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六周目:開始の合図、始まりの合図

その後も幾度か死に掛けたエアはしぶとく生き残り、クオリファイを11位というぎりぎりのタイムでクリアし、スカイラン本番を迎えた。


「よーし!がんばるぞ!」


何度も飛んだスカイロードの客席から空を見上げ、決意を新たにするエア。後ろからトロネが声をかける。


「エア!いよいよ、本番だね!」

「ああ!前から11番目からスタートだが何としてでも、カークとショルドを抜くんだ!」


トロネにはエアの後方にメラメラと炎が見えた気がした。


「ところでエア。ベアの姿が見えないんだけど?」

「ああ。あいつならあそこだよ」


エアはすっと幾つもの機体がならぶスカイロードの地面を指差した。


「最後のメンテナンスか……。大丈夫かな?」

「大丈夫だろ?今まであいつがメンテナンスしてきて大丈夫だったんだから」

「でもベアは本番に弱いからね」


ベアは練習の時は自身の力を存分に出せるのだが、いざ本番になるとその力の1/5も出せない程、本番に弱かった。


「今日はあいつが飛ぶわけじゃないから、大丈夫なんじゃないか?」

「それもそっか」


エアの言葉に妙に納得するとトロネだった。




その後、トロネとエアはベアが呼びに来るまで観客席でボーっと空だけを眺めていた。


「エア。今日は風が強いね」

「ああ。強すぎるだろ」

「ニュースでも今日が風が強いって言ってたよ」


その日は木々がしなるほど風が強かった。本来なら飛行など到底無理なのだろうが、スカイランは年に一度の大きな国のイベントとあって、よっぽどの事がない限りは中止されないものだった。


「これは飛ぶのは難しそうだな……」

「うーん……確かに」


二人の髪が風にあおられ後方へ流されていく。そんな二人をよそにスカイランの開始時間は刻々と迫る。それにあわせるように次第に観客席もにぎわい始める。


「人が増えてきたな……」

「エア!終わったぞ!」


ボーっと観客の波を見ているとその中から見たことあるツナギを着た男が声をかけてきた。


「ベア!終わったか!どうだ?調子は?」

「ああ!大丈夫だ!お前、昨日ブレーキが効きすぎるって言ってたろ?だから効き具合をちょこっと調整しておいたぜ。後はお前の腕次第だな」


何処をどうメンテナンスしたかを一通りベアは説明すると近くの観客席にドカッと腰を下ろした。


「後、1時間半後だな……。他の奴らはテスト飛行してるが、お前はやらないのかよ?」


観客席に取り付けられた時計を眺めながらベアはエアに疑問を投げる。


「俺はいいよ。こんな所で事故を起こしたくないからな」

「お前がそう言うなら無理強いはしない。だけど気をつけろよ。前にも話したと思うが一応は妨害ありだ。結構妨害ってのは起こってるみたいだからな」

「ああ。そろそろ行くか。トロネはどうする?」

「僕も行くよ。近くで応援したいしね」

「ベアは?」

「俺は疲れた。後で行くよ」


ガクッと頭を垂れ、右手をひらひらと左右にふる。エア達はそれを先に行っててくれという無言の合図と取り、ベアをおいてヴェーアトロネ号の元へと向かう。向かう途中、機体の調整確認をしていたショルドと出会う。


