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三周目:白波とさざ波と風

次の日、3人は作り上げた飛行機をテスト飛行させる為、実際にスカイランが行われるコースに来ていた。


「スカイロードって言うのか?」

「ああ。両側が岩壁でかこまれててな。その間を12台の飛行機が競争するんだ。だからスカイロード」


スカイロードの観客席は地上から50M地点程の高さにあり、建物自体も白地に綺麗に整備され、迷路の様に廊下が入り組んでいた。また、大会中は廊下などに出店などが多く賑わう。ランナー達は地上で自らが飛行機を引っ張りスタート地点まで向かい、そこから離陸しスタートをする、というスタンスをとっている。


エア達は実際にランナー達が飛び立つ、スタート地点付近に立っていた。


「後、岩壁の高さを越える高度を飛ぶと失格になるから注意しろ」

「そんなルールがあったのか……」

「今初めて知ったよ」

「ま、普通に見てるだけじゃあそんなルールがあるなんて知らないだろうけどな」

「他にはどんなルールがあるんだよ?全部知っておかなきゃ、大会には出られないだろ?」

「そうだな…。普通に考えてフライングは駄目なのは当然だな。後は…武器を使わない妨害はOKだ」

「妨害いいのかよ!?」

「道を塞ぐのはOKだぞ?上にも下にも左右にも行けるんだから、逃げ道はいくらでもあるからな。後、妨害されて両側の岩壁に当たって失格になっても妨害した側は何も問われない。ラン中の事故ということで処理されるから死んでも相手は、世間から何も言われないし、罪にも問われないぞ」


エアの喉からゴクリとつばを飲みことが聞こえる。


「悪いランナーはしつこく妨害してくるからな……。でも、不思議と今までの大会で死者は一人も出てないから心配すんな」

「お、おう!心配なんかしてないぜ!」


ぎこちない動きでエアはガッツポーズをとる。緊張しているは目に見えて明らかだった。そんなエアをベアはちゃかす。


「お?ガラにも無く緊張してんのか?珍しいな~」

「お前は飛ばないから余裕なんだろうが、結構怖いんだぜ!?」

「大丈夫だ。初めてのフライトであれだけ飛んでみせたんだ。お前のセンスはたいしたものだよ。今日はコースに慣れるだけだから、ゆっくり飛んでもいいし、自分の限界を試してもいいんだぜ?」


ベアはバンバンと背中をたたく。ベアなりの配慮だった。そんな和気藹々とする3人に対し、冷たい言葉を放つ男が一人。


「どけよ。道の真ん中に立つんじゃねぇよ」

「?」


後ろから声をかけられムッとするベアとエア。振り向いた先にいた男は金色の長髪で長身の男だった。


「こ、こいつは!」

「ベア、知ってるのか?」

「知ってるも何も、カークの次に早い男だぞ」

「お前らも今度の大会にでるのか?」


金髪の男は冷めた目でエア達を見下し、ただ口だけを動かした。


「おう!お前も出るのか!?ま、お前が出てもお前には負けないぜ!」


エアが強気に出るが、男はそれを虚勢だと、鼻で笑った。


「ふん。お前なんぞクオリファイの時に落ちる。どうせスカイランに出場できない」

「くおりふぁい?」

「クオリファイってのはこのスカイロードを規定内の時間にゴールし、ゴールした時のタイムの早かった上位12台が本番のスカイランに出られるってわけ」


そんな二人のやり取りを見て、金髪の男はあざけるがごとく、フッと鼻で笑い、その場から立ち去った。


「ルールさえ知らない奴は興味がない、って顔だったな。あんな奴に負けるなよ!エア!」

「おう!で?結局、あいつは誰なんだよ?」

「あいつはショルドっていってな。デビューしたときからずっと2位な奴でな、カークがいなければあいつが1位になれるんだが、カークがいるせいで……」

「へへ!ざまぁみろ!カークには誰も勝てないんだ!」

「今のお前じゃ、あのショルドにすら勝てないだろうがな」

「何だと~!」

「さっきの話に出たクオリファイは一週間後だ。コースはここだからしっかりコースを頭の中に入れろよ」

「楽勝だぜ!」

「じゃあ、エア!早速飛ぼうよ!」

「そうだな、エア、飛行機をスタートラインに運ぼう。店のトラックに積んであるから、行こうぜ!トロネも手伝ってくれ」

「うん、分かったよ」


スカイロードの前に止めておいたトラックから飛行機を下ろすとスタートラインへと3人で押し進む。


「ここで大丈夫だ」

「ここがスタートラインか……。じゃあ、早速!」

「エア。クオリファイの規定タイムは、1分30秒だ。それを目指して今日は飛べよ」

「おう!トロネもベアも見ててくれよ!」


ベアはエアにキーを渡す。エアは受け取るなり、飛行機に近づき後姿のまま軽く右手を上げる。左翼からコクピットに乗り込む。コクピットに乗り込むなり、キーを差込み、赤いボタンを押す。

