カロリーを意識したら16kg減り、自宅筋トレをしたら腹筋がうっすら割れた、これはそんなn=1の体験談。カギは『ハンガーコントロール』と『オールアウト』にあったぜ!
◆プロローグ
俺は独身で一人暮らしの冴えないサラリーマン。
歳はそうだな、『xxブートキャンプ』が流行った頃には、すでに社会人だったと言っておこう。そう、かなりおっさんな独り身だ。ほっといてくれ。
身長は173センチ。平均より少しだけ高いらしい。
体重は、多いときには74kgあった。それが今は58kgだ。
スポーツはなにもやっていない。学生時代はずっと文化系だ。
ことの切っ掛けはもう何年か前、新型コロナウイルスが流行するよりも前の、会社の健康診断。
以前からあるにはあったんだが、要観察項目が増えて、ついに総務部から呼び出しをくらった。
ほかに誰が呼ばれたのかはわからない。人数はほんの数名だということはわかった。俺はその中のひとりだったってわけだ。
俺の職場には、俺より年上の方々が沢山いらっしゃるんだよ。
かなりショックだった。
それで食事や生活を見直せって話をされたんだが、実はすでに気を配っているつもりだったんだ。外食は野菜の多い定食を選んでいたし、休みの日はサラダをいくつも買ってドカ食いしていた。
適当にやっていては全然だめだったってことだな。なので俺は意識を一新し、真面目に取り組むことにした。
◆食事編 ~事前調査~
食事を見直すとなったら、まず思い当たる言葉は「カロリー」だろう。
俺はこれについて調べた。俺にはどれくらいが適正量で、それに対してどれくらい食っているのか、ってあたりについてだ。
適正量は、ネットを探ればすぐに分かる。身長、体重、性別、年齢を入力して、ポチッとタップするだけ。俺の場合は1600kcalと出た。
――この値を見て、おかしいと思ったヤツはいるか?
そう、実はこれ、基礎代謝量ってやつなんだ。丸一日ずっと安静にしているときの、生きていくために最低限必要なエネルギー。
それを俺はエネルギー保存法則的に、体重を減らすなら下回らなければならないカロリーだと誤認した。
しかもどこかで入力を間違えたらしい。本来1700kcalになるはずの値を、100kcal低く、目標値として認識した。
幸か不幸か。俺の仕事は基本、一日パソコンに向かってマウスとキーボードを操作するだけ。そのためかこの勘違いが問題になることは、結果としてなかった。
次に俺は、自分の食事がどれだけのカロリー量なのかを計算した。といっても、これを真面目に求めるのはかなり面倒だ。
なのでまずは袋やメニューなどにカロリーが書かれている食べ物だけを対象にした。それらを100の位で四捨五入して足し込んでいったんだ。どれくらいオーバーしているのか、アバウトに分かればいいと思ったわけだな。
この判断は正しかった。こんな大ざっぱな積み上げでも、一日に取得しているカロリーは時に3000kcalを越えていた。
こうして俺は、食べる量を半分以下にしなければならないと悟った。
◆食事編 ~実践~
取得カロリーを目標値まで減らすこと自体は容易だった。というのは単純に、食べ過ぎていたからな。
参考になるとは思わないが、速攻で削ったり入れ替えたりした食べ物を列挙してみる。
朝食にしていた菓子パン。
昼の定食屋での、無料ご飯おかわり。
残業前の菓子パン。
夜の自炊で調理していた肉系の惣菜(ギョーザなど、数人前で一箱のヤツ)。
週末のカットサラダ数袋に、どばどばかけていたドレッシング。
週末楽しみにしていたケーキやプリンなどのデザート。スナック菓子。
――こんなものを食べていれば、太って血液が異常値になるのは当たり前だよな。これを全面的に見直して、1日1600kcalの食事に切り替えたわけだ。
ただここで一点、工夫したことがある。目標カロリーは、移動平均で1600を目指した、というところだ。
具体的には毎日1600ではなく、例えば3日間の平均を1600にしたということ。1300、1300、2200、って感じだ。――実際は1週間単位で移動平均を意識したが、それだと例示が複雑になるので話を単純にしている。
どうしてこうしたかというと、食べたいものを食べたいだけ食べるためだ。
肉料理など、うまいものはたいていハイカロリー。それを毎日少量食べるのは物足りないし、それ以前にそんなふうに小分けして調達するのは難しい。
そこでそうした料理は、数日に一回食べるようにしたってことだ。そう、このカロリー制限で口にするのをやめた食い物はない。ケーキもプリンも食べ続けた。数週間に1回って頻度になったがな。