「おお、エア。一応出場できたか」

「あ、ああ。何とかな。ギリギリだったけど」

「そんなので大丈夫なのか?それで俺やカークを抜こうなんて……」

「そんなショルドはクオリファイ、何位だったんだよ?」

「2位だ。カークに負けただけだ。当然だろ?それにしてもお前がスカイランに出られるなんて正直今回のレースは腕の立つランナーはあまりいないみたいだな」


ショルドは少しがっかりしたような顔をした。


「んな事はねぇ!俺がいるだろ!?」


苦し紛れの強がりだった。ショルドはその姿が滑稽に見えたのかフッと鼻で笑うと自分の機体の調整に戻る。そして、エアの顔を見ずに一言言った。


「ま、せいぜい楽しませてくれよ?もう一人のライバルさんよ」

「ああ!目にものみせてやるよ!世界で2番目に早いランナーさんよ!」


そう言うとエアはニコニコと笑顔のままショルドの元を離れ、自分の機体の元へと歩み寄った。そして、手で機体の胴部分をバンバンと叩く。


「今日もいい感じだな!ヴェーアトロネ号!」


ヴェーアトロネは無言のままそこに佇む。ヴェーアトロネを前にエアはこれから始まるレースに緊張と喜びを感じていた。そうして、乗り込んだり機体の周りをグルグルと回ってみたりと落ち着き無くエアは時間をすごしていった。そして、ラン開始の10分前。


「エア!ちゃんと帽子とゴーグルをつけて!」


スカイラン中は飛行中の葉や小石が目に入り事故を起こさないようにゴーグルの着用を義務づけられ、帽子は風圧で髪の毛が飛び、後方のライナーの目に入るのを避ける為に着用する必要がある。エアはトロネから帽子とゴーグルを受け取り、着用をする。


「エア!忘れるなよ!いつも通りのブレーキングだと、スピードが落ちない可能性がある!また、今日は風が強い!風の抵抗が強すぎる地点があるかもしれないからな!」

「分かった!気をつけるよ!」


その時、いつの間にか満席になった観客席から歓声が上がる。そして、アナウンサーらしき男の声がスピーカーから鳴り響く。


『皆さん!おまたせしました!我等が英雄、カークです!カーク=ウィリアムスです!かつての戦争のおり、敵国の機体を120機打ち落としたといわれる、ディーポの悪魔が今年もスカイランに現れました!!』


アナウンサーの声に更に合わせる様に更に場内の歓声は大きくなる。そんな歓声の中、カークはゆっくりと自身の機体に歩み寄る。場内の地響きにも似た歓声と自分の憧れている英雄が目の前を歩いているとあってエアは震えを止めることができなかった。

全身に鳥肌がたち、ぞわぞわと歓声にあわせるように背中に寒気が走る。やがて場内はカークコールに包まれ、カークが振り向き観客席に向かって手を振る。


「見ろよ!エア!カークだぜ!?」

「あ、ああ!」

「負けないでよ!?エア!」

「ま、負けるわけねぇだろ!俺は!1位になるんだ!カークなんかには負けないぜ!?」


そんなエア達3人のやりとりが聞こえたのか、カークはエア達3人をその目に捉えるとスタスタと歩み寄ってきた。


「坊主!俺を倒そうってのか!?いい心がけだ!名前は?」

「お、俺はエアだ!今日が初めてのスカイランなんだ!!」

「その年でスカイランに出場できるってのは腕のいい証拠だ!今日は楽しめそうだ!」

「必ずアンタを倒すんだ!見てろよ!」


ビシっとカークの指を刺す。それを見てカークはガハハハと中年らしい下品な笑い方をする。そして、笑顔を見せる。


「そうか!本当に楽しみだ!ショルドといい坊主といい……。見ててやるから自分の空を飛べよ!」


カークは自分の空を飛べと言った。その意味は他人に流されず、自分のペースで飛ぶということ。比喩表現でそう言いたかったのだ。そこにいる11人のランナーはカークの言葉で緊張が解れたのか、その場を覆っていたピリピリとしたムードは何処かへ行ってしまった。

そして、10分という時間はあっという間に過ぎ、アナウンスが再び会場に鳴り響く。


『それでは!ランナーの皆さん!乗り込んでください!フライングの場合は即刻失格となります!ご注意ください!また、スタートは右上部にございます、ランプが緑色になったら発進してください!』


アナウンサーの指示通り、各々の機体に乗り込むランナー達。


『スカイランのルールをもう一度、おさらいします!全長、1.2Kmのスカイロードを3周していだたきます!更に相手の機体を傷つけない妨害は認められています!無いとは思いますが!万が一、燃料が底をついてしまった場合は!失格となります!ランナーの皆さん!十分に注意してください!』