次第にプロペラが回り始め、動き始める。そして、スピードを上げ、直進していく。やがて、メーターの数字が75をさすとき、エアはレバーを手前に引く。それにつられ飛行機も徐々に高度を上げていく。


「時間をはからないと……」

ベアはそう言うと、持っていたバックをあさり、ストップウオッチを取り出す。ストップウオッチのスイッチを押し、時間をじっと見つめる。


「ベアはどう思う?エアは規定タイム超えられるかな?」

「普通に考えれば、昨日初めて乗った奴が規定タイムを超えられるはずは無いが……。あいつはどうかな?何の説明もなしに、離陸と着陸をやってのけた男だからなぁ……」

「……そうだね。エアは奇跡を起こすかも……」


トロネの言葉にベアはにやりと笑った。




スカイロードは思いのほかうねりが多く。エアの未熟な操縦では何度も両側の岩壁にぶつかりそうになる。また、あせりから機体の高度が岩壁の高さを越えてしまうこともしばしばあった。

そうして、ベアやトロネがいるスタート地点へ着陸を果たすと、今度は右翼から地上へ降り立った。スカイランを楽観視していたエアにスカイロードは容赦なくその牙を向けた。

飛行機から降りたエアはしょぼくれ、頭を垂れベアやトロネの立つ場所へとぼとぼと歩く。そんなエアを見てベアは声をかける。


「どうだった?初めてのスカイランは?」

「……」


エアは頭を垂れたまま何も言わなかった。そんないつもの様子とは違うエアを見て、ベアとトロネは互いに目を見合わせた。やがて、エアの口から笑い声が漏れ始める。


「フフ……ファハハハハ!!おもしれぇよ!これがスカイランか!」


急に高笑いをするエアに驚くもいつものエアに戻ったと思うとベアとトロネは笑顔を隠せなかった。


「それでこそ、エアだぜ!まだ、乗るんだろ!?」

「ああ!まだ、太陽は高い位置にあるからな!太陽が沈むまで乗り続けるぜ!」

「ようし、ちょっと待ってろ。さっきのランでどっか壊れていないか確認するから」


そう言って、ベアは飛行機に近づき、慣れた手つきで機体のメンテナンスを始めた。


「トロネ!さっきのタイムは何分だった?手に持ってるって事は計っててくれたんだろ?」


エアが空を飛んでいる間、ベアはトロネにストップウオッチを渡していた。トロネの几帳面な性格によってより正確なタイムが計れるとベアは考えたからだった。


「う、うん。ちょっとストップウオッチを押すのが遅れちゃったから、4秒ぐらい追加して、2分16秒だね」


トロネの言葉を聴いたベアがぬっと顔を出す。


「2分16秒?初めて飛んだにしてはえらく早いタイムだな」

「そうなのか!?俺、スカイランに出られるんじゃないのか!?」

「可能性は否定できねぇな」


3人で談笑をしているとフッと地上を影が走る。飛行機の影だった。それにつられ頭上に目をやる3人。3人が飛行機を目で捉えた時、飛行機はすでに曲がり角を曲がっている最中で、次の瞬間には飛行機は曲がり角の奥へと消えていた。


「は、早いな……」

「一瞬しか見えなかった……」


あまりの速さにあっけに取られるエアとトロネ。ぼそりとベアはつぶやく。


「あの飛行機……。ショルドの飛行機だ……」


ベアのつぶやきにエアとトロネは同時にベアの顔を見る。


「ショルドってあいつか!?さっきの!?」

「あんなに早いんだ…。やっぱり2番目に早いって言うだけの事はあるね」

「カークはあれ以上のスピードで空を飛ぶんだ……」


それを聞いたエアはパァっと顔に笑みがこぼれ、はしゃぐ。


「カークはやっぱりすげぇな!あれ以上のスピードで飛ぶのか!?」

「エア!うかうかしてられないよ!」

「トロネの言うとおりだ!メンテは終わったから、さっさと飛行機に乗れ!」


2人の言葉にしっかり頷くと再び飛行機に乗り込み、レバーを握るエア。赤いスイッチを押すとプロペラが回り始め、次第に目で捉えられない程のスピードになる。そして、徐々に機体は直進し始め、レバーを引き、エアは再び空へと飛び立った。

