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大竹村丸物語  作者: 骨皮 ガーリック
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15話 芽生え

14階

俺は逃げない、正面から顔面を殴ってゾウを倒す。真っ向勝負じゃボケー!!

(行くぞ!!)


ゾウの鼻は2m以上そして俺の棍棒は80cm。

3倍くらいのリーチ差がある。

まず顔面を殴ることはできないだろう。だから疲弊した時を狙う。その繰り返しの持久戦いや、耐久戦で俺が勝つ。


(せいやー!)

ゾウに棍棒を投げつけ、俺が敵だと知らせる。

振り向きざまの鼻の横薙ぎに棍棒を間にいれて対処する。

ズシ!

ズゴー、

初めてのことで、受け流せるはずもなく勢いよく飛ばされる。


(いてーなぁ)

数m飛ばされて地面を転がったが手が痺れるだけだ。

追撃に来たゾウの横薙ぎにまた棍棒を当てる。

角度が悪いのか、また飛ばされる。

かすり傷が増えていく。


とにかく感覚を掴まなければ話にならない。

ゾウの体力より俺の体の限界が先に来てしまう。

とにかく1回ずつ角度を調整して数をこなすしかない。幸い身体能力が上がったおかげか数m飛ばされてもかすり傷で済む。

うーん、思った以上に難しい。


ズン!

(ぐひゃっ!)

う、うご…

ズドン!

助かった。

気を抜いてたわけじゃないが、今まで横薙ぎだった攻撃から上からの叩き潰しに変わった。


予想外の攻撃で動けず叩き潰された。

追い打ちでもう1回鼻を振り上げトドメをさそうとしたところでゾウが吹き飛んだ。

原田部長がやってくれたのだろう。

間一髪で助かった。


「大丈夫かい?」

「はい、ありがとうございます。助かりました」

起き上がろうとするがまだ体が動かない。

「今日はやめとくかい?」

「いえ、迷惑かけますが数を重ねないと意味が無いので続けます」

「了解」


やっと、立ち上がることが出来て、まじで潰されるかと思った。

棍棒が間になかったら潰されてたと思う。



ふふっ、今の出来事に少し興奮してしまった。

初めて殺す側から殺される側に立たされて、慈悲もなく致死の一撃を叩きつけられてわからされた。

まさに無常で無情だった。弱肉強食。

その事に思わず口の端がつり上がってしまった。

体が熱くなり、今も興奮が治まらない。

今すぐに殺り合いたいと心が落ち着かない。

死への恐怖とは生への執着から生まれるもの。

逆もまた然り。

俺は今死を感じることで、生きてることの喜びを知った。生きていればまたあの体験ができると。

今まで感じることの無かった悦び。

生きていることの意義を知った。




そして今、大竹村丸という(おとこ)が誕生した。

後に世界に恐怖を与える者。

歴史に刻まれる名は果たして。

それはまだ先のお噺。




それから何度も挑むが成果は出ない。開始から4時間、何回目かの横薙ぎで手から棍棒が離れる。離れた先で棍棒が砕け散る。


「今日はこの辺で終わりにしよっか。疲れたでしょ」

「そうですね。ありがとうございました」

「それじゃあ戻ろっか」

「はい」

合宿所に戻り先にお風呂に入らせてもらった。



「はぁ〜、いい湯だな。疲れがとれる、全身に染み渡る」

思わず独り言が出てしまう。今日は1人で入ってる。

それにしても今日は凄かったな。まさかあそこまで熱中するとは思わなかった。初めてだ。

いろんなスポーツをやってきたけど、そのどれにも情熱は無かった。

そしてなにより楽しかった。1回1回考えて棍棒の角度を変えてを繰り返して。

結局最後まで出来なかったけど、それは時間をかけてできるようになればいい。

夢中になれるものを見つけたかった。

正直俺に探索者の才能は無いかもしれない。

棍棒を出すだけなんて意味あるのか?と。

でも、もうこれからは関係ない。意味なんて考えない、俺はただモンスターと戦いたい。

命を懸けた戦いの楽しさに気づいてしまったから。



彼はまだ気づかない。思考が常人とはかけ離れていってることに。

そしてこれはまだ些細なきっかけに過ぎない。


(早く明日になって欲しい。早くゾウに会いたいよ。)