「燃料が切れたら失格だって!?聞いてねぇぞ!?」


突然聞かされたルールに戸惑うエアを余所にスカイラン開始の合図は刻々と迫る。赤いランプが縦に2つ、その下に青いランプが1つ。そして、最初の赤いランプが1つ点る。次に2つ目。

そして、最後に青いランプが点灯する。


それと同時にプァーンというラッパの様な音が場内に鳴り響いた。それはスカイランのスタートの合図音だった。その音と同時に11台は一斉に発進し、飛び立っていく。しかし、ヴェーアトロネ号は微動だにしなかった。


『スタートの合図と共に一斉に飛び立っていきましたが……!?おや!?あの機体は、11番、ヴェーアトロネ号というようですが、少しも動きません!』


アナウンスの声が再び場内に響く。


「あの馬鹿!緊張してんのか!?くそ!!エアァァァァァ!!」


緊張でボーっとしていたエアは本来飛行機の爆音で聞こえるはずの無いベアの一声で目覚める。ハッと我に返るエア。ふとベア達の方を向くと、ベアとエアは目が合った。ベアは静かに頷くと、エアは親指を立て、発進し始めた。


「遅れちまった!急がねぇと!!」


スピードを最大限まで上げ、先の11台に追いつこうとする。


『今日は、風がとても強いです!今日は風速18mだそうです!ランナーの皆さんは十分注意して飛行をしてください!』


アナウンサーの声が終始場内に鳴り響く。それをおかまいなしに飛び続ける12人のランナー達。曲がりくねった道をぬうように飛び続ける。そして、やがてエアは自分の前を飛ぶランナーを目で捉える。

それをめがけて、一直線に飛ぶ。あっという間に通り過ぎていく岩壁達、徐々に近づく前方のランナーとの距離。直線のコースに縦に並ぶ両者。直線の先にあるカーブでエアは勝負をすることに決めた。


「あのカーブであいつの下にもぐり、インから抜くしかない!」


風が見える目が何処を進むべきか教えてくれる。1ヶ月の間にエアは自らの目の有効な使い道を知った。この狭いスカイロードでは、強風の時、必ずといっていい程、風が両側の岩壁に跳ね返り、追い風になっている部分がある。


そして、目の前のカーブの風は上から吹きつける風が岩壁にぶつかり、下へ吹き抜けていくように流れていた。その流れに乗り、目の前のランナーを抜くという算段をエアはした。直線のうちに高度を下げ、カーブに備える。


カーブに差し掛かると同時に前方のランナーはスピードを緩める。その瞬間を逃さず、エアはワンテンポ遅らせてブレーキをかける。カーブを曲がる頃には両者は上下に並び、カーブを抜けると追い風を受けたエアが頭一つ飛びぬけ直線に入った。


『おーっと!11番のエア選手!ここで11位になりました!』

「うまくいったぜ!次は……」


スタートが遅れた分、11位と12位の間は随分と開いていたが、そこから先は数珠繋ぎのように間隔は開いておらず、すぐに目の前のランナーを捉えることができた。


「よっしゃ!ショルドとカークの元にさっさと急ぐぜ!」


一気にスロットルを上げ、スピードを上げる。例え、11位共言えど流石はクオリファイを潜り抜けた猛者たち。目に捉えることはできてもそれなりの飛行技術を持ち合わせていた。


「流石だな…。本線に出るほどの人間達だ!」


エアは11位のグロデルのすぐ後ろにつき、抜くタイミングを伺う。以外にそれはすぐにやってきた。グロデルは直線こそスピードを上げるものの、その分、カーブで必要以上にスピードを落とす。

エアはその一瞬のタイミングを見抜き、本来スピードを落とすべきところでないカーブの手前でスピードを落とし、カーブに備える。


そして、グロデルがカーブに差し掛かり、スピードを落としたと同時に、エアは逆にスピードを上げた。危うく岩壁にぶつかりそうになるが、グロデルを抜く。そこから先はデッドヒートが繰り広げられていた。


4人ほどのランナーたちは抜き、抜かれつの鬩ぎあいをしていた。エアもその一団に飛び込む。

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