表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

第九話 胸がざわざわする……?

いよいよ海洋訓練の前日。

猿海の家に泊まる事になった詩衣ですが、若い男女が一つ屋根の下、色々不安もあるようで……。


どうぞお楽しみください。

猿海さるみ先生、ですな。お世話になっています。忍庵おしあん詩衣しいの父です」

「ご足労いただいてありがとうございます。スキューバ部顧問の、猿海浪太(なみた)と申します。この度は娘さんをお預かりいたしますが、安全には配慮いたしますので、ご安心ください」


 いよいよ明日は海洋訓練。

 学校終わりにそのまま先生のアパートに行く予定だったけど、お父さんがどうしても挨拶をしたいというので、学校の前で合流した。

 泊まりの道具を車で運んでくれるって言うから思わずオッケーしちゃったけど、何を話すつもりなんだろう……。


「あの、安全に配慮していただけるということで、一つお願いがあるのですが……」

「伺います」


 やっぱり年頃の娘を持つ父親って神経質になるもんなのかな。


「娘の風呂をのぞいてやってもらえませんか?」

「は?」

「お父さん! 何言ってるの!」


 ふざけてるのかと思ったけど、お父さんの顔は真剣だ。


「この子は隙さえあれば、水に潜ろうとして、いつ溺れるか気が気でなくて……。家では五分ごとに沈んでいないか、確認しているのです……」

「忍庵……、お前……」

「く、訓練ですから!」

「何なら一緒に入ってもらっても構いません! その上で何か間違いがあっても、命には代えられませんから……」

「……わかりました」


 お父さん、何を言ってるの!

 先生も納得しないで!

 さすがにこの年で男の人と一緒のお風呂って恥ずかしいよ!


「忍庵、お前今日はシャワーだけな。二十分して出てこなかったら、明日の訓練は参加不可。いいな」

「ひどい!」

「ひどくない。親御さんの心痛を考えろ。それとも俺と風呂に入りたいのか? 嫌だろ?」


 うー……、仕方ない……。


「……わかりました」

「他に注意することはありますか?」

「そうですね……。朝顔を洗う時に、洗面器に顔をつけて動かない時があるので、その時は叱ってやってください……」


 あぁ! 私の朝のルーティンまで!


「……これまでのご苦労、お察しいたします……」


 かわいそうな人を見る顔で見られる! 心外!




「……お前、よくスキューバやるの許されたな……」


 お父さんが何度もお辞儀をして帰った後、アパートに向かう途中、先生は呆れたようにそう言った。


「海に潜りたい私と、危ないの一点張りの家族との唯一の妥協点がそこだったんです」

「なるほどな……。まったく、海に魅入られたやつはどいつもこいつも……」


 どいつもこいつも……?

 他にも会ったことあるのかな?


「先生、私みたいに海に魅入られた人って他にもいるんですか?」

「ん? あぁ、まぁ、いた、な……」


 ……? 何だか歯切れが悪い。

 それに『いた』って……。

 ……あ、蒲田かまださんが言ってたリンって人かな?

 『吹っ切れた?』とか聞いてたから、もしかして……。


「あの、その人のこと、聞いてもいいですか?」

「……あんまり話したくねぇな……」

「お願いします! もしかしたら気をつけなきゃいけないこととかわかるかもしれないし!」

「……わかった」


 先生は息を吐くと淡々と話し出した。


瀬隈せすみりん。大学時代のスキューバ仲間だ。こいつが機材不良で溺れかけた。まぁ命に別状はなかったんだが、その後病的に海に入りたがってな……」

「その人、女の人、ですか?」

「ん? あぁ、まぁな」

「先生、その人のこと、好き、だったんですか……?」

「……」


 ……黙ったってことは、そうなんだ。

 じゃあ今もずっとその人を……?

 聞かなきゃよかったかな……。


「まぁもう人妻だし、そんなの引きずってでも仕方ないけどな」

「は!? 人妻!?」


 海で死んじゃったんじゃないの!?


「おう。あんまり海に行きたがるもんだから、部員全員でフォローするってことで何回か海に行ってたんだけどよ、そこで出会った医大生のサーファーに一目惚れ」

「えぇ……」

「ははっ、俺らもそんな顔になったわ。そうしたら憑き物が落ちたみたいに普通に戻った。潜ってもきっちり時間で上がれるようになったしな」


 そんな簡単に治るんだ……。

 今胸にある海への思いがそんなに簡単に消えるのかと思うと、何だか怖い気も……。


「何だ、安心したか? まぁ恋人じゃなくても仲間がしっかりいれば大丈夫だと思うぞ」


 安心? 私そんなこと……。

 ん? でも何だかざわざわしてた気持ちはなくなってる。

 何でだろう?

 海に魅入られても死ぬわけじゃないって知れたからかな?

 ……うーん、何かしっくりこない……。


「さて、晩飯はどうする? 親父さんから金は預かってるから、好きなもの言えよ」

「ラーメンで!」

「お、いいな。よし、荷物を置いたらイチオシに連れて行ってやろう」


 ま、いいや。

 今大事なのは明日の海洋訓練だ。

 あぁ、早く海に入りたいなぁ……。

読了ありがとうございます。


詩衣はただ海で見た景色を再現できないか、浴槽に仰向けに沈んでみているだけなのですが、家族からしたら手の込んでない自殺に見えてしまうという……。

アホの子ではないんです。

ただ水に入る事が大好きすぎるだけの残念な子なんです。


しかしそんな詩衣にも、海以外に興味が向いたような……?

次話もどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アホな子も残念な子も神一重(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