28話 ショッピング
日曜日の朝。
朝7時に目が覚めてリビングに向かう。
「おはよー」
リビングには既に父と母がいた。
「おはよう」
「いつものでいいの?」
「うん」
俺の朝食はいつも食パンにピーナッツバターを塗って食べてる。それを2枚だ。
テレビではニュースが流れている。
最近はスポーツ選手の活躍とか事件の報道が多い。
『続いてのニュースです。
昨日、ダンジョン下層到達の日本最年長の記録が塗り替えられました。
昨日、69歳の男性がダンジョンの下層に到達した事が確認されました。一昨日までは48歳で到達した本田 勝久氏が日本最年長となっておりましたが、昨日この記録が塗り替えられました』
『凄いですね。この年齢になると体は動かなくなってきますし、感覚も衰えてきます。そんな状態にもかかわらず下層という生物の上限を超えた領域に足を踏み入れるとは。まだまだこれからが楽しみですね』
『はい、それに彼はダンジョンに入り始めて1年未満、約10ヶ月で下層到達しました。ますます期待が高まりますね』
『なんと!素晴らしいですね』
ピーナッツパンを食べながら観てたニュースではダンジョンのことを報道していた。
多分師匠のことだと思う。昨日30階のドラゴン倒せてたんだ。流石だぜ。
俺は今日ダンジョンに行かない。
今日は1日ショッピングをする日だ。というのも来週の5月28日は鈴鹿の誕生日だ。だがその日は日曜日だから金曜日に渡そうと思ってる。月曜日に渡すか迷ったが後より先の方がいいかなって思った。
そんなわけでプレゼントを買いに行くが、女子へのプレゼントは難しいと聞いたことがある。というわけで今日は姉ちゃんに着いてきてもらうことになりました。昨日はバレー部で練習試合があって今日は2週間ぶりのオフらしい。
そこでお願いして頼み込んだ。条件として買い物に付き合えと言われた。致し方なし。
ってことで今日は1日買い物の日だ。
「おはよー」
リビングにあくびをしながら入ってきたのは姉ちゃんだ。
「「おはよー」」
「姉ちゃん何時から行くの?」
「11時くらいでいいんじゃない」
「オーケー」
「あれ?2人でお出かけ?」
「そうだよ。村丸がどうしてもって言うから仕方なくね。姉として甘えん坊な弟の面倒を見てあげるの」
「違うだろ。そっちも条件出したんだから五分五分だよ」
「仲良しね。そうだ、ママたちもお出かけしようかしら。ねぇ、パパ?」
「いいね!近くに美味しいパンケーキ屋さんが新しく出来たって聞いたからそこに行こうか」
「やったぁ」
父と母は結構頻繁に2人で出かけている。
11時。
「村丸早くー」
「今行くよー」
財布には10万円入れていく。
ダンジョンで稼いだからね。貯金はまだまだあるし。財布がパンパンになったのを見てニヤニヤしながら部屋をでる。
「あんた何ニヤついてんの?」
「なんでもなーい」
2人で家を出てショッピングモールに向かう。
と言っても歩いて5分で着く。
「何あげたら喜ぶかな?」
「まずは自分で考えてみたら?祝いたいからプレゼントあげるんでしょ」
なるほど。
うーん。鈴鹿は何を貰ったら嬉しいか。付き合ってもない相手にアクセサリーを送るのは重いって聞いたことがあるし、センスが合わないと使いづらいだろうからアクセサリーはナシだな。ダンジョン系のアイテムならアリかもだけど、このショッピングモールににはユーツールは無い。
となるとやっぱり無難なのは日用品。文房具だと弱いか。文房具をプレゼントは子供までか?鈴鹿がいつも使ってる物は、ヘアピン、文房具、あとなんだ?知らないな。
そういえば俺、鈴鹿が何好きか全く知らないな。遊んだのだってクリスマスパーティーと遊園地だけだし。
関わり薄すぎない!?
考えてる間に姉ちゃんの買い物が始まる。
昔からそうだが姉ちゃんは周りから視線を集めやすい。
背が高いからだ。今は173cmあるって言ってた。対して俺は152cm。
中学の時から変わってない。中学の時助っ人で呼ばれて出た試合では相手選手から大抵なめられた。そんな奴は容赦なく技術で圧倒したが。
そんなわけで姉ちゃんと歩くと俺の身長の低さが際立つ。両親とも平均身長より高い。なんで俺だけこんなに低いのかわからない。そう、俺は突然変異種だ。
「あれ?千代女ちゃん?偶然!」
前から姉ちゃんの知り合いと思われる長身女子が声をかけてきた。
姉ちゃんの名前は大竹 千代女だ。
「やっほー!灯ちゃん!」
俺と話してる時よりトーンが上がる。これだから女子は。
長話が始まりそうだ。
「良かったらお昼一緒にしない?この後映画まで時間あるからお昼食べようと思ってて」
「ごめん。弟と一緒に来てるから」
「あっ」
こっちを見る。今更気づいたのか。
「そっかー」
「弟も一緒で平気ならいいけど」
なんでやねん!思わず関西弁が出ちゃったよ。なんで俺も一緒に行かなあかんねん。
てやんでい!
