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第十二話 私は海が好きだから。

『すきゅーば!』最終話です。


海に沈んだ詩衣の運命は……?


どうぞお楽しみください。

 金色の水面。

 明るい青色に染まる周りの岩。

 飛ぶように泳ぐ魚の群れ。

 無重力のようにふわりと浮かんでいる身体。

 きれいで、心地良くて、ずっとこのままでいたい。

 もう誰にジャマされることもない。

 だって私は……。




「……んぅ……」


 見慣れない天井。

 隣から聞こえるいびき。

 あぁ、そうだ。

 私は先生の部屋に泊めてもらったんだ。

 ……今更ながら昨日の夜のことを思い出すと、恥ずかしい〜!

 我ながらホントにバカなことしたよなぁ……。




「せんせ……」

「どうした忍庵おしあん、……ってお前ずぶぬれじゃないか! どうし……、お前! 海に行ったのか!」

「……はい……」

「バカ野郎!」

「……ごめんなさい……」

「……いや、よく帰ってきた……!」


 ずぶぬれの私を、猿海さるみ先生は抱きしめてくれた。

 服がぬれるのもかまわずに、力強く抱きしめられて、その温かさに私は泣いた。

 この温かさを捨てようとした恐怖に。

 つなぎとめてくれた嬉しさに。

 そして、私が陸にいることを心から喜んでくれる人がいるありがたさに。




 その後、私はそのままシャワーを借りて。

 服は予備がなかったから、先生のシャツを借りて。

 先生と一緒に寝たいと子どもみたいなお願いをして……。

 カッコ悪くて情けないけど、でも嬉しかった。

 ……私が海から戻れたのはもしかして……。


詩衣しいちゃん! そこにいるの!? いたら返事して!」


 陽子ようこちゃん!?

 どうしたんだろ、こんな朝から……。


「どうしたの陽子ちゃん!」

「……! 詩衣ちゃん、何で先生の部屋にいるの……? 上の部屋にいなかったから、もしかしてって思ったけど……」


 あー、海に行ったと思ったのかな。

 心配かけちゃったな。ごめん。

 扉を開けて元気な顔を見せよう。


「心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」

「……!! その、格好……!」

「あ、これ? 服がびしょびしょになっちゃったから借りたんだ」

「……! 先生コラァ! 詩衣ちゃんがびしょびしょになるまで何したコラァ!」

「え、ちょ、どうしたの陽子ちゃん! 先生まだ寝てるから!」

「そんなにハッスルを……!? もう許さない……。詩衣ちゃんそこどいて。先生殴れない」

「殴っちゃダメだって! 落ち着いて陽子ちゃん!」


 私が海に行ったことを何とか説明して、陽子ちゃんはようやく落ち着いてくれた。


「そんな……! 大丈夫だったの? 海に入って……」

「……実は結構ヤバかったんだよね。身体の力が抜けて、海の中に沈んでいって……」

「!」

「でも、みんなの顔を思い浮かべたら、海のことは大好きだけど、私の全部はあげられないなって……」

「詩衣ちゃん……!」

「それに、何か猿海先生の顔が浮かんだら、何が何でも帰んなきゃって思って……」

「! ……そう、なんだ……」

「だから『ごめんね』って言って帰ってきた」


 私は海が好き。

 でもだからこそ海に沈むわけにはいかない。

 大好きな人達が悲しむのは見たくないし、海を悪者にするわけにもいかないから。


「これからはもうこんなことしない。みんなと一緒にスキューバで海を楽しむから、よろしくね」

「うん! 詩衣ちゃん、ありがとう!」


 陽子ちゃんに抱きしめられて、私は改めて仲間の温かさを感じたのだった……。




「Cカードゲット! これで潜り放題だー!」

「あの、放題じゃないよ、詩衣ちゃん。ボンベのレンタル料とかもあるし……」

「あたしバイトしてるからばっちしー」

「私もバイト始めようかしら」

「あたしもやりたいけど弟たちがなー。家でできるバイトとかないかなー」


 そっか、バイトか。

 私の通学時間だと難しいよね……。

 あ! そうだ!


「Cカード持ったからって無断で潜りにいくなよー。特に忍庵! お前は前科があるからな」

「大丈夫ですよー。……あの、それで一つ先生にお願いが……」

「何だ?」

「先生のアパートに住ませてください!」


 これは名案!

 通学の時間が短くなればバイトもできる!

 先生のところなら両親も安心!

 部屋代も安くしてもらえないかな……。


「ひゅー。しーっちだいたーん」

「し、詩衣ちゃん……! 先生! 責任は取ってくださいよ!」

「断ったら、わかってるよな? 先生……!」

「先生? 忍庵さんは多少あれですから、卒業……、いえ、成人するまでは節度ある関係をお願いしますよ?」

「ちょ、お前達何なんだ! 怖いぞ!」

「詩衣ちゃんを守るためです!」

「はいかイエスで答えろー」

「先生がそばにいれば大丈夫っぽいからさ」

「さもなくば賀井かいさんから聞いた、部屋に泊めた件、どなたかに相談させていただかないと……」

「わ、わかった! 空いてる部屋を使っていいから!」


 やったぁ! みんなありがとう!


「そうと決まれば先生! お祝いを兼ねて海に行きましょう!」

「忍庵、お前はお前で変わらないな……。本当に治ったんだろな……」


 何だかわからないけど、先生のそばにいれば海がまた呼んでも大丈夫な気がするし。

 ……何でだろ?

 まぁいいや!

 これからも部活を! 海を! 楽しもう!

読了ありがとうございます。


仙道アリマサ様、この度も素晴らしい曲の提供、ありがとうございます!

曲を聴いて浮かんだのは、一話と最終話の冒頭の、海の中から水面を見上げる光景でした。

美しく、荘厳で、底知れない深さを感じました。

最初は手を繋ぐだけで水中呼吸ができる不思議な少女と、海に落ちた人間の少年を助けつつ水の中を泳ぎ回るファンタジーを考えていました。

猿海先生が浦島太郎由来なのはその名残です。

しかしどうにもまとまらなかった時に見てしまった『ゆ◯キャン△』のセカンドシーズンの録画……。

「女子高生の友情物語キャッキャウフフえぇやん!」

その結果がこれです……。

片っ端からごめんなさい。


それでも何とか最終日に間に合いました……!

ネットでスキューバダイビングの事をちょこちょこ調べただけの勢い小説でしたが、お楽しみいただけましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)はい、かなりコレは僕の好きなヤツですね。主人公の忍庵詩衣ちゃんのポップがゆき過ぎた主人公感がすごくツボでした。アニメにして観たいなって思わせられる雰囲気が最初から最後まであったという…
[良い点] さわやか青春&先生と生徒の年の差ラブで、おいしいところてんこ盛りでしたね。 自分の居場所にちゃんと仲間がいることで戻ってこれる。 このテーマがとても響きました。 読ませていただきありが…
[良い点] 凄く面白かったです!! 海に沈みゆく詩衣ちゃん、泡の中に走馬灯を見ているようだったのが、最後に見えた先生に戻ることを決意。 きちんと陸に戻りたい、そう思える友人と想い人が出来て良かったで…
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