38話 不足
今日は日曜日、来週が終われば冬休みだ。
冬休み前に先輩たちは引退することになってる。だから来週は先輩たちとダンジョンに行く。
今日も俺は柏木さんとダンジョンに行く。午前中は柏木さんが用事があるということで午後からになった。
「こんにちは」
「おう!」
背中には斧を背負ってる。
「なんか会う度に武器が変わってますね」
「今、俺に何が合うか探ってんだ」
「それで今日は斧ですか」
「おうよ!」
今日は24階に行く。とりあえず行ってみてダメそうなら引き上げる。
「眼帯変えたんですね」
「ハッハッハ!前のは危なかったからな。今度のは特注のレザーの眼帯だ。防刃性が優れてるんだ」
「そうなんですか」
防刃性は意味あるのか?とは口に出さない。
「リザードマンですよね。強敵な感じがします」
「そうだろうな。24階は鬼門だからな。25階以上に行ける探索者と24階以下の探索者では強さがかなり変わるぜ。25階に行ければトップの仲間入りだ」
「石化させれば簡単だと思いますけど、なるべく使いたくないです。俺が成長できなくなるので、いざって時以外は使わない方向で」
「俺もそのつもりだ。やばい時は使うがな」
「はい。それじゃあ行きますか」
「あいよ!」
ダン証をかざして黒渦に入る。
「湿地帯ですね」
とにかく足場が悪い。踏ん張れるかな。
「ああ。あいつらはこの地面が得意なんだってな」
歩き進めると緑色の物体を発見。
「いました。リザードマン」
デカイな。それに身長以上の槍を持ってる。
「俺はフィールドを用意するぜ」
そう言って土の土俵が現れる。
土が固まっていて、ちゃんと踏ん張りが効く。
沼地をかけていきリザードマンとの戦闘が始まる。
槍のリーチを活かされてなかなか近づけない。
ジリジリと押されて辿り着くのは柏木さんが作った土俵。
(よしっ)
とりあえず第一の作戦は上手くいった。
ここからが本番だ。
リザードマンはひたすら槍をついてきて近寄らせてくれない。俺は槍を弾いて近づこうとするが槍を引き戻すのが速くて攻めきれない。
未だ攻めることができなくて防戦一方だ。かなりの槍の熟練度だ。
「サポートお願いします!」
「あいよぉー!」
柏木さんに頼んで状況を変える。このままだと終わらない。
土の塊がリザードマンに向かって飛んでいく。
リザードマンは槍の柄と穂を上手く使って叩き落とす。俺は近づいて空いた所を狙う。
左足を金棒で思いっきり殴る。
(ジギィィィン!)
硬いなあ。傷は付かないか。どうしたもんか。俺の必殺技でも傷が付くかどうか怪しいな。ひとまず距離を取る。
やはりそんな時に狙うのは関節。手首がいいかな。片手でも負傷させれば槍振れないでしょ。
土の塊を弾く中に金棒を放り投げる。
(セイッ)
上の方に投げた金棒を槍で弾くがそこに次の動作までの間ができて俺の金棒が前腕に直撃する。
一瞬動きが止まったが、それだけだった。勢いをつけただけにすぐに離れられなくて槍の横薙ぎをくらう。
軽く飛ばされたが左腕の打撲程度で済んでる。
立て直してから同じような攻撃を続ける。
時間がかかるが少しずつ削るしかない。多分効いてるはず。俺はもうヘトヘトだ。
体の至る所にアザができてるし。まだ挑むのは早かったか。
1時間が過ぎてようやく、リザードマンの腕の鱗が剥がれた。集中攻撃を続けて周りの鱗も落ちる。
手強かったがそろそろ終わりだろう。
渾身の一撃で腕を攻撃すると槍が飛んでった。
ついに来たかと、攻める攻める攻める。
体を丸めて完全防御体勢に入る。
それから10分殴り続けてようやくリザードマンの頭が割れた。
「いや、厳しいですね」
「そうだな。この1体にかなりの魔力を使ったぜ」
「まだ行けます?」
「まだ行けるな」
「もう1体行きましょう」
「おう!」
2時間後。
1体のリザードマンを倒すことに成功した。
完全にパワー不足だ。それに槍の相手はやりづらい。
なんてね。
今までとは個の強さが違うな。
「はぁ、まだまだダメですね」
「そうだな。俺ももっと自在に土を動かせれば楽になりそうだけどな」
「頼りすぎるのも良くないですよ」
「今日はここまでか?」
「そうですね。もういい時間なんで」
