24話 春
4月5日水曜日。
街中に新芽が顔を出し始める頃。
その新芽からは天を突くような力強さを感じる。これから幾度となく雨風に晒され、陽の光を全身で浴びることで、より強靭で美麗な花を咲かせるだろう。
春の訪れ。春は始まりの季節。
始まりとは希望 。そして希望はエネルギーとなる。
俺は2年生になった。
あれから色々あった。力が足りないと思ってひたすらダンジョンに通った。1人で戦える強さが欲しかった。守られてばかりは嫌だった。
京一から貰った手袋はボロボロになって使えないから今は家に飾ってる。
1人でリッチに挑んだりしたがさすがにハイリッチに挑もうとは問わなかった。力の差は歴然だ。
学校では来年のクラス替えの為に文系、理系の調査があった。特に何も決めてなかったから、隣の席の翼君と同じ文系にした。
それから春休みはダンジョン部のみんなで遊園地に行った。先輩達の提案らしい。もちろん楽しかった。
そんな3ヶ月を過ごしたが、俺は成長を感じることができなかった。
2年1組
俺の新しいクラスだ。
隣の席にはやっぱり翼くん。それからなんと後ろの席には岡島さんがいた。
というか男女比がおかしい。男9女21となっている。そして鈴鹿も同じクラスだ。
自己紹介ではダンジョンに行ってることを話した。今年は無難な自己紹介ができた。
そして休み時間。
いつも通りじーっと教室の前にある大きな時計を眺めてると突然話しかけられた。
「あのさ!ダンジョンに行ってるんでしょ?エラさんとか橙花様と会ったことある?」
佐藤 幸太郎。太っちょ男子だ。
「誰のこと言ってんの?」
「えっ!知らないの?有名ダンジョン配信者だよ」
「俺そういうの見観てないから」
「まじかー、観ようよ!僕さダンジョン配信者オタクなんだよ、絶対ハマるからさ!」
「時間があったらね」
あんまり興味無い。
「本題なんだけど僕さ、能力があったんだけど生産系でさ、怖くてダンジョンには行けないけど好きなんだ。だから配信を観てるんだけど、良かったら大竹君の冒険も観たいんだ」
「俺カメラとか持ってないし、カメラ片手にやる余裕ないよ」
棍棒は両手持ちだし。
「持つ必要ないんだ!今のダンジョン配信者はみんなそんなカメラは使ってない。今はユーツール社が出した、自動追跡カメラっていうのがあって、宙に浮いて設定した人物を後ろから追いかけて撮影してくれるんだ」
凄い早口だ。
「まじで?そんなのあるんだ。でもそんなのわざわざ買いたくないよ。高いでしょ」
お金余ってないし。
「もちろん高いよ!でもそこは大丈夫。性能は劣るけど僕が造ったやつがあるから。
じゃじゃん!これで撮ってきて欲しいんだ。もちろん無理なら断ってくれていい。でも、大竹君にとってもメリットはある。もし引き受けてくれたなら、他に造ったアイテムもこれから造るアイテムもあげるよ」
造っちゃったのかよ!すごいな。
「まぁ、そこまでしなくてもいいけど。カメラも用意してくれてるならいいよ。でも俺強くないから観てても面白くないと思うよ」
「違うよ!強い人を観たいんじゃないんだ!色んな能力を使ってモンスターと戦ってるのを観たいんだ!それが僕の創作意欲を刺激するんだ。確かに初めは強い人の戦い方は爽快感があって楽しかった。でも今は違う。老若男女どんな能力を使ってどんな戦い方をするんだろう。そんな人たちのサポート道具を造りたいと思って配信を観ているんだ。
それと良かったら魔石も欲しい。どんなに小さい魔石でも僕は欲しい。もちろん換金したいのはしてくれていい。でもゴブリンとかだと大した金額にならないでしょ?それなら僕が買ってアイテムを造る。そして大竹君に渡す。どう?」
「まぁ、いいよ。小さい魔石ならお金はいらないよ。物貰ってるし。ちゃんと対価は払うよ」
タダで物貰うのなんて気が引けるわ。
「やった!もちろんずっと撮影してなくていいよ。余裕がある時で、もし壊れても気にしなくていいから」
「了解」
