第五話 勉強、頑張ろう!
部員のみんなの優しさに救われた詩衣。
Cカード取得に向けて、まずは学科講習に挑みます。
どうぞお楽しみください。
「次はハンド・シグナルについてだが……」
「はいはーい! 知ってます! これが『OK』で、これが『上に行きましょう』ですっ!」
「……忍庵。正解だし、積極的なのは評価する。寝ちゃってる友達をかばおうとする友情も嫌いじゃない」
ば、バレてる……。
起きてー! 満鈴ちゃーん!
「ただこれは、水の中で命を守るために必要な事だ。ごまかしは命に関わる。わかるな?」
「……はい……」
「むにゃ……」
私と満鈴ちゃんの寝ながらの返事に、猿海先生がため息をついた。
「とりあえず今日はここまでな。明日はハンド・シグナルからやるから、予習しとけよ」
そう言うと、猿海先生は部室を出て行った。
……良かったぁ……。
これで怒って「もう教えない!」って言われたら、お金払ってスクールに行かないといけないもんね……。
インストラクターの資格を持ってる猿海先生は、絶対に手放せない!
そのためにも……。
「あの、起きて、東海林さん……」
「すっげぇなぁ……。机でここまで熟睡できるもんかぁ……?」
「とにかく東海林さんを起こして帰りましょう。東海林さん、終わったわよ。東海林さん?」
「ごはん!?」
「ごはんじゃないよ満鈴ちゃん……」
支度をして部室を出ると、もう日が沈みかけていた。
家に帰ったら即晩ごはんだな……。お腹すいた……。
「いやー、ごめんちー。勉強ってなるとつい眠くなっちゃってさー」
「お前授業どうしてるんだよ……」
「好きな授業はへいきー。数学は寝てるー」
「もうすぐ中間試験だし、Cカードの勉強より試験勉強した方がいいんじゃないかしら?」
「大丈夫ー。どっちも眠くなるだけだからー」
「えっと、全然大丈夫じゃない気が……」
……何とかしなきゃ……。
私の夢を信じて、一緒に海に行こうって言ってくれる仲間だもん。
! そうだ! 私がスキューバのこと、ノートにまとめて渡したらどうかな?
絵とか、動物のキャラクターとかで読みやすくして!
よーし! 頑張ろう!
「……おはよ……」
「あっれー? しーちゃん? どしたのー? 顔パンダみたーい」
「……これ、読んで……」
……徹夜明けの眠気で頭ぐわんぐわんになりながら、ノートを満鈴ちゃんに手渡す。
「え、これ作ってくれたのー? 一日でー?」
「……うん、頑張ろう、ね……」
「……うん!」
……後は、放課後まで、頑張ろう……。
あ、いつもの海の夢だ……。
徹夜で頑張ったご褒美かな……。
ふわふわして、きれいで、気持ちいい……。
これで猿海先生が起こしに来なければ最高なんだけど……。
「……ぃちゃん」
ん? 猿海先生じゃない?
声のする方を見ると、手のひらくらいの大きさの泡の中にちっちゃな人魚。
満鈴ちゃんそっくり。
「……きて、おきてー、しーちゃん」
ちっちゃい身体で私の身体を押してる。
可愛い……。
「!?」
って思ったら力強っ!
地震みたいに揺れて揺れて
「はっ!?」
「おう、いい度胸だなぁ忍庵……」
顔を上げると猿海先生の顔!
口は笑ってるけど目が笑ってない!
「昨日は東海林、今日は忍庵……。俺の教師としてのプライド折りにきてるのかお前ら……」
「あ、あの、いえ、その……」
やばいやばいやばい!
言い出しっぺの私が寝るなんて!
授業は何とか頑張ったのに……!
「だが、まぁ」
ぽすっと目の前にノートが置かれる。
あ、満鈴ちゃんに渡したノート……?
「友達のために頑張った結果ってのと、まとめられてる内容から理解は十分と判断した。だから今日だけは見逃してやる」
「あ、ありがとうございます!」
良かった……。
猿海先生にもいいところあるなぁ。
「みんなもごめんね、私が言い出したことなのに……」
「あたしのためにガンバってくれたんだもん! ありがとうだよー」
「東海林さん、あなたの頑張りを猿海先生に熱く語ってたわよ」
「熱血だったな! 感動したよ!」
「あの、私もそのノート、借りたいな……」
「もちろん! コピーしてみんなにも渡すね!」
数日後、無事に学科試験は全員合格!
次は潜水訓練だ!
読了ありがとうございます。
満鈴は興味やモチベーションが上がると頑張れますが、そうでないと遊んだり寝たりします。
入試の時はご家族がブランドバッグを報酬に頑張らせました。
……お疲れ様です!
次話もよろしくお願いいたします。