第46話:急変
移動都市で過ごす事三日目
ノエルは日課となっているフェンリルとの訓練に勤しんでいた。ノエルが相手にする相手は見た目こそフェンリルだがその動きは今までに相手にしてきた敵の動きを統合しそこから更に極められたものだ。
一撃必殺の粒子剣の刃、超大口径の銃弾、高性能多脚戦車、果ては人間が強化服を機か程度では勝てないとされるASまで。
普段ノエルが家で行っているものと同じ事を行っていた。普通の宿なら戦闘の音で追い出されても不思議ではないがこの宿はある程度の防音設備が整っており飛んだり跳ねた程度ではどうという事は無い。
ノエルに対モンスター用の弾丸が集中放火され、それを強化服と瞬間出力特化のナノマシーン投与されたナノマシーンから生み出された瞬発力が易々とその弾丸群を回避しフェンリルの元へとその身体能力を活かしてその懐へ潜り込んだところでノエルはその手の二刀を振るう。
だがノエルは上手く行き過ぎている事に違和感を覚えた。
『フェンリル?』
『…失礼しました。自宅の機器との同期が解けたので少々確認しておりました』
フェンリルのメインデータは最初こそノエルの所有する仮面であったが現在は根幹システムをノエルの思考領域を浸食し占有している。よってノエルが死ぬ事が無い限りフェンリルも死ぬことは無いが、その他のデータ同期などは家の家電などにも含まれるほぼ全てがフェンリルの影響下にある。
『詳しい事は実際に見て見ないと分かりませんが自宅で何かあったことは覚悟しておいて下さい』
『やれやれ…強盗かしら?あの義体を警備上不安な家に保管して無くて良かったわ』
『家電が盗まれた程度で此処までの被害にはならないと思われます』
ノエルの自宅は目が覚めたからずっと過ごしてきた家だ。過ごしてきた期間は短いがそれなりに思い入れがあり。整備装置等の高額な機器も幾つか設置しているためもしそれが無くなっていた場合はかなりの損失となる。
『現状じゃ何とも言えないけど一先ずは調べなければいけないわね』
『同意します』
早速行動に移すためノエルは携帯端末を操作しエイリスやリーナへと状況を確認してもらうようにメッセージを送った。
幸いノエルの依頼は明日終わり、移動都市が第三都市に近づいてる関係で午後には第三都市に帰れる予定だ。それを踏まえて明日に会う約束を付ければ直接状況説明も聞けるだろう。
『ノエル、一応武装や弾薬を出来る限り補給しておいてください。自宅で保存していた分がすべて消えた可能性を考えれば余分に買う事を推奨します』
『何処の誰か知らないけどやられたからにはやり返すわ』
ノエルの弾薬は今回持って来た分は殆どが元々自分で購入したもので使用した分だけが経費として落ちる形式だ。幸いノエルはCVE汎用機関銃と改造パーツによる度重なる改造を施したハイベクターそしてエルファで使用する弾丸を今回の依頼の為大量に持って来ていた。
自宅のある場所はスラム街の近くであり治安は良いとは言えずノエルも以前襲われそうになった事もある様な場所だ。 家が吹き飛んでいました 等と言う笑えない事態に至った場合予備弾薬及び武装に引火し周囲一帯を巻き込む事になりかねない。そうなれば弾薬が残っているとは思えず周囲が焼野原でも不思議ではないのだ。
既にノエルは明確に命を狙われたことが一度や二度ではない。ノエルにとって敵対者という物は最早人間では無くモンスターと同列と考えている。
人間は狡猾で嘘をつき、本人は手を下さず人を雇い殺しに来ることだって十分ある。よってノエルにとって自身に敵対した人物と言うのは息の根を止めておくに越したことは無いと考えていた。
だが今すぐ現在の依頼をほっぽりだして自宅に行くこともできない。精々が弾薬を補給する事位だった。
依頼終了日。その日は幸い大したモンスター襲撃も無く都市へ帰還する事が出来た。
早速ノエルはエイリス達に連絡を取り、会う約束を取り付ける。事前に今日には依頼を終了し第三都市に帰ってくることは知らせていたので会う約束と言っても細かな時刻や場所のすり合わせ程度だ。
「エルフィスタワーの二階…シーカーの食堂ね」
『おや?ご存知でしたか?』
『前に駆け出しシーカー向けの用品店の店主と食事したくらいよ。でも色んなシーカーに対応できるように価格帯も幅があったし悪くない店よ』
待ち合わせに指定された場所は以前グリスと食事した店だった。シーカーオフィスの系列店であるその食堂は勿論個室があり、会談等にはもってこいの場所である。その場所で騒ぎを起こすという事はシーカーオフィスに喧嘩を売るも同然の行為だからだ。相手と穏便に話すためにこの場所を利用する者も数多い。
「さて、詳しい話を聞きに行くとしましょう」
ノエルがエルフィスタワーの二階にある食堂に到着し、名前を告げると先に来ているはずのエイリスとリーナの待つ個室に案内される。
「お待たせ、そしてありがとう」
「別に構いませんよ!」
「そうよ。大きな借りがあるんだしこれくらいの情報収集はお安い御用よ」
個室に居た二人は一足先に飲み物等と前菜のようなものを取っていた。私が来るよりももっと以前に到着していた為お腹が空いたのだろうとノエルは考え特に気にしなかった。
「話す前に食事にしましょう?軽く食べたけどお腹空いてるのよ」
「ここの食事は私が持つわ。でも遠慮はして?」
「「善処します」」
「はぁ…やれやれね」