キーンコーンカーンコーン
「あっ、授業の準備しなくちゃ!じゃあまたね!」
俺も次の授業の準備をする。
放課後、今日は部室でまったりする日だ。
「んー、今年は新入部員くるかな?去年は最初朝姫だけだったからね」
「まぁ、最低1人は来て欲しいな」
「ついに私にも後輩ができる!」
「まだわかんないけどね。2人くらい来てくらたら嬉しいな」
「ね!」
先輩達が引退したら俺と鈴鹿だけになる。そしたら前衛1後衛1でバランスが悪い。せめて1人だな。
「そう簡単にいくかな?」
「そういえば、大竹君はなんであんな変な時期に来たの?」
「ちょうどクラスメイトがダンジョンに言ったって話をしてたのをたまたま聞いて興味が出たんです。それまでは他の部活を転々としてました」
懐かしいぜ。
「そうだったんだ」
コンコン、
「お?」
4人全員の視線が入口に向く。
「すみませーん。入部希望です」
女子の声だ。
「どうぞー」
菊地先輩が答える。
「失礼しまーす。1年の時雨 湊です」
「は、はじめまして、1年の神保 結です」
茶髪セミロングで少し癖のある髪で華奢で明るめの女子と、黒髪ロングで前髪が目にかかってる。長身ですらっとした大人しげな女子だ。
「よろしくねー!アタシは3年で部長の菊地杏奈です!」
順番に挨拶していった。
「女子2人獲得だ!」
菊地先輩がはしゃぐ。
「あのー、僕男なんで」
「「「「えっ!?」」」」
「心も体も男です。でも昔からよく女の子に間違われるので、結果こうなりました。もうすっかりスカートにも慣れましたよ」
「いや、どゆこと!肝心な所の説明が飛んでるんだけど!」
菊地先輩が驚く。俺も驚く。声も癖の無い女子だ。
「もうめんどくさいので、最初から女子だと思われちゃおってことでこうなりました。もちろん必要な時はこうやって僕が男だって伝えますけど、普段は女の子やってまーす」
お、おう。強烈ー。
正直、言われても疑う。
「なるほどね。おっけー」
「僕達まだダンジョン行ったことないんですよ。それでもいいですか?」
「もちろん!まだ仮入部期間だからね。
それなら今日行った方がいいかな?」
「そうだな。どう?今日ダンジョン行ってみる?」
「はい!お願いします。もう手続きは終わってるので行けます!だよね?」
「う、うん。お願いします」
神保さんは終始おどおどしてる。
「んー、7人だと多いかな。良かったら朝姫達が連れてってあげて?」
「あ、了解です!」
「了解です」
「それじゃあ2人とも行こ!」
「はい!」「は、はい」
今日は先生の車に乗って行くことになった。
俺が助手席で後ろに鈴鹿、時雨、神保、で座ってる。
時雨さん?くん?のおかげで話しやすい空気ができてて後ろの席では盛り上がってる。これが女子トークか。
ギルドに着いて更衣室で着替える。当然だが隣にもう1人いる。
「時雨さんはどんな能力がいい?」
「呼び捨てでいいですよ。僕は魔法を使いたいですね。大竹先輩はどんな能力ですか?」
「うおー!!俺が先輩。ふっふ。
おっと、失敬。俺の能力聞いて驚くなよ。なんと棍棒を2本出せる!」
「おー!おー?」
その反応は当然だろう。
「その反応を待ってた!このしょぼすぎる能力。だがしかし俺は探索者になった」
「どんまいです」
どれだけ空気の読める後輩なんだ。
「俺だって魔法使いたかったよ。ちくしょー!」
「僕が見せてあげますよ。本物の魔法ってやつを」
ウインクして目元でピースをする。
「た、頼もしすぎる!後光が差してる。あとは任せた!」
「行きましょうか」
「そうだね」
変なテンションになっちゃったよ。
まさかもう既に!これが時雨の能力か!?
4人はジャージでダンジョンに入る。
新1年生2人とも少し個性的です。
※神保さんはこれからです。
初めの文章ですが、
最近自分が寝る時のポーズにどこか春を感じてしまい思わず文字に起こしました。
それを今回、春を伝えるための文で使いました。




