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フラグビンビンなんですが……

「……すごい」


キラキラと天井に輝くシャンデリア。それを磨き上げられた大理石の床が映している。

四重奏の軽やかな演奏に迎えられて階段を登り会場へと入ると、これまた煌びやかな衣装に身を包んだ貴族たちが談笑していた。

テーブルの上には色とりどりのお菓子や飲み物が並べられていて、てっきり小規模なお茶会だとばかり思っていたがこれはまるでパーティだ。


「す……すごい」


辺りを見渡してみても美男美女の高貴な方々ばかりで、中身は平凡な女子高生の私はつい面食らってしまう。

皆知り合い同士なのか会話をしながらお茶やお菓子を楽しんでいる。


「あら……、リーザ様では?」

「本当ですわ。今日もお美しい」


 私の登場に気づいたのか、貴族たちが遠巻きに私のことを見ている。

(そっか……、一応ゲームの設定上ではリーザはめちゃくちゃ美人ってことになってるもんね)

 さっき鏡で見た限りでは特に綺麗だと感じなかったのは、ある意味見慣れている自分の顔だからかもしれない。

しかし、皆から向けられる羨望の眼差しがなんだかこそばゆい。

クラスの中では完全に地味な位置にいたから視線が集まるのに慣れてないのだ。

きっと本来のリーザだったらそんな中優雅に振る舞うのだろうが、中身はただのオタク女。

視線から逃げるようにして会場内へと足を進める。

しかし、話題の中心であるようで何かと注目されてしまっているようだ。

だというのに私を仲間に入れてくれるような人はいない。 

周りを見渡してみても数人のグループがすでに出来上がっている。

どうやら完全に私は完全に出遅れてしまったようだ。


(ま、待って……。令嬢ってこういう時一体何すればいいんだろう?)


連れられるがまま来てしまったもののまだこの世界に慣れていない。

第一、リーザはいつもどのように振る舞うのだろうか?

中身はただの女子高生なのだ。あまりにも場違いすぎる。


(あああ、無理無理! なんだか緊張する! やっぱり帰ろう! まだ馬車も外にいるよね)

耐えきれず回れ右をした時だった。


「あらあ? リーザ様、お一人ですの?」

「ひっ……!」


 いきなり声をかけられて飛び上がる。

恐る恐る声をした方を見ると、同じように着飾った女性たちがこちらを見ていた。

どうやら知り合いらしい。


「ご機嫌麗しゅう、リーザ様」

「あ……え、ええっと……!」


(えええええ、こういう時どうすればいいのおお!!)

慌てふためく私に、またもやリーザの記憶が流れ込んでくる。

(え……っ?)

驚く間も無く、私はスカートの端をそっとつまみ、うやうやしく一礼した。


「ご機嫌よう皆様。今日もお元気なようで何よりですわ」


(な……なんだこれえええ!)

勝手に体と口が動いてびっくりする。

どうやらリーザとしての記憶は体に染み付いているらしい。

便利な体だ。

断片的しか使えないみたいだけど、これなら生活するには問題なさそう。

(ありがたい……けど。びっくりした……)

 胸をなでおろす私に令嬢が話しかける。


「あら……? 今日はアルフレッド様はご一緒ではございませんの?」

「ああ。先に行くって言って……」

「しっ!」


令嬢の一人のつぶやきに答えようとすると、もう一人が手を出して静止する。


「今のリーザ様には酷でしょう?」

「あ……っ! 申し訳ございませんわ。リーザ様」

「へ……っ? あ、あのどういうこと……?」

「い、いえ。なんでもありませんわ。リーザ様……。その、気を落とさないでくださいませね」

「え……。あ、はい」


 慌てふためく私をよそに、令嬢たちはそそくさと立ち去っていった。


「い……一体なんだったんだろ」


 首をかしげるが、答えが見つかるはずもなかった。


「まあ……アルフレッド様よ!」


 周りから黄色い声が上がる。

 その視線の先にはアルフレッドがゆっくりと歩いてくる姿があった。


「はあ……本当に今日もかっこいいですわ」

「なんでも公務も完璧にこなしてらっしゃるとか」

「さすがですわ。私、ちらっと見ましたのよ! 近衛兵との研修試合でアルフレッド様が鬼神のごとく、勝ち進んでいらっしゃったのを」

「まさに文武両道ですわ……はあ、素敵」


 令嬢たちがうっとりとしている表情とは裏腹に、アルフレッドは険しい表情だ。

 一体どうしたんだろう。


「今日はお集まりいただきありがとうございます」


 広い室内に凛とした声が響き渡る。

 その声色はまるで突き刺すようで茶会の雰囲気とは似つかわしくない。


(アルフレッド……?)

 中央に伸びる白い大理石の階段の踊り場にアルフレッドが立つ。

 なんだろう。私、すごい睨みつけられているような気がするよ。


「おいでいただいたのは言うまでもありません……、皆様にお伝えしたいことがあるからです。お気付きの通り、リーザ嬢とのことです」

「えっ……」


 鋭い眼差しが私に一気に注がれた。


「な……なに?」


 会場も心なしかざわついている。


「ご存知の通り、私アルフレッド・アシュフィールドは幼少時にリーザ・シャルトワースと婚約を結んだ……」


 ゆっくりと階段から降りてくるアルフレッド。

 その行く先はどうやら……私?


「え……ええ?」


 周りを見てみればいつの間にか水を引いたように貴族の姿が無く、皆遠巻きに私のことを見つめている。


「な……何? 何が始まるの?」


 すがるように辺りを見渡しても皆、私から視線を外すばかりだ。

 ひょっとして、これから何が起きるのか気づいてるの?


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