本当にロマプリの世界なの?
しかし己を見失うくらい舞い上がる私にアルフレッドは冷たい声色で話しかける。
「つけあがるなよ? リーザ。確かに周りはお前を俺の婚約者にしたいらしい。お前は性格に難ありだが家柄だけはいいからな」
「ま……まあ」
数百年続く名家らしいので、周りが舞い上がってる……という設定なのだ。確か。
アルフレッドは歯をぎりりと噛み締める。
「だが俺は納得してない。お前などと結婚出来るか!」
「え……、でも両親たちはそれぞれ契約の議を済ませてるはず……。そう簡単に反故には……」
率直な私の言葉にアルフレッドはさらに私を睨みつけた。
「……俺は絶対に阻止してやる。お前に構っているのはその方が外聞がいいからだ。勘違いするな」
冷ややかな眼差しと私を切り捨てんばかりの殺意に満ちた声色の思わず背筋に冷たいものが流れる。
「……っ!」
「お前は猫を被ってるのが上手いが俺は騙されないぞ。そうへらへらと出来るのも今のうちだ。絶対に俺はお前と結婚などしないからな!」
「……あっ、どこへ?」
マントをばさりと翻してドアに向かうアルフレッドを呼び止める。
「俺は帰る。お前を待ってなどいられるか。茶会には勝手に一人で来い! いいな!」
そう言い捨てると、乱暴にドアが閉まり、靴音が遠のいていく。
「は……」
部屋に取り残された私はへなへなとその場に座り込んだ。
「……っ!」
ぶるぶると震えながら落ち着かせるように両手を頬に添える。
「……っ。最高だった……」
曲がりなりにも最推しに会えたのが嬉しい。
きっと夢なのだろうけど、まだ夢から覚めないでいて欲しいと思うのは率直な感想だ。
いや……夢じゃない。
だってあまりにもリアルすぎる。
めちゃくちゃ怒ってたけど、いい!
最高!
オタク冥利につきる。
「わ……私本当にロマプリの世界に転生してしまったんだ……」
誰もいない部屋の中で私のつぶやきに答える者はいない。
まさか異世界転生をキメるなんて、乙女ゲームもびっくりの現実に私は神様に最大に感謝した。
そうして放心する私を心配したのか、数分後メイドたちが部屋の中に入ってくる。
夢見ごこちの私に入れ替わりメイドたちが入って私をドレスアップしてくれた。ありがたい。
長い金髪は緩やかに巻かれ、細工の細かいいかにも値段の高そうなアクセサリーがつけられる。ドレスもふんわりとしたオーガンジーとかなんか高そうな布だ。
夢か誠か……。自分の状況に困惑しつつも、胸の高鳴りが収まらない。
なんと言っても推しキャラが目の前に現れたのだ。
ドキドキしないほうが無理ってものだ。
(じゃ……じゃあ他のキャラとも会える……?)
期待に胸を膨らませるも、現実に気づいて愕然とする。
「あ……、ダメだ。待って待って……! だって私今、リーザじゃん!」
何を叫んでいるのだと言わんばかりのメイドさんの視線が冷たいが、なりふり構っていられない。
だって気づいてしまったのだ。
いかんいかん!
(わ……私、このままじゃ死ぬわ!)
リーザは主人公の最大のライバルとして現れ、どのルートでも数々の悪事を働いて徹底的にいじめ抜く。
そして、どの攻略でも最後にはその悪行がバレて、悲惨な最期を迎えるのだ。
いわゆるざまあ展開というやつで、プレイしている分には胸のすく想いをしたのだが……。
自分がその立場になったというのであれば話は別だ。
よくて幽閉、悪くて処刑。どちらにしても未来は暗い。
「ど……どうしよう!」
慌てふためく私の悲鳴も虚しく、有無を言わさないメイドさんに私は連れられていく。