19話 窮地
現在新宿のダンジョンにいる。夏合宿の時には12階までしか行けなかったから今日は19階までダッシュで終わらす。
そのために佐野先生が付いてきてくれた。
ということで今13階にいる。
「それじゃあ行くよ」
「お願いします」
先生の能力でパイソンを引き寄せて貰う。どんどん集まるバイソンをどんどん倒していく。今の力なら一撃で首の骨をへし折れる。
そのまま階を進めていき19階までを1時間弱で終わらせることができた。
「ありがとうございました」
みんなと合流する。
「それじゃあ20階行くぞ!」
「はい」
菊地先輩、石川先輩、鈴鹿、俺、佐野先生。
「さて、ここから危険度一気に上がるからね。なんたってモンスターが魔法を使って攻撃してくるからね。気を抜いたら大怪我だし当たりどころが悪ければ死ぬこともあるからね」
「はい。火を使ってくるんですよね」
「そうだね、リッチは火を使ってくる。そしてハイリッチは水と雷を使うんだ。雷の攻撃は基本避けてね」
「了解です」
菊地先輩からのアドバイス。
ちゃんとした魔法を見るのは初めてだな。楽しみだ。
みんなもいつもより気を引き締めてる気がする。そんなわけで20階は墓地の雰囲気がある暗い所だ。湿気があり肌にまとわりついてくるような気持ち悪さがある。地面は凸凹していて柔らかい。
「行こうか」
するとリッチが前方に現れる。フード付きのマントを羽織り、マントから骨の手足を露出させていて、手には杖を持っている。
「構えて!」
菊地先輩の掛け声に反応して戦闘態勢をとる。先に菊地先輩がリッチに向かう。その後を俺も着いていく。
リッチが杖を前に出すと杖の周りに拳大の炎がいくつも現れた。4つが菊地先輩に放たれ、残りの2つが俺に放たれた。
まず菊地先輩は放たれた4連の炎を大剣で断ち切る。俺もそれに倣って棍棒で2連の炎を叩く。
(シュボウ、ジュッ)
スマートに対処してさらに近づく。
てか火怖っ!!当たったら一大事だぜ。
菊地先輩の一撃をリッチが避けるがそこには俺がいる。俺への対処は間に合わず胴体にフルスイングをかます。
が、体が崩れることなく吹っ飛ぶ。なるほど力不足か。
「俺が囮になります!」
俺が前に出てリッチの炎を捌きながら、近づき攻撃する。
(シュボ、シュ、シュン、スバッ)
さっきと同じように攻撃が避けられるがそっちはダメだぜ?
「フンっ!」
「カランカラン」
菊地先輩の大剣で斬られてリッチが崩れ落ちる。
「よっしゃー!」
「いい判断だったね」
「ありがとうございます」
相性を考えて菊地先輩と役割を交代した。
俺じゃあ倒すのに時間がかかるからね。
それにしても一撃とはレベルが違いすぎるな。
その後も連携は上手くいった。
鈴鹿に足止めをしてもらうと、あら簡単。リッチが動けなくなった所を俺と菊地先輩でリンチだ。
1度巨大な炎を放たれ俺の棍棒に火がついた。急いで交換したが、もしかしたら火を纏った攻撃ができたかもしれないと思った。機会があったらやってみるか。
そして登場ハイリッチ。
確かに俺でもわかる、普通のリッチとは纏ってる雰囲気が違うな。
「あれがハイリッチですか」
「いや、あれは成長したただのリッチだな」
どてっ、外したー!?
「長い間倒されないと時間とともに強くなるんだ。ダンジョン内の魔力を浴びているからと言われている。気をつけた方がいいぞ」
「そんなこともあるんですね」
(うおっ、炎がでかい!)
危ないと感じ放たれる前に棍棒を当てようと投げてみる。が、簡単に避けられて炎を放つ。
(俺に防げるか?)
いや、この距離なら避けれるか。一か八かだ。
(とうっ!)
思いっきり横っ飛びをして受身をとる。さっきまで俺がいた場所は燃えていた。
体育のマット運動が役に立ったぜ。飛び込み前転を意識してやってみた。3mくらい移動できたな。
そのままリッチに迫る。その間にもう1つ炎を打ち込まれたが横っ飛びで回避して一撃ぶち込むがあっさりと避けられる。スピードも足りないな。
距離を開けないように張り付いて攻撃を繰り返す。杖の扱いも上手く捌かれる。後ろからの菊地先輩の攻撃も躱す。
鈴鹿も参戦してこっちが手数で押し切り、ついに倒すことができた。
なんか途端にリッチが強く感じたな。リッチ相手に距離をとると勢いでやられそうだ。
「強かったです」
「そうだね、あんな感じで結構強くなるんだよ」
「そろそろハイリッチが出てくるんじゃないかな」
「ハイリッチを発見した」
噂をすれば。さすが石川先輩。
「よし、行こう」
相対するとわかる。さっきの長寿リッチよりも羽織ってるマントが暴れている。あれは何をしているんだろうか。風もないのにマントがはためいている。
ピリピリと感じる。俺の勘が危険だと言っている。
「カタカタカタッ」
俺と菊地先輩が走り出すとハイリッチは持っている杖をおもむろに振るう。
すると周囲にポツポツと水が発生する。すかさず今度は杖を掲げる。一瞬だった。
「避けてー!!」
菊地先輩の声を聞いて瞬時にひき返す。
ハイリッチが撒いた水の範囲が一瞬ピカッと光りドーム状に稲妻が走る。間一髪だった。
菊地先輩も範囲から逃れていた。
水と雷のコンボが厄介すぎる。
「よし、やっと僕の出番かな」
「石川先輩?」
「僕の能力なら簡単に近づける。でも威力が足りないから持久戦だけど。だから無理のない範囲で囮役をお願い」
「了解です」
「よろしくね、鉄」
「まかせて」
菊地先輩と石川先輩がバトンタッチだ。
俺は囮役を続ける。石川先輩が倒すまで。
さて、このスリルたまんないぜぇ!