なお、単純に取得カロリーを減らしたわけではなく、栄養のバランスにも配慮した。その詳細はこの語りの本題ではないので、省略させてもらう。
気になるなら「食事バランスガイド」という語を検索するといい。農林水産省や厚生労働省の資料が見つかるはずだ。
◆食事編 ~ハンガーコントロール~
食べるものは一気に変化させられたが、体のほうはそうはいかなかった。
しばらくは、空腹に苦しめられた。
というか、これがなければ、皆、ダイエットに苦労はしないだろう。
具体的にどう克服したのかを、平日と休日に分けて列挙していく。どうやらこのあたりは血糖値の知識があるといいようだが、俺は知らないまま戦った。
まず、平日。
サラリーマンゆえ、会社に出勤している日だ。平日は衆人の目があるし、好き勝手に飲食できないしで、空腹対策は比較的容易だった。
定時内は腹がすくと、ひたすら白湯を飲んだ。腹に物を入れてごまかす作戦だ。
そして残業前には、キャラメル一粒を舐めた。二度おいしくなるってやつだ。一応頭を使う仕事なので、糖分を補給して脳を働かせる必要があると判断した。――と、言い訳をして舐めていた。これは慣れてきたら要らなくなったし、仕事の能率も変わっていないと思う。本当に言い訳だったな。
続いて休日。
一人暮らしなので、完全に自制心との戦いになる。特に外出しない日などは、平日と比べると段違いに難度が高かった。そして編み出したのは、食べる総量は厳守しつつ、食べる回数を増やすという作戦だ。
例えば朝食。これを一時間おき、三回に分けて口に入れるようにした。果物+ヨーグルト、グラノーラ+豆乳、コーヒー。これらを一度に食べるのではなく、時間をおいて食べたわけだ。
ただそうしても、腹が減るときは減る。そういうときは昼食を前倒しにした。11時や、時には10時過ぎに食べることもあった。
午後は、少量の間食をとって空腹をごまかした。アーモンドやクルミを2粒食べる、といった感じだ。こいつらは開封しても数ヶ月単位で日持ちして、味もそんなに落ちない。なので少量を食べるのに都合がよかった。
スナック菓子についてもクリップで封をしながら、少量だけ食べるようにした。もともとこうした菓子は、途中で食べ飽き、あとは惰性で食べているものだ。しかし開封すると味は数日で落ちる。やがて朝食代わりに、たまに食べるだけになった。
空腹との戦いは、数ヶ月続いただろうか。このあたりの記憶はあやふやだ。1年ということはないし、半年ということもなかったと思う。じきに普通の三回の食事で、空腹を感じないようになった。
こうして回数を分けて食べる作戦は功を奏したのだが、ひとつ問題が起きた。虫歯ができて歯医者に通う羽目になったのだ。この点については今振り返っても、どう対策すればよかったのか思いつかない。毎回歯を磨けばいいのだろうが、とても手間な気がする……。
このようなカロリーを意識した食事を続けた結果。
体重は半年でガクッと減って、そのあとも鈍化したものの減少が続いた。正確なところは記録を残していないので分からない。半年で8kg、更に半年で4kg、更に1年で4kg減少といった感じだったはずだ。
「なんだ、16kg減量したっていうのは2年がかりかよ」
――そういう声も聞こえてきそうだな。
そうかもしれんが、俺の中では半年で成果が出たという感じだったんだ。
食事を意識したのは、最初の半年だけ。習慣化したあとはもう、ダイエットをしているという感覚はなかった。普通に生活しているのに体重が減っていく、という感じだ。実際、適正体重には1年で到達しているし、今はむしろ減りすぎないよう注意しているくらいだ。
長くなったのでまとめる。
体重を減らす原理自体はシンプルだ。食べる量を減らせばいい。
べつに、運動で減らすこともできるんだろう。しかしこれはサラリーマンには難度が高い。膨大な時間を要するからな。
だから、やることはこうだ。
まず自分の消費カロリーを把握する。つぎに食事を消費カロリー以下にする。そしてしばらく空腹感と戦う。
難度が高いのは3番目。これを俺は『ハンガーコントロール(hunger control)』と意識して、克服した。
この言葉は調べたって、出てこないぞ。これは『アンガーコントロール(anger control)』をもじった、俺の造語だからな。
ダイエットのポイントは、「いかに空腹感をごまかすか」というところにあったということだ。
総務部に呼び出されてから一年後の健康診断。
