっちも使うか。
角を生やして集中する。こうなった俺に死角は無い。金棒を消してとにかく避ける。目を閉じることでより鮮明に見える。
「これを避けるのか」
半歩でも足の置く位置を間違えたら終わりだ、身を屈めて清麻呂の方に向かう。
(プヒュンップヒュンップヒュンッ)
突然の閃きと同時に実行する。
枝はスピードを出すために毎回根元の方まで戻ってから叩きにくる。
そして清麻呂は木の傍にいる。
タイミングを測って何度かシュミレーションをする。
(シュッパシ!シュッパシ!シュッパシ!)
今!
戻る枝を掴んで跳ぶ。枝は急には止まれない。行く所まで行って枝を離す。木の根元まで辿り着くが枝の攻撃は緩まない。
それでもいい、清麻呂との距離を詰めて殴る。当然ツタで応戦する。
その間も枝の攻撃は止まらない。それでも清麻呂がいるからか前からの攻撃は無くなった。
「その角なんだよ」
「へっ、俺の第二形態だ」
「かっこいいじゃねぇか」
押され気味の清麻呂。
「俺は近接型じゃないんだ。万樹創造!」
すると、地面から現れた樹皮が清麻呂を覆いシェルターとなる。
そこから過激になる枝の攻撃。合間を縫って樹皮を金棒で殴るが手応えがない。顔に飛び散る水滴はなんだかヌメっとしていた。樹液か?
「くっそー!!」
ビクともしない樹皮シェルター。オマケに樹液でベトベトだ。
枝の連打が止まらない。より隙が無くなっていく。避けれなくなり金棒で叩くが全て叩ける訳では無い、枝が俺の体を削っていく。
「万樹創造!」
樹皮シェルターの中から聞こえてくる最悪の言葉。
地面に色鮮やかな巨大な花が咲いた。
瞬間枝がその花を叩くと花から粉が吹き出る。避けようもなく全身からその粉を被ると体が動かなくなる。枝の攻撃が止み、樹皮シェルターから清麻呂が出てくる。
「はい、終わり」
喋ることもできない。
「いやー、結構手強いから麻痺で動けなくさせちゃったよ。手加減て難しいなぁ」
こ、この野郎!
確かに初っ端にこの花を咲かせれば一瞬で勝負が決まるか。
相変わらず手札が多すぎるんだよ。
「万樹創造」
新たに咲く一輪の花。
その花を摘んで俺の口元に持ってくる。その花から垂れた液が口に入る。
「どう?動ける?」
「う、うおぅー」
体の自由が戻った。
「強すぎるわ!」
「まあな!」
「また完敗かよ。今回はイケると思ったのに」
「まだまだぁ!負けらんないぜ!」
「もう1回やろうよ」
「何回でも受けてやるぜ」
その後も防戦一方で負け続ける。
時間がきて終わることになった。結局触れることもできなかったか。
あれでもまだ手加減してるんだろ、殺傷能力無い攻撃だったからな。
それから俺たちはお風呂に入る。
「あの花なに?俺に飲ませたやつ」
「あーあれか、あれは状態異常を回復するための花だな。毒、麻痺、火傷、凍傷なんでもいける」
「スゴすぎ」
「でもあの花一輪で魔力消費半端ないからな。万樹創造は基本普通の植物より魔力消費が多いな」
「へー、なるほどね」
「まっ、それでも魔力が無くなることはないけどな」
「ま、まさかだけどさ?」
「ああ、そのまさかであります。魔力の回復もできますよ」
「セコッ!」
「フハハハハッ!植物とは生命の始まりなのだ。何ができてもおかしくないだろう」
「くそー!俺なんて金棒で殴ることしかできないのに!」
「あの角なに?」
(ニョキッ)
「これは俺もよくわかってない。いつの間にか生えてきたんだ、あれがあると全てが見える。あそこの裏側に置いてあるシャンプーの位置も今脱衣所に時雨がいることもね。
