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五周目:塩が無いなら敵に塩を送ればいいじゃない

次の日の朝、エア達は既にスカイロードへと赴いていた。クオリファイが近いとあって前日よりもたくさんのランナーが自分の飛行機を持ち寄っていた。その中にショルド達の姿を見つけ、走り寄るエア達。


「ショルド~!!」

「む?来たか」

「小僧共ようやく来たか!!待ちくたびれたぞ!」


スパナを持ちショルドの飛行機をメンテナンスする髭を生やした大男が下品な笑いをしながら言った。


「お前も早く、持って来いよ。飛行機。俺がみっちり乗り方を教えてやるよ」

「いいのか~?ライバルにそんな手回しまでしちまって?」

「一朝一夕で覚えたテクニックじゃ、カークはおろか俺にすら勝てない」

「んな!?」

「ま、今日はたくさんランナー達が来ている。昨日のように自由に空は飛べないだろう。本番のスカイランだと思って飛んでみるんだな」

「よっしゃ!早速飛ぶぞ!」


意気込むエアをビッドが制止する。


「坊主!そうあせんなって!ちゃんとメンテナンスしてやるから!しばらく待ってろ!」

「ほ、本当か!?」

「ああ!その代わりそこの小僧も手伝え」


ビッドはベアを指差し、指名した。


「お、俺か?」

「ああ!そうだ!お前はこの飛行機のメンテナンスだろ?」

「あ、ああ…」

「いろいろパーツもつけてやるから、その説明とメンテ方法を教えてやるよ」

「ほ、本当か!」

「本当だとも。そら!早く行くぞ!」


ビッドは一目散にエアの飛行機を目指しすたすたと早歩きで歩き始める。それを追う様に慌ててベアもついていく。そんな二人の後姿を見ながらショルドは言った。


「ふーん…。あれがお前のメンテナンスか。なかなかいい顔をしているな」

「ああ!あれでも小さい時から飛行機をいじってたからな。腕は結構たつぜ!」

「ああ。あの年であんなに汚れたツナギが似合う奴もそうそういないだろ」

「そうだな」


メンテナンスが終わる間、ショルドは一周飛んでくると言って自分の飛行機に乗り込み、飛び立ってしまった。エアとトロネはじーっとつまらなさそうにビッドとベアの作業する後姿を見ていた。そして、二人はおもむろに立ち上がり額の汗を右腕で拭う。しばらくその様子を見ていると、ベアとビッドが二人、肩を並べてエアとトロネの元へ向かっていく。


「メンテナンス、終わったぞ」


口を開いたのはビッドの方。ベアは情けなく、トロネの隣にドテッと座り込む。


「疲れた……。あんなにメンテナンスをじっくりやったのは初めてだ…」

「お疲れさま」


トロネがベアに声をかける。


「おっさん、いったいどんなメンテナンスやったんだ?ベアがこんなに疲れるなんて」


普段から整備を行っているベアが運動をした後のようにヘトヘトなのを見ると随分と内容の濃い調整をやったのは明白だった。


「ハハハハ!その程度でへばるなんざ、整備士失格だなぁ!」

「あ、あれはやりすぎだろ……。まさか、エンジンも交換してくれるとは……」

「エンジンを交換してくれたのか!?いいのか!?そんなにしてもらって」

「エンジンだけじゃねぇぞ?ウィングもプロペラも若干いいものに交換した。とはいえ、全部ショルドのお下がりだけどな!」


ガハハハと後ろにのけぞる様にビッドは笑う。元々寄せ集めのパーツで作ったエアたち三人の飛行機、ヴェーアトロネ号はウィングはトタン屋根のようにちぐはぐでプロペラも一部欠けていたりとボロ飛行機であった。見栄えのよくなる様にとビッドはショルドが昔使用していた翼とプロペラ、そして高出力ギャンバーエンジンをヴェーアトロネ号につけたのだった。


「ショルドの飛行機のエンジンはガロア方式だ。だから、ギャンバーはもう必要ねぇんだよ」


ガロア、ギャンバーという専門用語がビッドの口から飛び出し、エアの頭の上にはハテナマークがいくつかならんでいた。そんなエアの様子を見ながらトロネが口を挟む。


「エア、ガロア方式っていうのはガロアクリスタルを使用した高出力のエンジン出力方式の事なんだって。ギャンバーはそのガロア以前に使用されていた一般的なハイスピードエンジンなんだってさ」


エアはトロネの言葉に目をパチクリさせる。


「い、いつの間にそんな事を知ったんだ?トロネ」

「ハッハハ、ベアに教えてもらったんだよ。ギャンバーとガロアの違い。あの飛行機が完成した時にね」

「そうだ。お前が名前にこだわってた時だな。前のエンジンは何処ぞの誰かがぶっ壊したエンジンを俺がタダで引き取り、一応動くようにしたものだ。今回もらったエンジンはビッドのおっさんがショルドの為に更に高出力になるように改造したギャンバーエンジンなんだと」


汗をダラダラと流しながら、ベアはめんどくさそうに補足をする。それにビッドが付け加える。


「多分、ガロアクリスタルに引けをとらない程のスピードが出るはずだ。ただ、改造したせいで出力制御が難しくてな。同じ出力だったら、メンテナンスやコントロールがしやすい方をと思ってショルドの今の機体はガロアクリスタルに変えたんだよ」

「へぇ~。じゃあ、スピードだったら負けないな……」

「そうだな。後はお前のテクニック次第だ」


ガハハハとビッドは笑い飛ばす。それにつられ笑いが生まれる。その時、飛行機が一台そらから着陸をした。


「ショルドの機体だな」


機体から華麗に降り立つと、ショルドはエア達の下へと歩み寄る。


「今日はいい感じだ。風も天気も……何もかもがな」


一瞬、風がエア達の間を通り抜ける。ひやりと頬をなで髪を揺らした。


「よっしゃ!じゃあ、俺も行って来るぜ!」


意気揚々とさっき調整が終わったばかりのヴェーアトロネ号へと乗り込む。乗り込むとビッドが忠告をする声が聞こえてきた。


「小僧!ブレーキングに注意しろ!小僧の腕にあわせて、ブレーキが効きやすくしてある!あまり強くブレーキングすると、墜落する恐れもあるからな!」


エアはグッと親指を立てると、赤いスイッチを押しヴェーアトロネ号を離陸させた。飛び立ったエアの後姿を見てショルドはポツリと言った。


「そんなにブレーキ効きやすくしたのか?」

「ああ。あのテクニックであのスピードをコントロールしようとしたらこうするしかねぇ。今まで死んでいった奴達のようにはなってほしくないんだよ。だが、今度はあのブレーキをうまく使いこなせるかどうかだな…」


ビッドの言葉に合わせ、トロネは言う。


「大丈夫。エアならできるよ。使いこなせるようになる……」

「そうだな。あいつは今日が終わる頃にはきっと慣れてるよ。あの機体にね」


トロネに続き、ベアも確信を持って言う。それに続いてショルドが皮肉を言う。


「ま、あいつはそう簡単には死なないだろ?2回も死に掛けて生き残っているからな」


ショルドの長い金の髪を冷たい風がなでた。

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