29話 ちょっとエラシコ
6月下旬。
「動画ありがと。大竹君すごいね!リッチを倒せるなんて」
俺はダンジョンでの戦いの動画をカメラの提供者、佐藤幸太郎に何回か見せてる。
「今日の夜、エラさんて人がダンジョン配信をやるんだ。もし良かったら見て欲しいな。そして語り合いたい」
「どうやって見るの?」
「えっ、動画投稿アプリあるじゃん?」
「え、何それ」
「知らないのっ!?老若男女どの層の人もほとんどの人が知ってるんだけど」
「そうなんだ」
スマホは連絡にしか使わないな。あとは目覚まし。
「そのアプリを入れると無料でいろんな動画が見れるんだ。料理だってゲームだって、スポーツにサバイバル。そしてダンジョン攻略もね」
「へー」
「スマホ貸して。入れてあげる」
「ほい」
「えーっと、これだよ。ここに見たいジャンルだったり人の名前を入力するとそれに関連した動画が見れるんだ」
「そうなんだ」
「例えば、ちょっとエラシコって入力すると。ほらいっぱい動画あるでしょ。それでこの隅に予定って書いてるのが今日の夜やるやつなんだ」
「なるほどね。覚えてたら見てみるよ」
「頼んだよ」
画面にはモンスターと女性が一緒に写ってた。
休み時間に移動教室なんかで廊下に出ると、話しかけてくる人物がいる。
時雨と灯さんだ。
特に灯さんは距離があっても視界に入れば声をかけてくる。
遠くから手を振ったりするからそのせいで少し注目を集める。それが嫌だからお辞儀だけしてその場を離れる。灯さんは友達といるにも関わらず話しそっちのけでこっちに来る。
なんでか妙に懐かれている。
というか灯さんはいつも友達といる。
そのせいでその友達にも挨拶される始末だ。
俺が離れると友達間でヒソヒソと何か話してるのがわかる。
灯さんと成り行きで連絡先を交換したが結構頻繁にメッセージがくる。
それに比べて時雨はわざわざ近づいてきて挨拶をしてすぐどっかに行く。
時雨とも連絡先を交換してるが、逆に毎朝おはようのメッセージがくる。
こっちもよくわからない。
なんだか学校で喋る回数が増えた。
ちょっと前までは翼君と岡島さんだけだったのに。
今日も日課のリッチ狩りをして家に帰る。
お風呂にご飯を済ましてベットに入る。
今日もいい勝負だったぜ。
あっ、忘れてた。佐藤君から言われてたやつ。
アプリを開いて確認する。
えーっと、なんかサッカーの名前の…
そうだエラシコだ。
エラシコと入力するとサッカーの動画の下にモンスターと女性が写っててライブ中と書いてあった。
アカウント名はちょっとエラシコだった。
そうだ思い出した。
画面をタップすると画面が変わって映像が流れた。
そこでは女性がモンスターと戦っていた。
なっ!あれは2年前に流行ったアニメ。
時空戦士オ・クロックのサブヒロイン、軒道 紗彩こと、「のきみん」の戦闘衣装だったチャイナ服を着ていた。
紫を基調として、胸元に星が入ってる。
のきみんの初戦闘時に着た衣装だ。
その初戦闘で主人公に助けられて、サブヒロインとして物語に関わってくる。
俺が初めて好きになったアニメキャラだ。
一瞬で心を掴まれた。
服だけじゃなくて髪もまんまだ。
『それじゃあ今日もモンスターを倒していきまーす。今回は30階のドラゴンです。溜まってる依頼を消化していきまーす!』
有名な探索者は個人や企業から依頼を受けたりする。
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・待ってました!
・今日もコスバッチリさすが!
・のきみんだ!!
・これ自作なのやっぱりすげー
・ドラゴーーン
・いまきた
・エラちゃんかわいい!
・かわいい
・相変わらず規格外
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動画とは別で文字が高速で流れる。
が、俺には見えるぜ。ダンジョンで鍛えてるからな。1つも見逃さないぜ。
んー。これは俺以外に見てる人がやってるのか。
このコメントってやつか?
あ
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・ドラゴンは最強
・のきみん好き
・エラ様最高
・ここで話せる余裕あるのが強者の風格
・俺だったら即死だね
・ドラゴン初めて見た
・デカすぎ
・あ
・迫力やば
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あっ、多分これ俺のだ。
そういう事か。しかも俺のアカウント名は「大竹。」だった。これいつ付けた名前なんだろ。覚えてないな。なんで苗字だけなんだ?