3、2、1、」
ガラガラ。
「どうだ?完璧だろ?」
「それも十分セコいぞ」
「あっ、せんぱ〜い!見てましたよ、すごい戦いでしたね!」
「時雨、ずっとこっちみてただろ。自分のことに集中しなきゃダメだぞ」
「先輩もこっち見てたんですか!?それに僕には攻撃が通用しないんで大丈夫ですよ」
「見てたわけじゃない。見えたんだ」
「ああ、その角ですか。どこまで見えるんですか?」
「ん?大体普段目で見えてる距離ぐらいかな」
「えっ!そんなに見えるんですか!それじゃあ今大部屋とかも見えてます?」
「うん、それくらいならな」
「うわー、覗き見し放題じゃないですか」
「そんなことしないよ。第一見るところなんて特に無いし」
「女湯とかあるじゃないですか!」
「そんなことやるわけないだろ。なんの意味があって覗くんだよ」
「清麻呂さん、いつもこんな感じなんですよ先輩。やばいですよね」
「ああ、さすがに今のはおかしいな。もしかしたら」
「僕もそう思ってます」
「2人でなに言ってんだよ」
「なんでもないで〜す!ですよね!」
「ああ」
「ちわーっす!」
「来たか、金太郎」
「みんな早いっすよ。気づいたら俺だけ取り残されてたんすよ」
「お前が遅かったんだろ」
阿部 金太郎暗舞高校の1年だ。
金髪ピアスでチャラい。そしてマイペースだ。
決まり事は守るが決まってないことにはマイペース。集合時間はしっかり守り、こういう自由な場合は大体あとからくる。
「金太郎くんは時雨の相手してたね」
「はいっす」
「どうだった?」
「どうもこうも無いっすよ!こっち全然見ないし、ずっと液状化してて攻撃当たらないしで散々っすよ」
「金太郎くんに迷惑かかってるだろ、時雨」
「は〜い」
「なんで俺のことは無視なのに、村丸先輩には素直なんすか!」
「だって、ね〜?」
ニヤニヤする時雨。
「もういいっす。風呂では静かに過ごしたいんす」
金太郎くんはとにかく優しい。気を荒立てているところを見たことない。チャラいけど。
「お風呂ではくっつくなよ」
「えー、いいじゃないですか。裸の付き合いって言うじゃないですか」
「それはくっつくって意味じゃないだろ」
「えへへ、肌がすべすべで気持ちいいんですよ」
「はぁ、つかれる」
「2人は先輩後輩で仲良いな」
「はい!」
「えっ!清麻呂先輩!俺とは仲良くないってことっすか!?」
「なんだよ急に、静かにしたいんじゃないのか」
「それとこれとは話が別っすよ。俺先輩のこと好きっすよ」
「急に気持ち悪いな。俺は普通だな」
「そんなぁ!」
「普通なのはいいことだろ?」
「そうっすね!」
「ハハッ、なんか金太郎くんが清麻呂の舎弟みたい」
「そんな感じで合ってるっすよ!ね?」
「いいや、ただの後輩だな」
「ひどいっす」
「ちょっと焼きぞばパン買ってきて」
「はいっす」
(ジャバッ!)
がらがら。
「って止めてくださいよ。可愛い後輩をパシリにするなんてひどいっすよ」
「さて、もう出ようかな」
「そうだね」
「僕も!」
「そんじゃあ俺もっす」
「金太郎はもうちょっとゆっくりしていった方がいいんじゃない?入ったばっかでしょ」
トホホと落ち込む金太郎くん。南無。
結局その後4人で10分くらい湯船に浸かってから出た。
「ドライヤー大変でしょ、長いと」
「そうですね。ちゃんと乾かさないとパサパサになっちゃうんで」
10分後時雨が髪を乾かし終わってから大部屋に戻った。
夜ご飯はトンカツだった。