時刻は5時半。
半日で2体か。1人だったら延々に続きそうだな。突破口が見えなかったから完全な技術不足だ。
月曜日。
今日の部活は先輩達とダンジョンに行く。今日は俺と先輩達だけだ。
朝姫と時雨と神保さんは3人でダンジョンに行く。
先週は朝姫と先輩達が一緒に行った。
ということで24階に来てる。
先輩達の強さを目に焼き付けておこうと思った。
「今日はお願いします」
「りょうか〜い。24階は久々だあ」
「僕もだな」
「24階苦戦してる?」
「はい。もう全部が足りてない感じです」
「そっか。アタシ達もこの階は長かったよね。何ヶ月か通ってゆっくり倒したよね」
「そうだな。最初からある程度戦えたけどこの階が節目だからってことで時間かけたな」
「そうなんですか。俺は1人じゃ全然でしたよ。2人で何とかって感じで。
そういえば今何階行ってるんですか?」
「今は29階だよ。毒が大変でさ、苦労するんだよ武器が溶けたりして」
「へー、やっぱり凄いですね」
「おかげで貯金が減っていくんだ」
「それは辛いですね」
「見つけたよ」
話しながら歩いてると石川先輩がリザードマンを見つける。
「じゃあお願いします」
「は〜い」
最初は見せてもらう。先輩達の動きを。
とは言っても。
菊地先輩が単独で近づいて一閃。
(スウィン!)
リザードマンの持っている槍が真っ二つに斬られて、そのままもう一閃で体を真っ二つにされた。
(ズシュッ!)
強さの次元が違う。一方的すぎて参考にはならないが、まぁ。
もう1体は石川先輩が背後から首を断つ。
2人とも強すぎる。
「アタシ達大分強くなったね」
「ああ」
「それじゃあ次は一緒にやろっか!アタシが盾役やるから攻撃は任せた!」
「僕のサポートはいらなそうだね」
ふぅ。
俺と菊地先輩がリザードマンに詰める。
菊地先輩は槍を防いでくれてる。攻撃をするがやっぱり効いてなさそう。
今なら試せるか、あの大技を。
技の発動前と後はが無防備になるから普段はできない。だが菊地先輩が完全に抑えてくれてる今ならできる。
正直、成功する確率は低い。この技が閃いた時に鼻で笑っちゃうくらい変な技だ。それでもその威力は言わずもがな。
少し距離を取って準備を始める。
両手に金棒を出して、両腕を広げてその場で回転を始める。
最初はふらつくが徐々に体軸が安定する。
(ブオワォンッブオワォンッブオワォンッ!!)
その回転速度は金棒が見えなくなるくらい加速する。
握力が限界を迎えて、手から棍棒が離れる。この時がいちばん重要。
視界はぐちゃぐちゃで方向は全く分からない。だが俺には角がある。リザードマンの位置を把握して、ここぞというタイミングで限界を迎えた手を離す。
そう、この技は遠心力を利用した技だ。棍棒から格段に重くなった金棒ならではの技。
最初は手を離すタイミングが合わずにあらぬ方向に飛ばしていたが今は八割狙ったところに当てられる。
技の発動後、少し混乱状態になるが、それを差し引いても余りある威力を持っている。
その技の名を。
「地に沈め。桜舞い散る春の終。大嵐投!!ドワリャァァ!!」
この技にはなんとなく春の終わりを感じたから技の前にこんな言葉を言ってみた。
俺は感性を大事にするタイプの人間だ。その場の勢いとノリで決める。
この二連投は一本目の着弾後それを二本目が後ろから押し込むことで厄介な技となる。
目を閉じて感じる。
投げた方向はバッチリだ。
菊地先輩に気を取られてこっちには気づいていない。
俺の金棒がリザードマンのお腹を横から殴る。くの字に曲がったところに二本目が到着してさらに押し出す。
リザードマンのお腹を突き破り後ろの木も突き破る。
リザードマンは真っ二つに割れて死んだ。
そして俺の頭も死ぬ。
ぐわんぐわんと歪む世界。
復活。
とまぁこんな感じの技で威力は証明できた。
使い所は限られるけど使えるものは全部使って行くスタイル。
あんまり俺好みじゃない技だから今後使うかわからない。今は縦回転を練習中だ。
その後他の技を試したが微妙だった。
「今日はありがとうございました」
「いやー、いい技持ってるね!」
「めっちゃ疲れますけどね」
課題は山積みだ。