1時間も湯船に浸かってしまった。のぼせてきたから上がって大部屋で扇風機をつける。

なんか頭がぼぅーっとする。



「冷たっ!」

おでこに何か冷たいものを感じて目を覚ます。いつの間にか寝てたみたいだ。

目の前には清麻呂がアイスを持っていた。


「買ってくれたんだろ?ありがとよ」

「あれ?今何時?」

「もう20時だぜ?みんなご飯食べ終わって食後のデザートだ。村丸が買ってきてくれたな」


「そうだったのか全然気づかなかった」

「きっとのぼせたんだろ。結構騒いでたけど起きる気配なかったし、部長がそのまま寝かしてあげてって言ってたからそのままにしてたが、ご飯食べ終わって見に来たらモゾモゾしだしたからおでこにアイスを乗っけてみた。そしたら起きた」

「そうか、なんかめっちゃ体疲れてるわ」

「とりあえず水飲んで食欲あるならご飯食べろよ」

「そうするよ」


「あ、起きたんだ大竹。もう平気?アイスありがと!」

「「「ありがと(ねー)」」」

「平気です。平へのお礼だから気にしないでください」

「おや?いつの間に」

「昨日、肩痛めたのを治して貰ったんです」

「そんだったんだ」

「えっ!?気にしなくていいのに」

「まぁ、みんなにもお世話になったから」

ふっ、これができる大人ってやつだな。

かっこよくその場をキメて、ご飯を食べた。




「ピピーッ!さて、枕投げ夏の大会3日目最終日!合同合宿最後のイベントがやって参りました!」

「宣誓は1日目2日目優勝者の原田部長!」


「宣誓!私たちの短いようで短かった3泊4日の夏の合同合宿もいよいよ終盤!1人も欠けることなく最後まで来ました!私たちは友でありライバル!そのことを忘れず集中を切らすことなく全力でフェアプレー精神に則り戦うことをここに誓います!

令和9年8月25日水曜日選手代表原田直人!」


パチパチパチパチ。

「本日の枕投げのルール説明。今大会で最後となる原田部長を労うために最高のルールを設けました。4人が部屋の角をそれぞれ陣地とし、部屋の中央を原田部長の陣地とします。それ以外は通常ルールで進行します。やり直し無しの一発勝負です。フェアプレー精神で臨みましょう」


「さすが枕投げ大会会長の石川会長だ。こんなに僕を楽しませてくれるルールを考えつくなんてね」

「これも全て原田部長を倒して、今後の大会に憂いを無くすためです。今日伝説を壊します」

「ハハッ、望むところだよ!」




そして原田直人は伝説となった。

高校3年間無敗は史上初の快挙。今後破られることは無いだろう。

「僕はいつまでも君たちの前に壁として立ちはだかるよ。ま、誰にも聞こえてないか」

布団の上で気絶した4人はそのまま眠りについた。



7時起床

昨日いつ眠りについたのか記憶がない。

みんなもそうだったらしい。怖い!

今日の午前中は予定がないから、みんなで東京を観光した。

お別れの時間だ。


「それじゃあ、次も待ってるよ。高嶺先生いつでも待ってます」

「次回もよろしくお願いします。それではまた」


「じゃあな友よ」

「ああ、いつでも待ってるぞ」

俺は清麻呂と熱い握手を交わして別れた。


辻堂駅に着き

「それじゃあここで解散ね。明日金曜だけど部活は無しにします。ゆっくり体を休めてください」

「「「「はい!」」」」

「じゃあね」

「バイバイ!」


「ただいまー!お土産買ってきたぜぇ」

「おかえり。まず手洗いな」

「はーい」


手を洗ってリビングに戻る。

「それではじゃじゃーん!大量のお菓子!」

「わーい、お菓子が1番嬉しい」

「あんたわかってるじゃん。ありがと」

「モチのロンだぜ!」


合同合宿が終わった。とりあえず今日は休もう。明日からまたゾウと殴り合いだぜ。

待ってろよ!必ず殴り勝ってみせるからよ!

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