16話 成長
月日が経ち12月を迎えた。
夏休みが終わってから俺は1人でダンジョンに通った。ゾウを倒すのにいつまで時間がかかるかわからなくて、部のみんな特に鈴鹿に迷惑がかかると思って別行動をすることにした。
高嶺先生から許可を貰って、15階が終わるまではいいと言われた。
それからほぼ毎日ゾウと戦った。1ヶ月で受け流しができるようになって効率がぐんっと上がった。その頃体育では柔道をやることになり、そこで受け身を知った。それから怪我をすることが無くなった。
また1ヶ月経ってやっとゾウを倒すことができた。鼻の横薙ぎを受け流し鼻にカウンターを決めるの繰り返し。
数時間の激闘で体力を失ったゾウが倒れた。
それから1週間で10体倒すことができた。そこで次の階に行かずに留まった。この2ヶ月の間にもっとゾウを圧倒してから次の階に行こうと考えていた。
変化は突然だった。1週間で50体倒せるようになって、力が増したのがわかった。
そして棍棒にも変化があった。
ある時から棍棒を2本同時に出せるようになり棍棒の無駄遣いができるようになってずっと試したかったことができた。
調べているとゾウは段差に弱いことがわかった。体の重さ故に3本足になるとバランスを崩すらしい。
そこで足元に棍棒を置いて引っ掛けさせる作戦を考えたが、棍棒は近くにしか出せないから至近距離でやるのはリスクが高く、タイミングを間違えれば無防備で横薙ぎをくらう可能性があったからできなかった。
そして2本出せるようになって近づいた時に足元に出して躓くのを期待したが、その期待は足元の棍棒と共に容易くへし折られた。
考えてみれば当たり前だ。木の棒がゾウの重さに耐えられるはずがなかった。個体差はあるが普通の象でも5t〜7tだ。
思わずその後の横薙ぎを受けて吹っ飛ばされた。幸いにも打撲で済んだが。
俺自身の力も増したことで体が頑丈になってると思う。正面から倒せるようになり15階に上がることを決めた。
そして15階にはクマがいた。
大きさは2m〜3mだったがゾウを数ヶ月見続けた弊害で小さく見えてしまった。
その流れでクマを10体倒して16階に行けることになった。
そして今、部室の前に来ている。
朝連絡して今日から合流することを伝えた。
ガラガラ。
「長らくお待たせしました。ただいま戻りました。これからよろしくお願いします!」
「ホントに久しぶりだね。おかえり」
相変わらず菊地先輩が出迎えてくれる。
「はい」
「それじゃあ早速16階に行こうか」
「楽しみです。先輩たちと一緒に戦えるの」
「アタシたちも楽しみだよ。どのくらい強くなったかね」
「粉骨砕身頑張らせていただきます!」
「ちょっとキャラ変わった?」
「はい!先輩たちの凄さを感じて恐縮しております!」
「そんなことないと思うけどね。普通にしてよ」
「はい」
「村丸久しぶり!やっと一緒にできるね!」
相変わらず鈴鹿は元気だ。
「そうだね、長かった」
「それじゃあみんな準備は出来たかしら?行きましょう」
いつも通りダン証をかざして黒渦に入る。
今回から16階正真正銘モンスターが出てくる場所だ。
鬱蒼と木が生い茂っていて、陽の光は届かず薄暗い。今まで1面岩壁だったがこの階は自然もあって太陽もあるように感じる。地面は木の根っこでガタガタして歩きづらい。
「それじゃあ行こうか。この階はゴブリンが出てくるよ。普通のゴブリンより一回り大きいホブゴブリンを倒すと次の階に行けるの。フォーメーションだけど先頭の索敵を鉄(石川鉄衛門(石川先輩)に任せてその後ろをアタシ(菊地杏奈(菊池先輩)がメインの攻撃役で後ろに朝姫(鈴鹿朝姫(鈴鹿)がサポートで1番後ろに大竹君がサブの攻撃役っていうのが今考えてるやつ。まぁまた変わるかもしれないけど、とりあえずこれでやってみよう。ゴブリンを見つけたら鉄が下がって大竹君が前に出てね」
「了解です」
「まぁそこまでガチガチになる相手じゃ無いから大丈夫だよ!それじゃあ行こっか」
装備だが菊地先輩は鉄のフルプレートアーマーだ。それに身の丈程もある大剣を背負ってる。顔が見えない。
武具の重さは能力で補っているらしく、軽快に動いている。怪力だ。
石川先輩は逆に軽装備だ。全身革装備で腰に小刀を差している。The斥候。
鈴鹿は鉄の部分鎧だ。それぞれ頭、胸、腕、脚を守ったいる。腰にはダガーナイフ。
俺は石川先輩と同じく全身革装備だ。腰にはずっと一緒のサバイバルナイフ。
石川先輩が前方に走り出した。ギリギリ目で追えるスピードだ。その方向に3人でついて行く。その後ろをジャージ姿の高嶺先生がついてくる。ラフすぎる。
30秒ほどで石川先輩が戻ってきた。
「左前方の30m先に5体のゴブリン発見」
ついに戦闘が始まる。
「よし、行こうか。先制攻撃をアタシがするからそれに大竹君は続いて、鉄と朝姫は後ろで待機」
「「了解」」
10mくらい先にゴブリンを確認した。資料通り背は低く体全体が緑色で腰に布を巻いてる。そして手には俺とお揃いの棍棒だ。まぁ、俺の棍棒の方がでかいけど。
「行くよ」
菊地先輩の掛け声とともに走り出す。
1体のゴブリンに近づき大剣を振るうと胴体が真っ二つになって血飛沫を上げながら倒れた。
(滑らかだぜ)
それに習って俺も棍棒を出してゴブリンの顔面にフルスイングをかました。
(せい!どりゃあ!)