しばらく飛ぶと、エアは不思議な感覚に襲われる。


「!まただ!?」


驚きのあまり、左右を見回す。左右には白い波のようなものが生まれている。ビョォォという風の音もさっきよりも強さを増し、エアの耳へと届いた。

初めて乗った時と同じように白い波が前からいくつも流れ、エアを通り越していく。前方を見ると、白い波はプロペラにより、上下左右へと押しやられているようだった。

また、他方を見ると波同士がぶつかり合い、また別のうねりを持った波がそこから生まれていた。


「やっぱりこいつが出てくると前が見づれぇ!退かせねぇかな?」


エアは白い波に手を伸ばそうとすると機体がぐらつき、突然目の前に岩壁が現れる。


「うわ!」


一瞬全ての流れがスローになる。これが死の直前なのかとエアは感じた。しかし、遅く流れる時の中で、エアは一心に自分を落ち着かせレバーを左に限界まできる。ゆっくりと機体は曲がり始め、曲がりくねったスカイロードのコースへと戻り始めている。


短い時間にエアは全身に汗をかいていた。額より流れる汗が目を刺激する。汗を拭いたかったがそれ以上に自らの置かれている状況から脱するほうが優先された。ゆっくり流れる時間が突如、通常の流れへと切り替わる。そのとき、エアは自分が助かったのだと確信をした。


「あ、危なかった……」


スカイロードを降り、二人のいる場所に降り立つとエアは空での出来事を話した。


「白い波……か。その時間がゆっくりになるっていうのは多分死の瀬戸際だったからとして…」


淡々とベアはエアが体験した状況を分析し始めた。


「危なかったね。エア」

「あ、ああ。危なかったってレベルじゃねぇけど……。でも、あの白い波は何だったんだろ?」


考え込んでいたベアは地面から視線をはずし、エアを真っ直ぐ見据える。


「白い波は空全体にあったのか?」

「そりゃ、もう!俺を取り巻く空間全体が白かったように感じたぜ!?渦巻いてる波や、穏やかに流れる波とか……そりゃ様々だったぜ!?」

「それは風かもしれないな…。昔、カークのインタビューを雑誌で見たことがあるんだ。その時、カークは自分は風が見える目を持っている、と言ってたみたいだけど…。その時はまさかなと思って軽視してたんだけど……」

「俺は風が見えるのか?今までそんな事無かったけどなぁ」

「今は?」


トロネは頭上に人差し指を向ける。その指をなぞるように視線を上げるエア。


「見えない。あおーい空があるだけだ」

「地上にいると見えないんだ。変な目だね!」


トロネは笑う。


「お前、他人事だと思って!!結構気持ち悪いんだぞ!白い波って!!」

「トロネ、さっきのタイム計ってたか?」

「あ!ごめん!計ってなかった!」


トロネは照れ隠しのように頭をぼりぼりとかきながら誤った。


「次はちゃんと計ってくれよ!エア!さっさと乗れ!」

「命令すんな!ちゃんと乗るわ!」


エアはひとしきりベアを罵倒した後、飛行機に乗り込む。が、エアは飛行機を動かそうとはしなかった。


「あれ?エア、スタートしないよ?」

「あいつ、まさか……」


その時、エアの後方より1台の飛行機が姿を現した。


「あれは!」

「ショルドの飛行機!あいつ、勝負するつもりか!?」


エアはにやりと笑うと、赤いスイッチを押す。ショルドもそれに気付く。


「あの小僧……!俺と勝負しようってのか?見せてやるよ!プロの力をな!」


ショルドは徐々にスタートラインに近づくにつれスピードを落とす。エアとのスピード差をなくすためだった。ショルドがスタートラインを越える頃には両者ほぼ同じスピードであった。ショルドはエアが同じ高度まで飛んだのを確認するとスピードを上げ始める。それにつられエアもスピードを上げる。


「馬鹿!あいつ、ショルドのスピードについていけるわけないだろ!?」


ベアが叫ぶ。何度もスカイロードを飛んでいるショルドとは違い、今日初めてスカイロードを飛んだエアは圧倒的不利な状況であった。それは誰の目から見ても明らかだった。


「あんなスピードで飛んだら、壁にぶつかっちゃうよ!」


トロネの心配をよそにショルドとエアはカーブを曲がり、ベアとトロネからは2人の姿が見えなくなった。

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