問診で医者に驚かれ、どうやって体重を減らしたのかを尋問されることになった。
ただ血液検査については、減りはしたものの要観察項目がいくつも残っていた……。
◆室内筋トレ編 ~プチ挫折~
痩せ気味になってしばらく。健康への意識も薄れた頃。
新型コロナウイルスが、全世界で流行りはじめた。
俺は文化系人間、スポーツは何もしていない。しかし電車通勤は往復で2時間。そのあいだはずっと、立つか歩くかをしていた。それが在宅勤務になって、一日中座るか寝るかの生活に切り替わる。
どう考えたって、このままでは足腰が衰えるだろう。そこで今度は、運動に取り組むことにした。
いつものごとくネットで調べ、まず目に付いたのが『HIIT(高強度インターバルトレーニング)』だ。
最初に断っておくが、これは長続きしなかった。それでも省略せずに話をするのは、この運動は効果があるだろうと思っているからだ。
『HIIT』は激しい運動と休憩を数十秒単位で切り替え、計四分ほど続ける運動だ。詳しくは自分で調べてくれ。その効果はまともな研究で実証されていて、一流アスリートも実践しているらしい。
短時間で効果が出るというのはサラリーマンにとって魅力的だ。ただ俺の場合、「激しい運動」がネックになった。
それは俺が借家住まいで、階下に振動を伝えず運動強度を上げるのに限界があったからだ。最初こそつらかったがすぐに慣れ、しかし、より激しい運動に移行することができなかった。
なので一軒家や一階に住んでいるヤツは、この『HIIT』について調べる価値はあると思っている。もし興味を持てたのなら、関西の私立大学の情報を見てみるといい。
ただ、こいつでダイエットするのは無理筋だと思うな。数分の運動で消費できるカロリーはたかが知れている。これを応用したトレーニングの情報が溢れているが、それらについては俺は関知していない。
◆室内筋トレ編 ~オールアウト~
そんなプチ挫折を経てたどり着いたのが、ごく一般的な自重筋トレだ。腹筋、腕立て、スクワット、だれもが知ってるヤツだな。
これも調べれば、色んな人が山のようにやり方を紹介している。そんな中から俺は、大学の先生が登場する公共放送提供の動画群を採用した。一時期話題になった番組が、現在は超有名動画サイトを通して配信されているのだ。「ああ、あれだな」と思い当たる人も多いだろう。
ここではその詳細については割愛する。俺みたいな素人が出る幕はない。
ただ工夫した点だけ、語っておく。動画だけでは情報に不足を感じ、調べたことがあるんだ。
まずは準備体操。
これがどうすればいいのか分からなかった。いろいろ調べた。
試行錯誤した結果、有酸素系運動で体を温め、攣りやすい部位のみストレッチでほぐしている。俺の場合、尻の筋肉がやたらと攣るんだ。時間は3分くらいだな。
当初はストレッチだけを実施してたんだが、これだと体が温まりづらくて冬場はつらかった。それにストレッチは筋トレ効果を弱めるという情報を散見した。そんなことを気にするのは10年早いとは思ったがな。
続いて回数。
動画では各種運動を10回とか15回とか指定している。これが種目によってはできなかったり、逆に余裕がありすぎたりした。また動画内では「できなくなるまでやる」、「だしきるまでやる」と叱咤激励している。この激励が、運動回数を指定していることと矛盾しているように感じた。
そこで調べて行き着いたのが、柔道全日本のコーチもしている大学の先生の動画群だ。胸の筋肉が歩いていると称されている方だ。膨大な動画がネットに上がっているが、その中から「オールアウト」という考え方を知った。
「オールアウト」とは、疲れて動作ができなくなる状態を指す。この状態まで動作を繰り返し、休憩したのちに再開すると、筋トレの効果が高まるらしい。実践するのはキツくて難しいらしいので、俺がやっているのは真似事みたいなものなんだろう。
結局、自重筋トレは人によって最適な回数が異なり、一律に指定するのは不可能ってことだ。そりゃそうだろうな。視聴者の体格・体力は千差万別だ。公共放送提供の動画はそれを承知の上で、便宜的に回数を指定しているのだろう。だから3回だろうが5回だろうが、それが限界ならそれだけをやればいいのだ。――ともかく、この「できなくなるまでやる」という方針は、俺のトレーニングの質向上につながった。たぶん。
