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大竹村丸物語  作者: 骨皮 ガーリック
34/97

30話 天変

7月、先輩達は就職先が決まった。

27階を攻略したことで狙っていた企業からスカウトがきたと言っていた。

2人は同じ企業で働くらしい。


お祝いパーティーをした時に部活の引退は冬にすることに決まった。それまではサポートなんかをしてくれるみたいだ。


夏休みに入ってダンジョン三昧の日々。菊地先輩から誘われて部活のみんなと姉ちゃん、灯さんと菊地先輩の家が所有してる別荘で遊ぶことになった。

菊池先輩と姉ちゃん達は知り合いだったようで俺との繋がりを知ってそれなら一緒にと誘ったそうだ。


プライベートビーチで泳いだりビーチバレーをしたり夜にはバーベキューで楽しかった。


夏の明暗合同合宿は学校ご茶混ぜでパーティーになって攻略したり、対人戦闘の強化をした。


枕投げ大会は清麻呂が制した。

石川先輩のガチへこみの姿が頭から離れない。



新学期が始まっても何も変わらない。

授業を聞き流して、放課後ダンジョンに行く。4人での戦闘も熟練感が出てきた。


俺と時雨が前衛で鈴鹿と神保さんが後衛だ。

最近の鈴鹿は動き回る。能力が成長して、空中移動を可能にした。ただし天井や木がある時だけだが、充分強い。


神保さんはみんなの武器に属性を付与できる。

火や水を纏うことで単純に攻撃力が上がった。他には罠に使ったりと防御も攻撃もできる頼もしい仲間だ。

時折見せる不気味な笑いは服装と相まって、より不気味差がます。最近は奇声もあげるようになった。


時雨は相変わらずぶっ飛んでる。防御を捨てた攻撃。相手の防御を無視してダメージを与える。このパーティーのメインウエポンだ。


最後は俺だ。この半年ろくに成長していない。身体能力は上がってるがそれだけじゃ何も出来ない。技術は上がるが大したことは出来ない。俺は時間稼ぎ要因みたいなものだ。時雨の攻撃が終わるまで攻撃を凌いで、後衛には近づけさせない。



11月。

もうはっきりと冬だとわかるほどの寒さ。どんよりとした分厚い雲が空を覆う。


今日は特別な日だ。

このパーティーで初めての21階に挑む。

このメンバーなら充分勝てると思ってる。時雨の攻撃力は大抵のモンスターにダメージが与えられる。


後衛の2人の力も十分だ。勝つ見込みはある。俺がオークの攻撃を凌げればだが。不安要素があるとすればそこだ。


「よーし行くよ!」

鈴鹿の掛け声で黒渦に入る。

懐かしい、一面に広がる草原。どこまでも続いてるような空。前に来た時と同じだ。



「オークいたよ!」

みんながオークを見つけて戦闘態勢に入る。

「時雨、いつも通り行くぞ」

「はい!」


俺はオークに突っ込み棍棒を振る。

が、オークに簡単に止められる。

(ジキィッ!)

相変わらずデカイな。近ければ近いほどその大きさがわかる。

2m弱もある身長に筋肉がぎっしりと詰まってる。


オークが振り下ろす大剣を避けて反撃に出るが躱される。再度振り下ろされる大剣を俺は横から叩いて弾く。バランスを崩すオークの腰にフルスイングをかます。

腰の肉がえぐれてオークがよろける。


そこに時雨が突っ込み、腰の傷口にナイフを突き刺す。時雨の腕が大剣で斬られるが問題ない。刺さったままのナイフとそれを握ってる右手はさらにナイフを腹の中へと押し入れる。

(ギュルギュル)

「グガッ!」


そっちに気を取られるオークを倒すのは容易い。足を削って頭を潰す。

(グジッ!ズシャッ!!)

魔石を取り出して終わった。


「今回は後衛の出番なかったね」

「とりあえずオーク倒せたな」

「次からはじゃんじゃん仕掛けていーよね!」

「うん」



「いたよっ!」

俺たちは進む。

「初っ端からよろしく」

「任せて!ねっ!結ちゃん!」

「はい、キヒッ地獄を見せてあげますよ」

初撃を後衛に任せてその機を伺う。


向かってくるオークの足元に札が投げつけられる。地面と接触直後爆発する。

煙が晴れるとそこには片膝を着いたオーク。


「えいっ!」

鈴鹿の声ですぐに何をしたのか理解する。

オークはその場から動かない。いや、動くことが出来ない。


鈴鹿の前で地面に足を付けるのはご法度だ。

俺と時雨がオークを攻撃する。

(ズシッ!ザッ、グジッ!ガコッ!)

その攻撃に耐えきれず力なく倒れる。

「4人ならさらに楽に倒せるな」

「ょぉーし、つぎに行こう!」



それから4体のオークを倒した。

そして現れた、この階のキーモンスター。ジェネラルオーク。

その場を支配するような巨大なオーラを纏って近づいてくる。後ろには5体のオークを連れている。


「グオォーーー!!」

数十m離れても感じる声による威圧。

俺は走る。すぐ後ろに時雨もついてくる。

走って向かってくるのは2体のオーク。


「鈴鹿っ!」

俺は鈴鹿に合図を出す。

目の前の2体がつんのめり、そのまま両手を地面に着く。

(勝った)

目の前で跪くオークの頭を割る。続けてもう一体の頭も割る。

(グボォッ!ガボォッ!)


