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土竜は光を知らない  作者: 神錆京香
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プロローグ ハルキウの最期

 夢で見たことを加筆修正して新しい作品としてまとめてみました。

しっかりと完結させます。

 【グレゴリオ暦2479年】

旧ウクライナ共和国領・中部 [ハルキウ]

 美しい街並みが広がっていたであろうその地には、かろうじて文明の残り香を感じうるだけの一面の瓦礫の山しかその瞳には映らない。

うっすらと周囲を囲う薄い霧は、わずかに露出する肌をチクリと刺激する。

 積みあがった瓦礫の中にポツリと一棟、白くそびえる影が見える。

それはこの地が街であった事を物語る最後の造形物。

80メートルを超える高さの四層の鐘楼の塗装は剥げ、頂点に刺さる十字架のそれは旧時代の大聖堂。

古い時代には幾千幾万という人々が懺悔し、祈り、祝福をされただろう。

だが、今はその内部で描かれた壮大なフレスコ画も埃をかぶって久しい。

部屋の隅に乱雑に積まれたベンチやその壁にはべっとりと赤黒いシミが残っていた。


 日々の生活の中で最も心地よい時間は何か?

それはやわらかいベッドに暖かな毛布をかけて、少し高い枕に頭を埋めて幸せな夢を見ているときだろう。

その時だけは見たくもない現実に、思い出さなくていい戦いの惨状に、考えなくていい亡き愛する者の死に際に悩まされることがないのだから。

だが、そんな夢幻の時間はまさに夢のように泡沫に消えてなくなる。

 腰に伝わるわずかな振動、そして鳴り響く警報。

優しく暖かい時間は最悪な目覚めと同時に終わりを告げた。


「非常呼集! 非常呼集! 第4機動防衛部隊は総員、完全装備で至急第七格納庫へ集合。アヤカシの中規模の群れが接近中至急・・・・・・・・・・・」


 赤く点滅する非常ランプと耳をつんざく警報音の中で、自身が所属する部隊が呼び集められる。

体に染みついた動きで起き上がると急ぎ服装を整え、欠員のいないことを確認した小隊長に続いて、駆け足で他の隊員たちでごった返す通路を同じ部隊員らと合流し駆ける。

週に数回、時間は不定期に告げられる非常呼集は隊員たちの精神をひどく削るが、彼らはそれを苦ともせず常に厳めしい顔でそれを誇りとしていた。

 五分後、防衛指揮所の通達通り、第4機動防衛部隊は一人の欠員も出さず完全装備で第七格納庫へ整列を完璧な状態で完了し、指揮官の到着を不動の姿勢で待機していた。


「総員! 敬礼!」


 格納庫入口にシワの一つもないパリッとした軍服を着た士官が現れる。

軍靴を鳴らしながらきびきびと揃った部隊員の前に立つ。

上唇に髭を蓄えた老士官は彼らを一瞥すると、満足したように頷き一声。


「傾注!」


 老いを感じさせないよく通る声で、眼下に並ぶ部下らに状況を説明する。


「本日04:14に我らが故郷であるハルキウの監視網にアヤカシの反応を感知。中規模の群れと予想される。現在、第3第4遊撃防衛部隊がこれを撃退中である。我々の仕事はいつも通り友軍が討ち漏らしたアヤカシの殲滅だ。いつも通りの仕事、いつも通りの装備だ、何も変わるまい! いつも通り勝利の凱旋を私は期待する! 総員持ち場に着け! 出撃だ!」


 ハルキウの防衛隊はいつも通り出撃していった。

彼らは防衛隊の中で最も戦死者の少ない部隊。

指揮官の彼が誇る至上の部下たちである。

いつも通りアヤカシの首を持って凱旋するはずであった。



 ハルキウ防衛指揮所・管制室


「こちら管制室。緊急信号を受け取った。」


 隊員たちは慌ただしく動き回り、怒号と警報が鳴り響く管制室に特殊な信号が届く。

それは緊急事態を報せる信号。

最前線にて防衛を務める部隊からの緊急連絡が入った。


「こちら部隊コード・トリトン。国際救難信号を受信した。鉄鋼艦からのものだ! そちらに繋ぐ!」


 いつも通りの防衛のはずだった。

その一報が彼らの運命を決定づけた。


「了解。繋げ!・・・・・・こちらコード3807、ハルキウ管制。繰り返す、こちらコード3807、ハルキウ管制。救難信号を受信した。国籍コードと識別コード送れ。」


 ノイズの酷い無線、雑音が続く。


「こちら・・・・・・コード49・・・・・ビスマ・・・級地上鉄鋼艦・・・・護衛艦アントン・・・・ミット。緊急コー・・・・17の発れ・・・・・アヤ・・・・の襲撃・・・・救援求む・・・・・───」


 ノイズと爆音によりほとんど聞き取ることができなかったが、アヤカシによる襲撃を受けた鉄鋼艦からの救援を求める無線であった。

数秒後、件の鉄鋼艦から座標が送られてくる。

管制員はそれを受け取ると、迷うことなく総合指令部へ回線をつなぎ対応を待つ。

 二分後、齎された報告は攻撃隊の出撃の許可と鉄鋼艦の救出を命じる一報。

管制室はさらに慌ただしくなる。



 下級階級の労働者の朝は早い。

畜農問わず、彼らはその一日を暮らしていくために汗水垂らして働く。

手に入るのは死なない程度の給与だが、それでも彼らは働く。

少しでもより良い生活を手にするために。

 ここは下級階級の住民が暮らすアーコロジーの上層階。

畜産業や農耕業に従事する彼らは奴隷と機械人形を用いて麦を植え、ジャガイモを収穫しトウモロコシを与える。

自らが口にすることが叶わないそれを、中上級階級の者たちに与えるために彼らは作る。

 鶏の鳴き声で起床し、人工光が消えると同時に眠りにつく。

今日も一日生きるために働く。

生まれた時から定められた運命に疑問を持つことなく彼らは奴隷を使役する。

今日もそんな一日が始まるはずだった。



 その日、ハルキウからの定期通信が止まった。

それは東欧に広がるアーコロジーに緊張を走らせた。

ウクライナが誇る三大アーコロジーのひとつが陥落したことと同じ意味を持つからだ。

その武力は並みのアーコロジーでは足元にも届かない力を持ち、生産力も人口も申し分のない大都市であった。

それが屈したのだ。

世界は光をまた一つ失った。

これでもVaxシリーズの世界線と同じなんです・・・・


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