「やったー!」
なんでやねん。
「それじゃあ行こっか!行くよ村丸」
「いや、俺他のところで食べるから」
「だめ。一緒に来ないとこの後付き合わないよ」
「ちくしょー」
これはもう畜生だ。
なんで170cm以上の女子2人と歩かないと行けないんだよ。これは正しく公開処刑。
「弟君は今何年生?」
これだよこれぇ!
「高一です」
「えっ、あっ、1つ下なんだ。もしかして同じ学校だったり?」
俺の歳を聞いて驚くのがテンプレだ。
「そうですよ」
「あははっ、村丸小さいからね。よく間違われるんだよ」
この野郎!笑うな!
「ごめんね。てっきり小学生かと」
わざわざ言うなこれだから女子は。デリカシーないんだから!
「この身長でこの顔だからね。間違えても仕方ないよ」
俺が強く出れないからって言いたい放題言いやがって。
「いいなー。私もこんな可愛い弟が欲しかった。今じゃすっかり反抗期で口利かなくてね」
可愛いって言うな!くそー!文句言えない。
「ねー、この可愛さ反則だよね。我が弟ながらいじりがいがあるよ。私はいつか村丸に女の子の格好をさせたい!って思ってる」
絶対やらないぞ!ボケぇ。
「2人は仲良いね。休日にデートなんて」
「今日は荷物持ちだよね?」
「うん」
ここは大人な対応で乗り切ろう。
お昼を食べ終わる。
「ご馳走様。ごめんね私まで奢ってもらって」
「いえ、お構いなく。紳士の嗜みなので」
ふっ、これが俺のやり方だー!大人な部分を見せつける。
「可愛いー!」
くそー!
「ねー、私もこの後一緒に行ってもいい?」
「映画は?」
「また今度にするー」
なんじゃそりゃ!?
「いいよー!じゃ次あそこ行こ!」
俺は2人の後ろに着いていく。
その後もいくつか店を回った。服屋にアクセサリーショップ、靴屋。
もちろん全部の会計は俺が払った。
元々今日は姉ちゃんが買うものは俺が払うと決めていた。付き合ってくれたお礼だ。
紳士として、当然姉ちゃんの友達の分も払った。
これが大人だよ。急なハプニングにもサッと対応出来る。
財布が薄くなったのがわかる。
「私までごめんね。ありがとう」
両手に紙袋を持ってお礼を言われる。
「さすが私の弟!」
「いえ、姉がいつもお世話になってるお礼です」
こぉーー!スルッと口から出た言葉が大人すぎる。脳内で変な物質が大量に分泌されてるのがわかる。
その後荷物は全部俺のカバンに入れた。
100kgまで入るし重さも感じない。改めて菊地先輩のお母様には感謝する。
「考えたけど思いつかないな」
「何がー?」
この短時間で大分距離が縮まった。
「友達の女子にプレゼントするんだよね」
「うん」
「えー、好きな子?」
「違いますよ。同じ部活の女子です」
「んー、なるほどぉ。ハンカチとかは?」
「どうですかね。そういうのセンスが無いんで」
「センスなんて関係ないよ!大事なのは気持ちだよ気持ち!」
胸を叩いて言う。
うーん、ハンカチかぁ。見てみるか。
「見てから考えます」
「よし、行こう!」
手を引かれて移動する。
完全に子供扱いされてる。
「んー、色々ありますね」
「ビビッと来たやつでいいんだよ」
そんな簡単に来るわけ…
ビビっと来たーーーー!!
「これにします」
白を基調としたハンカチ。2本の黒い線が縁を囲んで、角に小さなひまわりが刺繍されてるシンプルなデザイン。鈴鹿の元気な感じを表すひまわり。
「いいじゃん」「いいね!」
こうして俺の買い物は終わった。
「あのさ最後に1ついい?」
「なんですか?」
「3人で写真撮りたいんだけど」
「私はいいよ」
「それくらいなら」
「やった!すみませーん」
何かと思ったら写真のお願いか。なんでだろう。まぁいいけど。
近くの人に撮影を頼んだ。
「ホントにこれで撮るんですか?」
はあ。
「ね!お願い」
「はぁ」
「撮りまーす!ハイチーズ!カシャッ」
「どうですか?」
撮った写真を2人が確認する。
「「「ありがとうございます」」」
撮ってくれた人からスマホを受け取り
「ごめんね、無理言って。これ宝物にする!」
「私にも送ってね」
「もちろん!」
はぁ、何がいいのやら。やっぱり女子はよくわからない。
そこに写るのは、
2人が両サイドで俺が真ん中に立って2人と手を繋ぐ。2人が俺の身長に合わせて少し屈んでピースしてる写真。
子供かよ!
「今日はありがとね。バイバイ!村丸くんもバイバイ。ありがとー!」
「じゃあねー」
「はい。また」
はぁ、疲れたー。