気を引くためにはできる限り近づかないとな。
(行くぜぇ!)
棍棒はひとまずいらないな。全速力でハイリッチに近づくがそれよりも先に石川先輩が既にハイリッチの背後にいる。
(速すぎだろ!?俺いる?)
棍棒を出して投げつける。その瞬間ハイリッチは背後から斬られるがそこまで深くない。
杖を振るうと水の礫がものすごい勢いで飛んでくる。半身になって体に当たりそうなのは棍棒で逸らす。かなりの威力だ、棍棒が削れる。
そして石川先輩の2撃目が入る。完全なヒットアンドアウェイだ。攻撃後すぐに離れて次を狙う。既にハイリッチとは20mくらい離れてる。
杖を振るった直後雷が走る。すぐに棍棒を離すと棍棒は雷に焼かれた。
(うへ〜、危なすぎる)
このハイリッチ戦、俺の勘が冴えてるぜ。未だに無傷。
突如ハイリッチが俺に接近してきた。反応が遅れて、俺のレンジに侵入を許してしまった。
杖による打撃を避ける。だって杖が雷纏ってるんだよ。
距離を取りたいがそれができない。
(ブン、シュバ、スブン)
これ以上は厳しい、一瞬後ろにいる鈴鹿を見る。
途端に後ろにダッシュ。どうやら伝わったみたいだ。ハイリッチの動きを止めてくれた。
だけどすぐに動き出した。
「助かった、ありがとう。
鈴鹿でもハイリッチはずっと止められない?」
「うん、数秒で剥がれちゃう」
「了解」
近づかれたらやばい。筋肉ないくせに俊敏だな。とにかく付かず離れずを徹底しないと。
(どりゃ)
とりあえず棍棒投げとく。
「アタシも出るね」
「お願いします」
俺の訓練のために菊地先輩は下がってくれていたが1人だとちょっと厳しい。
「行きます!」
「うん!」
二方向から攻める。だが2人同時に相手をするとなるとハイリッチは広範囲の魔法を使ってくる。
注意しながら対処する。
(くっ、厳しい)
水の礫が1番きつい。集中を切らすと体の1部を持ってかれる。
さらに雷は受けれない。避けるしかない。
その間にも石川先輩が攻撃を続ける。
その時ハイリッチが腰を落とした。
気を弛めたのは一瞬だった。その一瞬をハイリッチは見逃さなかった。
最大威力の水の礫を俺に放ちそこに雷を乗せた。
逃げる以外の選択肢は無かった。振り向きとにかく1歩でも離れるために走る。
自分の中の時間がゆっくりになるのがわかった。
(あー、これまずいかも)
左腕に水の礫が当たり血が吹き出る。その勢いで手から棍棒が離れた。
その時、頭の中はパニックだが体は動く。
前に落ちた棍棒の天辺が地面につき、一瞬だが立った。その時俺は既にジャンプしていて、棍棒の下の頭の部分(野球のバットで言うグリップエンド)に着地して、そこから上に飛び跳ねる。
高さは4m程だろうか。
下では水の礫と雷が通り過ぎていた。
地面に着く頃には地面は穴だらけ。
受身を取りその場できり返し、ハイリッチに走り込む。菊地先輩との攻防の隙をつき身を滑らせ、足に棍棒を叩きつけて骨を砕く。
すかさず菊地先輩と石川先輩の連撃でハイリッチは倒れ、魔石を潰される。
(はぁ)
考えがまとまらない。体の熱が引かない。
転がっている棍棒はギリギリ形を保っていた。
「大竹君大丈夫?今日は休んどく?」
ぼんやりと菊地先輩の声が聞こえる。
「ハイ」
何とか声を振り絞り返事をする。
「それじゃあ僕が連れて帰るよ。すぐ戻ってくるからちょっと待っててね」
佐野先生に連れていかれて合宿所に戻る。
「今日は休んどいた方がいいよ。それとポーションも」
「わかりました。ありがとうございます」
大分意識がはっきりしてきた。
グビグビ。
左腕の傷が治ってく。
ぐーぱーぐーぱー。問題なし。ポーションすげぇ。
「いやー、それにしてもあの動き凄かったね。もう少しで手を出しちゃうとこだったよ」
「自分でもわかんないんですよね。体が勝手に動いてて」
気づいたらハイリッチの足の骨を砕いていた。
「それじゃあ戻るね。そうだ、後で病院で腕診てもらってね」
「はい」
眠れない。あの時の情景が頭から離れない。
そういえば俺の気の緩みを見逃さなかったなハイリッチ。目がないのに。
ポーションは高価ですが、佐野先生にとっては日用品です。ポーション使用後は病院で診てもらうのが決まりです。
シャオラ!!ついに1日2話投稿出来ました。