そのまま抜けてジェネラルオークを目指す。

俺の棍棒は火を纏っている。棍棒の柄の部分には札が貼ってある。

新たに2体のオークを差し向け、未だジェネラルオークは動かない。


歩きながら近づくオークに再び鈴鹿の粘着で足が止まる。

そう何度も上手くいかず倒れることは無かった。それでも充分。

振り下ろされる大剣を避けて後ろに回り込む。

がら空きの頭を叩き割る。


隣のオークはナイフを頭に刺されて倒れてた。

時雨がナイフを抜いてから、俺は頭を叩き割る。確実に殺さないとあとが怖い。

もちろん急所にナイフを刺せば死ぬ。保険として頭を潰した。


残りは1体のオークとジェネラルオークのみ。

時雨にはオークを頼み、俺はジェネラルオークに向かう。


ジェネラルオークの振り下ろしはオークの比ではない。棍棒での叩き落としは難しい。

ギリギリで避けるが地面に刺さった大剣が地面を割る。

(グシャァ!)


バランスを崩した俺は次の振り下ろしを避けられない。

棍棒で受け止めるが力が足りない。

少し逸らすことが出来て助かったが、腕の痺れが止まらない。それに棍棒も斬られた。

(ズシャッ!)


「止める!!」

時雨のサポートをお願いしてた鈴鹿からそんな声が聞こえた。1回離れるしかないと思い、振り向きながら立ち上がる。


ジェネラルオークはもう既に大剣を振り上げていた。

今ジェネラルオークの足は動かないはず。あと一歩分も進めば射程から外れる。あと1秒あれば行ける。踏み出せ!!

うおぉーーー!!

(ブジッ!!)


「グワァーーーッ!」

地面に倒れて叫ぶ。振り返ると俺の右腕がそこに落ちてる。

何も考えず距離を空ける。

右腕を抑えるが、右肘から先がない。


ジェネラルオークの大剣には血がべっとりと付いている。

クラクラとしてきた。足元がおぼつかない。

ついに来たか狩られる側に。

「先輩!」

どうやら時雨はオークを倒したようだ。

みんなを守る。それが俺の役目。

今はそれだけだ。他のことは考えない。

左手に棍棒を出す。


「やるぞ!!」

粘着を抜けたのかこっちに向かってくるオークに俺は構える。

片手じゃ受けれない。先手必勝。俺が先に仕掛ける。棍棒を振り下ろす。

(うおぉーー!)


ジェネラルオークは防御の構えを取る。

(だぁっ!)

直前で棍棒を消してジェネラルオークの横に飛び込んで裏に回る。1歩遅れたジェネラルオークは振り向こうとするが出来ない。足が動かない。ここで棍棒を出してジェネラルオークの膝を狙い打ちする。骨を砕く。立てなくなるまで、容赦はしない。

(ズッ、グビッ、ジャッ、バボッ、ヘブシッ)


左膝を完全に壊した。

片膝と片手を地面に付ける。これでもう勝ちは決まった。


鈴鹿が剣で首を叩く。

何十回と繰り返して、首を断つ。

(終わった)

「痛ててっ」

痛みが戻ってきた。

布で腕を縛って止血をした。


「やばいですよこれ!」

「どうしよ」

「大丈夫だよ。多分死にはしないから」

ハハッ、知らないけど。

「でも、もうダンジョンには」

鈴鹿が涙を流す。


「俺にはまだこっちがあるだろ?」

左手を上げる。

「そ、そうですね」

詰まりながらも納得する。もうどうしようもない。過ぎてしまったことをどうにかすることは出来ない。俺が弱かっただけだ。


「よーし戻ろうか」

先生が申し訳なさそうにしてる。

「先生!気にしないでください。自己責任なんですから。

あっ、そうだ。これからは隻腕の男って名乗ろうかな」

ロマンがあるな。



その男はかつてモンスターに片腕を持ってかれた。だがその男は諦めきれず探索者を続けた。周りから反対されようとも諦めることはなかった。ついには下層にたどり着いた。

探索者最強は誰なのか?

みんなが口を揃えてこう答える。

隻腕の男。と、



うぉー!かっけぇー。これありだな。この路線を目指そう。右目に眼帯も付けちゃったり。

妄想が止まらないなぁ。




「あれ?この階に森なんかあったっけ?」

鈴鹿が気付く。草原の一部に木が密集している。

「いや、前来た時は見てないな」


最短距離のため森の近くを通る。


「ドグワァーーーーーー!!」

突如聞こえる。モンスターの雄叫び。

聞いたことない声だ。低くて重い、体の芯に響く声だった。

森がざわめき俺達の横を突風が過ぎ去る。


気になって少し森の中を覗く。

少し肌寒い。さっきまでは太陽の光を浴びてたから余計に感じる温度差。

いつの間にか空は分厚い雲に覆われていた。

まるで12月の空のようだ。どんよりとした空気が流れる。



そこには何かがいた。

「みんな転送魔石を割れーーーー!!」

わからない。何もわからない。それ以外の選択肢は無いと感じた。

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