いや、大竹。の 。 は村丸の丸か、でもなんで村だけ抜いたんだ?まぁ、いいか。
それからも映像は移り変わる。
防御力なさそうなチャイナ服。腕と足を全く守ってない。
『サクッとドラゴン倒しちゃいまーす!』
ドラゴンを倒す宣言をして、ちょっとエラシコさん、長いなエラさんがドラゴンに近づく。
10mを軽く超えるドラゴン。
俺じゃあ全く歯が立たない。どうやって倒すんだろう。
ドラゴンが大きく口を開けて火を放つ。
リッチとは比べ物にならない威力だ。
こんなの受け流せないし、避けるのも間に合わない。
火が眼前に迫った時、突然火があらぬ方向に曲がる。
エラさんが何かしたようには見えなかった。
避ける素振りを見せずに火の攻撃を凌いだ。
『さーて、私も攻撃しちゃうよ!』
当たり前のように瞬間移動した。いや、決めつけてるが仕方がない。移動の起動が見えなかった。
前にも見たことがある。佐野先生も同じようなことをしてた。
なんだ!?
一瞬でドラゴンの後ろに回った。
両手を前に出すとドラゴンの体がぐにゃぐにゃとありありえない曲がり方をする。
蛇が地を進む時の姿に似ている。
が、ドラゴンの体の構造は蛇とは違う。
瞬く間にドラゴンが悲鳴の雄叫びを上げると同時に全身から血が吹き出る。その血は意志を持っているかのように動きエラさんが持っている袋に一滴残らず入っていった。
『よーし、ドラゴンの血回収終わり!次に行こう!』
ドラゴンの血は医療に使われる。
その血は人間の輸血に使える。血液型関係なく使える血は常に必要とされている。
それがわかった時、世界に革命が起きた。
救えないと思われた多くの命を救うことになった。
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・あっけない
・さすがエラ様!
・最強!¥9,999
・何が起きたかさっぱりだぜ¥20,000
・ふつくしいです。お姉様¥50,000
・これはチート。圧倒的¥900
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みんなのコメントが盛り上がる。
次にエラさんが向かったのは29階。
29階は岩石地帯、至る所に毒が流れている。
生息するモンスターはヒュドラだ。
ヒュドラは9つの頭を持ってる怪物だ。
ヒュドラが吐く息には毒が含まれていて触れた部分は腐り落ちる。
9つの頭を全て落とす事で倒せるが頭には再生能力がある。
死を撒き散らすモンスターだと聞いた。
『次も血をいただきます。みんなに注意だけど血にも毒があるから素手で触らないように!』
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・注意喚起えらい
・そもそも行けないんですが
・血にも毒把握
・俺には一生役に立たない知識だ
・ウィンクたすかる
・かわいい
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変わらず軽いノリで進んでいく。
『ヒュドラみっけ!』
ドラゴンと同じく10mを超える巨体。
9つの頭が蠢いている。
立っているだけで不気味だ。口から垂れる液体が地面の岩を溶かす。
ヒュドラの首がエラさんに向かう。
だがさっきと同じようにエラさんの眼前で曲がる。
そしてエラさんがヒュドラの頭に乗る。
それに合わせてヒュドラの頭が戻っていく。
8つの首が全方向から襲う。
激しい衝突音と血飛沫でエラさんを見失う。
8つの頭が離れるとさっきまでエラさんが立っていた頭が潰れていた。
自滅なのか。しかしすぐに頭が再生する。
その時エラさんが背中にいるのをカメラが捉えた。9つの頭が背中に向かうがそれぞれがあらぬ方向に進んでいく。空中でちり紙をばらまいた時みたいに不規則な動きをする。
終いには全ての首が絡まって動けなくなった。
首が1つに纏まった所をまた、体がぐねぐねになり血を吹き出して倒れる。
同じく袋に血が入っていく。
『血が散らばると面倒だから首を纏めてみました。かなり楽になりましたね』
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・相変わらず化け物だな¥200
・あっさり終わった
・5,000
・ヒュドラくん成仏
・おつかれ
・圧巻だ
・しびれるなぁ¥3,150
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『今日はこれで終わりまーす!見てくれてありがとう!また見てね!バイバーイ!!』
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・おつかれ
・おつ
・おつかれ
・お疲れ様です
・おつかれ
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エラさんが終わりを告げるとコメント欄はおつかれで埋まった。
画面が暗くなって止まった。
凄かった。
ドラゴンをあんなに簡単に倒すなんて。佐野先生とどっちが強いかな。
それにしても衣装の完成度が高かった。コメントを見ると自作なんだとか。
次の日佐藤君と話した。
「エラさん凄かったよ」
「でしょ!良かったー、やっと仲間が出来た」
「あの衣装の完成度すごいな。のきみんが実際にいたみたいだったよ」
「もう何年も前からコスプレイヤーとして活動してたからね。毎回自作なのがエラさんのこだわりなんだって。もう何百種類ものキャラのコスプレをしてるんだ」
「そうなんだ。気になるな」
「よっしゃー!沼らせた!!」