久しぶりで少し力んだ結果、ゴブリンの頭が弾け飛んで残った体が崩れ落ちる。
一瞬動揺するが視界の端で菊地先輩が次の1体を倒してるのが見えてそれにつられて俺の体が自然と動く。残りの2体が逃げ始めたから片方にめがけて棍棒を投げて動きを止める。止まったゴブリンは菊地先輩に任せて、逃げるゴブリンを追い射程範囲に入った瞬間後ろから胴体に横薙ぎをくらわした。
(ごらぁ!)
吹っ飛んだゴブリンは木にぶつかり地面に落ちる。胴体は割れていて死んでることがわかった。みんなの所に戻って報告。
「こっちは終わりました」
「こっちもおっけー」
「意外と簡単でした」
「そうだね、これだけ動けるなら大丈夫だね。じゃんじゃん行こうか」
その後もゴブリン狩りが続いた。どうやら俺の力はモンスターに通用するようだ。ゾウで苦戦しすぎて心配だった。この先俺の力が通用するかどうか。杞憂に終わって良かった。
30分歩き回ってついに石川先輩がホブゴブリンを見つけたようだ。
「真っ直ぐ50m先に1体ホブゴブリン発見」
「どう?1人でやってみる?」
「そうですね1回、目で見てから決めたいです」
「それもそうだね」
すぐにホブゴブリンを見つけた。成人男性くらいの大きさで棍棒も俺のより少し大きい。
でもイケそうだ。俺の勘がそういってる。
「1人でやります」
「了解。万が一でも鈴鹿がいるから大丈夫だよ」
「はい」
ふぅ、スピードパワーはどれくらいだろうか。それを知るために俺は棍棒を投げる。ホブゴブリンは余裕を持って避ける。確かにゴブリンとは違うな。でも棍棒避けただけじゃわかんないよ、そして俺を見つける。
「良い体してんじゃんかよ。俺にも分けてくれよ」
「グギィ」
俺に向かって走ってくる。でかい棍棒を俺に叩きつけた。
(ふん!)
「残念だったな。俺は受け流すのが得意なんだ。全力でこいや!」
「ギィ!グギィ!」
その後もホブゴブリンは棍棒を振り回すがそのどれもが俺に受け流される。
(せい、とう、はあ!やあ!めんやあ!そいや!)
ホブゴブリンは下がる。
「これで終わりか?それじゃあ今度はこっちから行くぞ!」
俺は勢いよくホブゴブリンに向かってジャンプして上から叩きつける。唐竹割りの要領で。
「喰らいやがれ!奥義大地を揺らす力!!」。
(どぶりゃ!)
ホブゴブリンの棍棒による防御も虚しく頭から潰れ、地面を揺らした。
これが俺の必殺技の1つ大地を揺らす力だ。
相手を正面から力でねじ伏せる時に使う技だ。
敵を叩き潰した勢いのまま地面を割るのがこの技の最終形態だ。まだ力が足りないから地面を揺らすことしかできない。
ゾウとの攻防中暇だったからずっと考えてた。
どうだ!これが俺の力だ!
フハハハハッ!
「倒せました」
「いいね、予想以上のパワーだったね」
「頑張りました」
「よし、このまま次もいこう!」
そして俺たちは16階へ。
久しぶりの登場キャラなのでフルネームを横に足しました。
2年部長菊地杏奈、2年石川鉄衛門、1年鈴鹿朝姫