というのは、筋トレを続けていると、以前にできなかった回数をこなせるようになる。するとそれが嬉しくなって、回数を増やそうとする。――ここにワナが潜んでいるんだ。なぜって、回数を増やすのは筋力を付ける以外に、ズルをしても達成できるからだ。これを無意識にやってしまうんだよ。例えば腕立て伏せ。苦しくなると腰を反らすようになるだろ? こうして効果のない運動をやってしまうんだ。
なので俺は反復回数ではなく、オールアウト回数を目標に設定するようにした。
すると「こなせる回数を増やす」んじゃなくて、「早く追い込む」ようにと意識が変化する。フォームも「つい楽な姿勢を取る」のではなく、「キツい姿勢を維持する」ようになる。
慣れたときはほかに、やり方を変えるのも有効だな。腹筋ひとつを取っても、実に様々なフォームが存在する。そしてフォームを変えると、とたんに回数をこなせなくなる。つまり、再びオールアウトに容易に到達できるようになる。
語りが長くなっているが、あと2点ほどつきあってくれ。
運動前は部屋をフル換気している。なので特に夏場は、汗をかいて運動しづらい。そこで筋肉を増強するのは冬場を中心にして、夏場は維持する程度に抑えた。
次に腰痛について。これは気をつけても、気をつけすぎるということはないぜ。
腕立て伏せ、腹筋、スクワット、たいていの筋トレは腰に負荷がかかる。ここを痛めると何もできなくなってしまうぞ。具体的には今現在、スクワットなんかはオールアウトまで追い込んでいない。フォームには気を使っているつもりなんだが、太ももや尻よりも先に腰が悲鳴を上げてしまう――。
こうして公共放送の動画内容を2日に1回、30分程度の頻度で実践している。
もともと通勤には1日2時間を費やしていたからな。この程度の時間消費は問題にならなかった。ただ最近は出社機会が以前に戻りつつあって、時間が厳しくなっている。そこで実施種目を部分ローテし、時間を短縮してやりくりしている。
効果については、体の部位によって濃淡があるな。もっとも効いたのは腹だ。腹筋の割れはうっすら程度だが、両サイドがえくぼのように凹んだ。反対にイマイチなのは背筋。ここを鍛えるのは自重筋トレではムズいらしい。
さてこの自重筋トレだが、健康診断にも変化を巻き起こした。
まず痛快なことが2年連続で起こった。腹囲測定で看護師に「お腹を凹まさないでください」と注意されるのだ。もちろん俺は凹ましてなどいない。
さらに腹部に回されるメジャーが、二箇所、腹から浮くようになった。
そして血液検査。
全ての項目が正常値になったぜ――。
◆デメリット
ここまでダイエットや筋トレの、良い面だけを語ってきた。実際は悪いことも起こっている。ここではそのダークサイドについて、包み隠さず述べておこう。
まず服のサイズが合わなくなった。
俺は世間体を気にしないほうだと思う。それでも着続けるのに躊躇するほど、従来の服がみっともなくなった。この経済的損失は大きい。
続いて顔。
ほおがこけて貧相になった。急速に老け顔になってしまった。
最後に寒さに弱くなった。
真冬の朝などは、エアコンの前から身動きできなくなることがある。10kg以上のミートテックを失ったのだから当然なんだろうがな。ともかく胴が凍えてたまらない。雪山で遭難したら、すぐに衰弱しそうだ。
◆エピローグ
――最後に、そうだな。
長生きしたってひとりでトイレに行けなきゃ、生きる楽しみはかなり失せるぜ? 哀しいことにそういう境遇に陥った親族を、ここ数年で何人か目にした。
日本国民の平均寿命と健康寿命の差は、10年前後もあるからな……。
そんな生活をオマエはしたいか?
イヤだったら、今すぐ食事を見直せ!
イヤだったら、今すぐスクワットを開始しろ!
俺からは以上だ。
諸君の健闘を祈る!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
本作の語り口はご覧の通り、上から目線の俺様風味になっています。
「もし現在、昔のブヨブヨした自分がいるとしたら、どう書けばその耳に届くだろうか?」
そう考えていたら、自然とこのような文体になりました。
あと、念押しですが、本エッセイはあくまで素人による体験記です。
ダイエットに自重筋トレ、どちらも実際に取り組まれる場合には、正しい知識を仕入れた上で実践してくださいませ。
さらにそもそも、ダイエットや筋トレを押し付ける気は毛頭ありません。
好きなものを好きなように食べてぶよぶよし続けるのも、それはそれでひとつの生き方でしょう。人それぞれ、好きなライフスタイルを過ごせばいいと思っています。
それでは。
頑張る方には、ご健闘をお祈り申し上げます!