32話 開花
今回は鈴鹿視点で進みます。
私が気付いたのは村丸君が叫んだ後だった。
村丸君の叫びがなんなのかわからなかったけどその後すぐに理解できた。
突然私の視界に入ってきたそれは躊躇なく村丸君と先生を吹き飛ばした。
私には見えたが、村丸君にとっては背後だったから気付けなかった。
音もなく現れたそれは3mを超えるオークなんだと思う。
さっきまで見てたオークがそのまま大きくなった見た目をしていた。
時雨君と結ちゃんは村丸君の指示で転送魔石を割ったからこの場から避難できた。
私はもう使えない。村丸君と先生を置いていけない。
私が何とかしなきゃ、もう私しかいない。
「ガッ!!」
ウソッ!!何も見えなかっ…た。
「う、うぅ」
あっ、どうなってる!?村丸君と先生は!?
周りを見ると先生は地面に寝ていて、村丸君は木に体を預けていた。意識あるかな?
た、助かったのかな?早くここから逃げなきゃ。
吹き飛ばされた後、瞬時に粘着で体全体を覆っておいて良かった。クッションみたいに衝撃から多少守ることができた。
とにかく急ごう。
「ドスンッ、ドスンッ、ドスンッ」
嘘!来ちゃうの?
「ドスン、ドスン、ドスン」
近い!確実に近付いてきてる。
ダメだ間に合わない。ひとまず隠れよう。
みんなに粘着を付けて木の枝と繋げる。体が徐々に上がっていく。
早く!!急いで!
「グワアァーーーー!!」
気付かれた!
止まれ、止まれーーー!!今できる最善を。
私の最大出力の粘着で!!
(うわぁーーー!!)
「グ、グワァァァー!」
一瞬だった。あまりにも短い時間。
そんなんじゃ時間稼ぎにもならない。ダメ!
やめて!!
オークが宙ぶらりんの村丸君に近付くと勢いよく村丸君を蹴り飛ばす。村丸君の体がくの字に折れ曲がった。
(ドガアァン!)
私の粘着が外れて地面と木に何度もぶつかってバウンドする。
転がり止まった場所は木の根っこ。
木に寄りかかる体勢になってる。
(起きてーーー!)
声が全く出ない。体も全然動かない。
止まって!止まって!なんで、なんで!止まってくれないの!
(起きて!村丸君!!)
オークは1歩ずつゆっくりと近付く。
意識が戻らない村丸君にオークが大剣を振り下ろす。
(ブンッ!)
(ふんっ!)
村丸君を粘着で引っ張り寄せることでギリギリ逃れた。
が、追撃。引き寄せてる最中の粘着をオークが断ち切る。
なんで!?見えてないはずなのに!
断ち切られ村丸君が地面に叩きつけられた。
待って!待ってよ!やめてよ!!
今度こそとオークが大剣を持ち上げた。
「村丸くーーーん!!」
出た!声が出た!気づいて村丸君!
ビクンッ!
えっ、今村丸君が動いた!意識が戻った!?逃げて!!
そして、ヌルッと立ち上がる。
異様な光景に息を飲む。
(何!?)
片腕を失って大量の血を失った。さっきの攻撃で体中から血を流してる。
なのにどうして。
そして変化を目の当たりにする。
村丸君の額から徐々に伸びてくる何か。
左手に出したのは棍棒。いや、なんだろう。
赤黒い、さっきまで見てたやつよりも大きくなってる。金棒?能力が変わった!?
額のは伸びきったのか、動かなくなった。
あれは角なのか?
知らない。あんな村丸君を私は知らない。
オークが大剣を振り下ろす。
(ガキィィィン!!)
金属同士がぶつかった音が響いた。
オークの大剣を金棒で受け止めていた。
信じられない。ジェネラルオークよりも巨体のこのオークの大剣を受け止めるなんて。
しかも片手で。
大剣を弾き返すと。
「俺が俺を守る。俺にできることはお前を殺すこと。俺がやりたいことはお前を殺すこと。だから死ね」
村丸君が何かを呟いたあと走り出す。
オークに近付き金棒を振るう。
大剣でガードするが受けきれず体ごと吹き飛ばされる。
こんなことあっていいの?
村丸君が木の上で寝ている私に気付く。
ジャンプで枝に乗って私の傍にくる。
「あとは俺に任せて、休んでていいよ。ありがとう朝姫。もう終わらせるから」
さっきまで狂気を孕んでた瞳が、私と話す時には穏やかな瞳に変わってた。
声もどこか今までよりも大人びたような、高いままだけど温もりで包まれたように感じた。
オークのところに戻ると再び何かを呟く。
「なぁ、俺を殺したいんだろ?だったら立てよ。もっとギリギリの戦いをしようぜ。俺は今片腕なんだ。次は足を斬ってくれていいぜ。だからよぉ、さっさと起きろよ豚野郎!!」
「グガアァッ!!」
金棒のフルスイングでまたもオークが吹き飛ぶ。が、今度は立ち上がって大剣を構える。
オークの高速移動が始まる。
上から見てるからわかる。凄まじい速さ。
でも、私は落ち着いてる。
狂気を孕んだ瞳がオークを追っているから。
「グワァ!」
背後からの攻撃に対応する。
しばらく打ち合う。
(ガキイィン!ガン!ガッ!ガチィ!)
段々とその威力を増しているのか、少しずつ村丸君が押されている。
「グガアァ!!」
そして10数回目の打ち合いでオークの大剣が村丸君を吹き飛ばす。
(ズダアァン!!)
木に叩きつけられた村丸君は血を吐き出す。
「クハッ、いいなぁ、たのしいなぁ、ギリギリの殺し合いたのしいなぁ。もっと、もっとほしい。最高の一撃がほしい。俺の体を刻んでほしいなぁ。手足がちぎれるような戦いたのしいなぁ」
またも何かつぶやくとサッと立ち上がる。
再度ぶつかる金棒と大剣。
さっきよりも長い打ち合いが続く。オークの一撃の重さが増していく。力の拮抗はすぐに崩れる。
オークの一撃が金棒を砕き、そこから体を斬りつける。
体から血を吹き出して飛ばされる村丸君は座った状態から動かない。
今の村丸君でも勝てないの。何か私も動かないと。
「あぁ、これが、これがほしかったんだ。疼いていたんだずっと。快感でどうにかなりそうだよ。
体がほしかったのはこの痛み。命の終わりが近づく感じ。あぁ、脳が快楽で満たされていくよ。興奮が収まらないよ。なぁ!」
ビクンッと村丸君の体が波打つ。
「もう終わりだ、君とはさよならだね。ありがとう、俺を目覚めさせてくれて」
スッと立ち上がり不用意に近付く。
オークの大剣を避けて、避けて、避ける。
(ブヒュッ、フンッ、スバッ)
振り下ろした大剣は叩き落とされ振られる金棒はオークの頭を吹き飛ばした。
「ズグリュッ!!」
吹き飛んだオークの頭は木にぶつかって地面を転がる。
魔石を取り出した村丸君はその場に倒れた。
よ、良かった。たすかっ…た。
ちょうどこの節目の話で10万文字になりました。
たまたまですけど、なんか気持ちいいです。
読んでくださっている皆様、ありがとうごいます。
これからもよろしくお願いします。




