第48話:存在証明
「結構派手に暴れてるそうだね。ノエルさん」
商品を並べながらグリスはノエルにそう言った。
ノエルは補給品をフラッグシップに買いに来ていた。最近は初心者向け製品しか置いていないフラッグシップに来ることは無かったのだが、あれからノエルはエイリス達と会って居なかった。
心配して止めてくれた2人にどんな顔して会いに行けば良いのか分からず、エイリスの家で補給することも出来なかった。幸い大した消耗もしておらず汎用エネルギーパックや資材カートリッジ等でどうにかなる範囲だった。
今日ノエルがフラッグシップに来たのはその補給用品や消費したグレネード等の爆発物を買う為だ。更にノエルは少々無理を言ってグリスにレイディアント等の店の商品とは違う商品を少々取り寄せで値上がりするのを覚悟で取り寄せていた。
「精々グレネードで怪しい建物を片端から倒壊してるだけよ。それに私は殺人に抵抗は無いのよ。スラム街の本当に関係のない人間には申し訳ないけれど八つ当たりと言うのも含めてこんなことをしているの。
恨みとか怒りの様な感情は長続きしないし精神衛生上ある程度発散すればいいと思っているの。だからスラム街が瓦礫の山になりつつあるのは私の憂さ晴らしのせいね」
「…君はもう少し理性的でそう言う事はしないと思っていたよ」
「そうね、私は生きていて楽しいから生きているわけではないの。私には漠然的に生命活動を行って生活水準を向上させる程度に金銭を得て。それを妨害されたから機械的に報復しようと思ったの。ちょっと大規模なスラムの抗争と思っていて構わないわ」
ノエルはフェンリルとの契約もあって戦闘能力の向上やその副産物として生活水準が向上している。だがノエルはそれが嬉しいと思ったことは無かった。ノエルにとって鬱陶しい、面倒臭い、快適、美しいと言った感情はあったが喜怒哀と言った感情はかなり薄かった。
ノエルがスラム街の怪しそうな建造物を瓦礫のオブジェに変える事を憂さ晴らしと言うが本人は実際にはどうとも思っていなかった。確かに所有物を破壊され言い知れない感情を抱いたのは確かだ。だがノエルが敵対者を殺すのは怒りでは無かった。強いて形容すれば敵対者への報復と言った方が正しいだろう。スラム街が瓦礫の山になるのも今後攻撃を受け無いようにする為の牽制と思えばノエルが未来の危険因子を撲滅しているのは。無性に沸く報復しろと言う謎の義務感を逆恨みによるものと誤魔化して丁度いい対象にぶつけているだけだ。
「そうは言っても心配にはなるよ。暴走してるわけではないんだよね?」
「そうね、別に興奮しているわけではないし理性的よ」
「次からはエイリスさんの所に行くことをおすすめするよ?うちの価格帯は精々シーカーランクで言うところの30までのものしか取り扱ってないからさ」
「分かってるわ。無理言ってごめんなさいね」
そう言ってノエルは購入した商品をリュックにしまい込むとそそくさとフラッグシップを出た。
ノエルが購入した予備弾薬や補給用品をテーブルに置き、椅子に座ると一息つく。
この部屋はバスルームとベッドがある程度の宿で、安宿と言うほどではないがそれなりにお手ごろな値段だ。
部屋に併設されているテレビをノエルが付けると強力なモンスターが都市や異跡のルートを塞ぎ多額の賞金が掛けられているという番組が流れる。
この番組は都市に住まう住人がシーカーでは無くてもある程度の情報を得るため一部の有志が行っている。情報の信ぴょう性が低く、見る者は殆ど居ないが大雑把に都市で起きている出来事を知ることが出来る。
ノエルがそんな番組をぼーっと眺めながら買って来た昼食を済ませて居ると玄関のチャイムが鳴る。
この時間帯に来るような知り合いに心当たりはなかったノエルはテーブルの上に置いてあった装備を直ぐに装備し直し玄関に出る。
『一応聞くけど。リーナやエイリスじゃないわよね?』
『違います。数は3人全員男で、武装してはいますが戦闘の意思は無さそうです』
玄関の扉を開けるとフェンリルと情報収集端末の情報通り三人の武装した男が居た。
「お前がノエルであっているか?俺はシルドファミリーとグルドファミリーの使いの者だ。お前が更地にしたスラムを収めているボスの代理と思えばいい」
「大体察してはいるけど一応聞くわ。要件は?」
「今日都市規定時刻18:00にエルフィスタワー2階の食堂にて話し合いの場を設けたい。お互いに武装の類の持ち込みは禁止とする。ちゃんと受付で武装は預けられるので預けるように。その他質問はあるか?ある程度は返答できる」
「…無いわ。話し合いに参加すると伝えなさい」
ノエル自身も装備や消耗品で金が減り財布事情から見てもこれ以上の戦闘は避けたいところだった。
現在は依頼も一時的に停止しており収入も無い状態だ。
「自分から始めたものの。非生産的な事をしたものですね」
服を着替え終わって一息ついたノエルが呟く。この一言は自分が消費した総額を改めて計算した結果の一言だった。
ノエルは結局の所周りの人間から見ればたかが家を破壊された報復にしてはやりすぎな内容だった。本人からしてみれば自分の存在証明を破壊されたため殴られたから殴り返したくらいの気持ちだった。
約束の時間、ノエルはエルフィスタワーの玄関ホールに居た。服は以前買ったワンピースドレスを着用している。相手がどんな人物か分からない為VSRV特殊強化服/アンダーテイカーを含む装備一式を着用こそはしていないが持って来ている。
家には服もあったが殆ど|灰燼≪かいじん≫に帰した。その中でもこのワンピースドレスは殆ど損傷も無く、自動修復機能により買った時と同じ品質を維持していた。
二階の食堂に着いたノエルは装備を受付に預けると店員が出てきて個室に案内された。
指定の個室に案内されたノエルはその個室に入る前に店員に忠告を受けた。
「くれぐれも戦闘などは起こさないようにお願いします。こちらとしてもしかるべき対応をさせていただきますので」
要約すれば「面倒ごとは起こすなよ?分かっているよな?」という事だ。
ノエルは首を縦に振る事で肯定を示すと店員は「ごゆっくりどうぞ」と定型文を残して去っていった。




