第36話:ノエルとはどんな人間か
エイリスが中に案内した男はしっかりとした高級そうなスーツを着用しておりノエルを値踏みするような目線で見た。
そんな目で見られたノエルだが。その程度の事でエイリスの商談をお釈迦にするわけにもいかず、商人や交渉人なら相手の連れている人間の事を調べるのは当然だと思い。特に気にしなかった。
「お嬢様。お久しぶりでございます」
「やめて、殆ど貴方達とは関係を持ってないのよ?今回の事もただの取引相手としてよ」
「そうも行きません。ですが、ひとまずは交渉に移りましょう」
「では早速…おね…ノエルさん異物を出していただけますか?」
そう言われたノエルがリュックから持って来ていた情報端末を全て出していく。一山程の異物を出しノエルの手は止まった。
「これで全部ね」
それを幾つか取って軽く調べだした男は眉をひそめた。
「一度詳しく調べたいところですな…」
そう言われたノエルは少々表情を変える。ノエルにとっては時間がかかるのは問題ではあるが、大した問題ではない。だがその調査は当たり前だがただではない。そんな事はノエルでも知っている。それで異物の買い取りの値段が減るのはノエルにとっては本末転倒だ。それならば適当な異物買取業者に持って行った方が良いだろう。
「おや、何か不都合でも?」
「持ち込んだ者として言わせてもらえれば少し…ね?別にそれが偽物って言ってるわけじゃないわ。それくらいこの交渉に来たあなたなら分かるでしょうし」
「ふむ、確かに。では何が問題なのです?」
「調査に時間がかかるのは分かる。それは仕方ないわ、シーカーオフィスの鑑定所なら三日は待つのが普通だもの。いくらでも調べていただいて構わないけれど、それで私への支払い額が減るのは嫌よ?
私はエイリスと懇意にしているしそれで持って来たの。それで鑑定額がこれだけかかったので貴女への支払いは0ですなんて事になったらたまったものじゃないわ。
それだけよ?勿論他の異物買取業者より高値で買ってくれると期待しているもの」
それだけ言うとノエルは、これ以上此処に居ても私は不要と判断し部屋を出て行った。
「ふむ…表現の難しい人ですね」
そう言った男の言葉にエイリスは苦笑いをする。確かにそうの通りだと感じた。ノエルは身内にはかなり優しいし便利を図ってくれる。だがそれ以外の人間には点で冷たい。
「炎のような方ですよ。形がつかみにくい方です」
「それは何とも的確ですね」
「最近はもっと普通ですけどね」
そんな自分の事を噂されてるとはつゆ知らないノエルはエイリスの店の商品を眺めていた。保存袋や保存容器を幾つか購入するためだ。
昨日の異物捜索でそう言った物の必要性を感じ大型の物や小型の物を購入する事にした。とは言ってもエイリスは交渉の真っ只中なので帰ってきたらオススメが無いか相談する事にした。
『ノエルはどんなオーダーメイド強化服がいいですか?』
『そうね…このコートの機能が欲しいわね』
『そうそう、そう言った事をリスト化しておくと良いでしょう。強化服を作る際にどういった物が良いか聞かれますからね。事前に決めておきましょう』
『そうね…後はあれが欲しいわね。人工斥力場発生装置あれがある無いでは強さに差がありすぎたし結構便利じゃない?』
そう言って貰ったばかりのアームマウントに搭載されている人工斥力場発生装置を発動させて徒手空拳の真似事をし始める。
『これその物が一種の攻勢防壁です。この斥力場で攻撃する事も可能なようですし汎用性が高いですから』
『防壁だけに使うには勿体無いわよね』
『元々は我々の文明の作り出した技術だと思います。それを現代の技術者が再現したのでしょう』
『そうなのね。まぁ別に不思議は無いけれど』
『ただ、それを頼りすぎないようにしてくださいね。対人口斥力場発生装置弾と言う人工斥力場発生装置を貫通する事に特化した特殊弾も存在します。実体剣に至っては殆どの製品が人口工斥力場発生装置対策を施された物ばかりです。勿論粒子刀もそうですがCSS亜高速粒子刀は制限外ですね』
そもそも制限装備と言うのは都市からの信頼が足りていない者に対しての制限と言える。都市の防衛隊が使用する人工斥力場発生装置に影響を与え都市システムに影響を与えかねないからだ。シーカーランクは都市への貢献度とも言えるため都市への貢献がされていない相手に。自分を殺すかもしれない相手に自分を殺せる武器を与えるわけにはいかないという事だ。
『制限装備って具体的にはどれくらいの実力があれば制限外になるの?』
『対人工斥力場発生装置弾を発射可能な銃であれば…最低ラインで50と言ったところでしょう。エイリスが今回の取り引きを上手く終えたらある程度の装備は使えるかもしれません』
『なぜ?』
『今回の取引先がそれだけ大手の企業という事です。これ以上は聞かない方が良いかもしれませんよ?エイリスのあまり聞かれたくない話だと思われますので』
『じゃあ聞かないでおくわ。
ねぇ。興味本位だけど、もし何処かの都市に敵対しようとする者が入手方法は兎も角制限装備を手に入れて都市に攻め入ったら誰が止めるのよ?』
『都市を運営する三大企業には私兵がいるんですよ。以前にも言いましたよね?黒い独特の外套の者達の事』
『えぇ、聞いたわね。それが私兵?』
『そうです、その者達は特別な装備を与えられ都市や企業への敵対者を壊滅するそうですよ?ノエルは既に一人のその私兵こと粛清者と呼ばれる存在を目撃していると思います』
『何時?』
『テンリ旧陸軍基地異跡です。スカーレットローズと呼ばれている機体を使っていたようですよ』
そう言われてその強さに納得した。確かにあの強さならそこら辺のシーカーなんて鼻歌交じりに屠れるだろう。
『上には上がいるものね』
『あの時はかなり手加減していたと思われますけれどね』
ノエルがフェンリルと暇つぶしに雑談をしていると、エイリスが部屋に入ってきた。疲れた表情からどうやら交渉は終わった様だった。
「終わったの?」
「はい!さっき玄関まで送ってきました」
「そう、鑑定は何時に終わりそう?あと買い取り額入金」
「そう時間はかからないと思います。入金の際は通知が入ると思いますし異物買取の明細は私から送りますので」
「じゃあそれを待つことにするわ」
その後ノエルは。幾つかの商品を購入したり回復薬や補給しておいた方が良さそうな物品を購入してエイリスの家を出た。
ノエルは若干の気疲れを癒すため以前来店したカフェに向かうことにした。
前と変わらない様子の店内に入るとマスターの男にコーヒーとサンドイッチを注文して前回と同じ席に座る。
相変わらず人が入店している気が全くしないこのカフェで過ごしていると薪暖炉に火が付いている事に気づいた。今時珍しい本物だがそこまで熱くは無く、完全に趣向品の物だがノエルは何故か安心感を覚えた。
薪に揺れる火を眺め続けるノエルに、フェンリルは疑問を浮かべた。
『薪暖炉がどうしました?』
『なんだかね、火を見ていると落ち着くのよ。懐かしい気持ちが何故か沸くのよね安心感があるって言うか…今日あった気にしてたことが浄化されていく感じよ』
『そうですか…ほら、サンドイッチが来ましたよ』
この日ノエルは遅くまで暖炉の火を見続けて居た。フェンリルが帰るのをすすめるまで。




