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第二話 『海に魅入られた者』なんて知らない!

スキューバに導かれ、再会した詩衣と猿海。

猿海の動揺の理由は……。


どうぞお楽しみください。

「こんなこと、あるものなんですね。忍庵おしあんさんが昔、この近くの海で溺れた時に助けたのが猿海さるみ先生で」

「はい」

「十年後こうしてスキューバを通じて、また出会うなんて」

「びっくりしました……」

「いやびっくりじゃねぇよ! 何で海で溺れかけたのに、また海に入ろうとするんだお前は!」

「えぇ……。いいじゃないですか別に……。あの時海の中で見た景色がすっごいきれいで、もう一回見たいんですよ」

「動画とかで我慢しろ! 今、ほらVRとかいいのあるから!」


 ……何でこんなにジャマしてくるんだろう。

 夢の中でも毎回良いところでジャマするし、何か段々腹が立ってきた……。


「何でそんなにやめさせようとするんですか!」

「……それは、その……、あ、危ないからだ……」

「納得できません! ちゃんと説明してください!」

「んー、って言ってもなぁ……」

「猿海先生。忍庵君もちゃんと説明されないと納得できないでしょう。何か問題があるなら、話してください」

瓶子へいし先生……」


 担任の瓶子先生の言葉に、猿海先生が言葉に詰まる。

 そうだそうだ! ちゃんと説明しろー!


「……俺はこの町で生まれ育ってきた。だから海にまつわる色々な話を子どもの頃から聞いてる……。その中の一つが『海に魅入られた者』の話だ」

「海に……?」

「海で溺れたり怪我をしたりしても、また海に行こうとする奴のことで、大半は次に海に入った時に死ぬ」

「……そ、そんな怪談みたいな話……」

「いや、それがそうとも言えない。考えてもみろ。車に轢かれて大怪我したのに、また道路に飛び出す奴がいたらどう思う?」

「そりゃ、学習しないなーって……、え、私それと同じ扱いですか!?」

「痛い目を見ても危機感を覚えない奴は、海のきれいさだけに気を取られて、危険なところで引き返せない。お前ずっと海の中にいたいとか思ってないか?」


 う。


「……図星かよ……。ボンベの酸素は有限だぞ? 警告はあるけど、夢中になってて気が付かなかったら、そのまま海の底だ。……それでも良いとか思ってないよな?」

「べ、別に死にたいわけじゃないですから!」


 でもあの光と青に満たされた空間に行けたら、死んでもいいかも……。

 あ、危ない危ない!

 こんなこと考えてるって知られたら、絶対協力してくれない!


「そ、それならここで部活した方が安心じゃないですか!?」

「は!?」

「だって、その、海に見られた者ってのを」

「『海に魅入られた者』だ」

「そ、それを知ってる先生がいるところで潜れば、助けてもらえますよね!? でも私が普通のダイビングスクールでライセンス取って一人で行ったら」

「ライセンスじゃない。Cカードな」


 いちいち細かい! 身体は大きいくせに!


「そうしたら、それこそ危ないですよ! そうならないように、猿海先生に面倒見てもらいたいなー!」

「……脅迫かお前……!」

「違いますよ!」

「まぁまぁ猿海先生。彼女の情熱は本物のようですし、その言い伝えが心配なら側で見守るのも教師の役目では?」

「……瓶子先生……」


 いいぞ瓶子先生! メガネがクール!

 ここでダメ押し! 上目遣いで可愛くおねだり!


「せんせぇ……。お願いしますぅ……」

「気持ち悪っ」


 ひどい! 花の女子高生のおねだりを!


「……あー、もうわかった! せっかく助けた命をまた海に持ってかれちゃたまんねぇや!」

「わぁ! ありがとうございます先生!」


 やったぁ! 一時はどうなるかと思ったけど、とにかく海に潜れるんだ!


「ただし!」


 ぴょんぴょんしながら喜ぶ私に、猿海先生はびしっと指を突きつける。

 もう、つくづく私のジャマをするのが好きだなぁもう。


「部員をきっちり五人集めろ! 部活としてもそうだが、魅入られた者が生きて帰る条件は、何が何でも戻りたくなる人がおかにいることだそうだ!」


 成程、それは大事だ。


「海からちゃんと帰りたくなるようにしないといけないってことですね。それって家族じゃダメなんですか?」

「……別に家族でもいいが、お前家族がいても、海の中にずっといたいって思ってたよな? 今」

「う」

「海の魅力ってのは半端じゃねぇんだ。そうじゃなかったら、これまでの犠牲者は天涯孤独の奴だけのはずだろ」


 それもそうか……。


「言い伝えでは、生き残った例として、魅入られた後、嫁さんもらって助かった漁師の男の話があったな」

「……先生、彼氏作れはセクハラですよ」

「そこまで言ってねぇ! 仲の良い友達作れって言ってんだよ!」


 成程。仲間を作れば海に潜れる、と。

 大丈夫。夢のためにこれまでずっと頑張ってきた。

 部員を集めるくらい、何てことない!


「任せてください! 私がこの部を立て直してみせますよ!」

「できなかったら諦めろよ! いいな!」


 諦めるなんてありえない!

 入学式の日。

 私は夢への一歩を踏み出した!

読了ありがとうございます。


『海に魅入られた者』は、「海って綺麗で、ずっと見てると引き込まれそうだよね〜」の上位互換。

ホラーではないのでご安心を。


次話もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「海に魅入られた者」というフレーズ、良いですね。 海の中から海面を見上げればきらきらと輝いていて、どこまでも青くて透明で、ふわふわ浮いてるみたいで……ずーっと海の中に居たいと思ってしまうの…
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